前回に引き続き、シリーズ「日本の離島に目を向けよう」を扱っていく。
今回は、離島に関する国の政策・制度やその変遷について順に解説していこうと思う。参考とした文献や資料は各項目に記されているので、そちらも参照されたい。
離島に関わる制度・計画
ここでは、『離島振興の現況と課題』(国立国会図書館 リンク)を参照しつつ、大きく3点に絞って解説していく。「海洋基本計画」「国土形成計画」そして「離島振興制度」だ。前者2つは離島を主題としないものであり、関連法における言及程度のものである。
離島政策のの主たるものは、3つ目の「離島振興制度」だ。
海洋基本計画
平成19年に制定された「海洋基本法」に基づくもので、海洋に関する理念や政策を定めているものだ。この中で離島の「保全・管理」「発展の促進」「振興」を推進することが必要であることが明記されている。一方でこれについては形式上の意味合いが強く、これらの事項を遂行する組織等は設置されていない。
国土形成計画
旧国土総合開発法を平成17年に改正して制定された「国土形成計画法」によるもので、「海域の適正な利用と保全」の項目において離島について言及がある。ここでも離島の困難な状況や役割に触れ、定住・雇用促進等の振興や産業・観光振興、自然的・歴史的特性を活かした配慮した振興策が推進されている。
離島振興制度
前述の通り、この制度こそが我が国の離島政策の主たるものである。一口に「離島振興制度」というが、これに関連する法律は5つ存在する。
- 離島振興法
- 奄美群島振興開発特別措置法
- 小笠原諸島振興開発特別措置法
- 沖縄振興特別措置法
- 有人国境離島法
また直接この制度とは関係ないが、離島航路整備法(シリーズでも後に扱う)において離島航路事業に関する助成措置が行われている。
奄美群島、小笠原、沖縄については離島振興法とは別に法律が整備され、本土との遠隔性や戦後の声条約発効後しばらくも占領下にあったことなどを鑑みて個々の法律で対応がなされている。
有人国境離島法は2016年に成立・2017年に施行されたばかりのもので、離島振興法の補完・増強の意味がある。これについてもシリーズで後に解説していく。
主眼となる「離島振興法」については事項で扱う。
離島振興法
ここからは、『離島振興の現況と課題』(国立国会図書館 リンク)、『制度から見た離島におけるインフラ整備事業の位置づけ ─離島振興法にみる公共事業をめぐる議論の変遷─』(大石麻子 2014 リンク)と総務省資料『離島振興法の概要』(リンク)を参照しつつ、解説していく。
なお、離島振興法の原文はこちら。
制定前史
前作でも解説したが、島国である我が国にとって離島は孤立的で後進的な社会などではなく、海上交通が主要な時代にあっては経済的にも政治的にも大変重要な地域であった。だが明治期に汽船への移行と鉄道の発達によって次第に後進地域に転落していく。
こうした背景にもかかわらず、戦前の離島に対する政策は甚だその振興に貢献しているとは言い難かった。市町村の町村長の任免が府県知事の権限であったことや尋常学校(現在の小学校)の設置免除など、一向に不利な行政システムが導入されていたのである。
日本の離島政策が前進することは、戦争の終結を待たなければならない。「離島振興法」制定までの経緯のなかで、それを加速させることとなった要因を、大石氏は3点にまとめている。
1. 国土開発の対象としての着目
先述の「国土総合開発法」制定により、隠岐や対馬、種子島と屋久島が開発対象となったことで、離島開発への機運が高まったとされている。
2. 生活水準の低さを問題視した県の土地改良事業
ここで大石氏は佐賀県の例を挙げている。
佐賀県は,当時アメリカ占領軍の佐 賀県民政部にいたノーリン中尉が県内離島の一つで ある小川島を視察してその生活水準の低さに驚き, 佐賀県知事に話したのが契機となって県の出先機関 や市町村関係者により1950(昭和25)年に離島振興 委員会が発足し,県単独事業に取り組んだ。この 動きにはその後の離島振興の思想との共通点が多く みられる。
『制度から見た離島におけるインフラ整備事業の位置づけ ─離島振興法にみる公共事業をめぐる議論の変遷─』(大石麻子 2014 リンク)
こうした動きはのちに離島を有する各都道府県にも波及し、「地域の住民利益を優先させる開発計画を定めるべき」との地方自治体による運動に発展していく。
3. 「離島航路整備法」の制定
これについては先述の通り、後日のテーマに譲りたい。この法律は離島振興法制定の1年前に制定されていることから、国が助成事業を行う重要な根拠になったことが指摘されている。
制定の経緯
離島振興の立法構想は、昭和26年に島根県によって立案された「離島開発法要綱案」が初出であるという。この構想に長崎県が賛同し「離島振興法案」としてまとめられ、最終的に東京・新潟・鹿児島も加わった5都県の知事によって「離島振興対策協議会」が設置され、これらの地域の離島選出の国会議員による超党派での議員立法として上程されることとなったという。これらは総務省資料や国交省資料にも同様の記載がある。
法案は超党派で推進されたことから政党間の軋轢なく衆参両院で全会一致による成立を見たが、「離島」の定義(前作参照)やそもそも「離島」そのものへの特例の必要性に疑問の声が上がるなど、少なからず議論もあったようだ。当時の議論は、現在の制度体系にも大きく影響している。
離島振興法の概要
ここからは具体的な内容について解説していく。
離島振興法は10年間の時限立法として制定されたため、10年ごとに内容の必要な改正が行われて現在に至る。またその目的として以下が示されている。
我が国の領域、排他的経済水域等の保全、海洋資源の利用、自然環境の保全等に重要な役割 を担っている離島について、産業基盤及び生活環境の整備等が他の地域に比較して低位にある 状況を改善するとともに、離島の地理的及び自然的特性を生かした振興を図るため、地域におけ る創意工夫を生かしつつ、その基礎条件の改善及び産業振興等に関する対策を樹立し、これに 基づく事業を迅速かつ強力に実施する等離島の振興のための特別の措置を講ずることによって、 離島の自立的発展を促進し、島民の生活の安定及び福祉の向上を図り、あわせて国民経済の発 展及び国民の利益の増進に寄与
総務省資料『離島振興法の概要』(リンク)
この内容は、前述の海洋基本計画や国土形成計画を参照したものと思われる。実際の内容を見てみよう。
図の通り、まず「離島振興対策実施地域」と「離島振興基本方針」を国が指定し、それに基づく「離島振興計画」を各都道府県が策定するものとされている。なお平成25年度からは指定の都道府県は28に及んでいる。
また離島振興の推進措置として、以下が挙げられている。
- インフラ整備や産業振興などの補助や補助率のかさ上げ
- 医療の確保・補助
- 税制上の特例措置
- その他農林水産や教育、交通、文化などでの配慮
さらに直近の平成24年改正においては離島に対する国と国民の役割やその現状が明確化され、基本方針や振興計画に新たに「就業、介護、エネルギー、人材」が盛り込まれこれらに関する財政上の措置も追加されたほか、ソフト施策の充実化も明記された。
また「離島特区」を検討することも明記されるなど、行政改革の一端ともとれる内容もある。
こうした具体的な措置が多く明記されている離島振興法は、時代に即した進化を遂げようとしているのだ。
次弾では、その中でも特に問題とされている「航路」「交通」の観点から解説していく。
コメントを残す
コメントを投稿するにはログインしてください。