こども関連法案が衆院通過 3つの「ない」を見逃すな ―こども政策特集【6】

「誰のための政治をするのか」という言葉は、度重なる災害や戦乱、疫病がまるで中世のように乱発し、混乱する社会の中においてもはや陳腐なものなのかもしれない。

少なくとも筆者は、政治家の多くが「こどもたちのため」と口にしてくれることを願ってやまない。

子ども政策の司令塔となる「こども家庭庁」を設置するための法案は、衆議院本会議で採決が行われ、自民・公明両党や国民民主党などの賛成多数で可決され、参議院に送られました。

「こども家庭庁」は虐待やいじめ、不登校それに子どもの貧困などの解決に向けて幅広く対応するため政府が来年4月の設置を目指しています。

「こども家庭庁」設置法案 自公国民などの賛成多数で衆院通過|NHK NEWS

5月17日に衆議院本会議で採決されたのは、内閣提出の「こども家庭庁設置法」案と、自民党提出の「こども基本法」案の両案だ。既に両案とも参議院の委員会に付託され、成立が確実視されている。

筆者は本サイトで既に何度も両案について解説している。シリーズ「こども政策特集」を参照されたい。

本稿では改めて、これらの法案に存在する致命的な問題点を整理する。引き続き参議院で行われる議論を理解するための資料となれば幸いだ。

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1つ目の「ない」:予算

我が国におけるこども政策で問題視される点の代表的なものに、「予算」がある。

2018年度の我が国の教育予算は、対GDP比で4%だ。それに対し、OECD各国の平均は4.9%である。

また同年度のいわゆる「こども関連予算」は、対GDP比で1.65%。前年度のイギリスやスウェーデンは3%。およそポイントにして倍近い差がある。

こうした事態に対する批判は長年存在し、今国会でもたびたび議論に挙がっている。当の岸田文雄内閣総理大臣は今年初め、以下のように発言している。

[東京 25日 ロイター] – 岸田文雄首相は25日午後の衆院予算委員会で、2023年度設置予定の「こども家庭庁」を中心に子ども関連予算を倍増したいとの考えを改めて示した。三木圭恵委員(維新)への答弁。

三木委員は、同庁予算よりも文部科学省の予算拡充を優先するよう要望。これに対し首相は「子どもをめぐる課題は福祉もあれば、いじめ、孤独、などさまざまなあるが、関連データは各省にばらばらに存在する。共通ビッグデータをつくることにも、こども家庭庁の役割がある」などと説明した。

こども家庭庁中心に子ども予算倍増したい=岸田首相|ロイター通信

「倍増」とはなかなか思い切った発言だが、これは「どのようなフレームで、何を財源として、いつまでに倍増する」といったことを含めた表明ではない。

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「こども基本法」案には以下のような条文案存在する。

第十六条 政府は、こども大綱の定めるところにより、こども施策の幅広い展開その他のこども施策の一層の充実を図るとともに、その実施に必要な財政上の措置その他の措置を講ずるよう努めなければならない。

●こども基本法案|衆議院

ここでも、どれほどの”財政上の措置”が行われるべきなのか明記されていない。

この点について、今国会では何度も槍玉に挙げられている。例えば先月の衆議院内閣委員会で、立憲民主党の中谷一馬議員が「倍増」発言について野田聖子担当大臣を追及。

野田大臣は「子ども政策の予算については期限・規模ありきではなく、体系的な取りまとめにより将来的には倍増を目指したいというもの。安定財源を確保した上での財源充実が重要。こどもに関する予算は様々で、包含するような政策は体系的な整理をしたい。」と述べるにとどめた。

要するに、そもそも何を”倍増”するのか、掛け算の最初の値すら定義できていない状況なのである。

野党各党はここを政府与党のアキレス腱と見て、積極的に政策論争を展開。立憲民主党は提出した独自法案の中で、「子ども施策に係る予算を対GDP比3%以上(現状より倍増)にする」ことを明記。国民民主党は教育財源を国債発行によって賄う「教育国債」を提言し、日本維新の会の国会議員は、たびたび早急に予算をつけることを国会で主張している。

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国会における予算審議は、各省庁が取りまとめる「概算要求」を前提としている。新たな省庁の議論をするのであれば、財源を明記した予算フレームを想定するのはある意味において当然のことだ。

2つ目の「ない」:権限

「こども家庭庁」は新たに設置される省庁であるが、このこども家庭庁が所掌することになる役割は元々内閣府と厚生労働省で省庁横断的に割り振られていたものだった。

具体的には、児童虐待防止・保育所・障害児支援・母子保健・ひとり親家庭支援を厚労省から移管。少子化対策、子供の貧困対策、認定こども園、児童手当などを内閣府から移管する。

一見すると「こども」に関わる政策を全てカバーできているように見えるが、もうお分かりだろう。重要な視点の一つである「教育」がない。

教育を所掌する省庁はもちろん文部科学省であり、実際こども家庭庁とは幼児教育・いじめ対策の部分で連携することとされている。しかし、肝心の義務教育が移管されないことで、新たな「縦割り」を産む可能性も指摘されているのだ。

兵庫県明石市の泉房穂市長も、以下のように批判している。

泉市長は、子育て支援策を相次いで打ち出してきた立場から、保育所や幼稚園、認定こども園などの所管省庁や施策がそれぞれ異なる現状を指摘し、「子ども施策の全体を所管する省庁は必要」と強調。ただ、義務教育の政策が文部科学省に残ったままの法案については「権限なしに政策は進まない。文科省が別なら、新しい組織をつくる意味はない」と切り捨てた。

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こども家庭庁「権限ないなら、つくる意味ない」 泉・明石市長、義務教育政策の移管を主張|神戸新聞NEXT

立憲民主党・日本維新の会もそれぞれが提出した独自案において、幼保一元化を念頭に置いた義務教育の移管を提言している。

また、こども家庭庁は厚労省・内閣府から移管した政策に関連する事柄について、文科省を含む省庁に「勧告権」と呼ばれる強い権限を有する。

だが実はこの「勧告権」、省庁間において過去に使用された例がほとんどない。理由はシンプルで、具体的な規定や法的拘束力が不明確であったり、そもそも霞ヶ関に軋轢を生みかねない事態を避けようとしてきたことがある。

いじめや児童虐待など、命や権利に関わる部分については本来多角的な視点で全政府的に取り組むべきだが、その司令塔機能を望むことができないのだ。

そこで必要になると考えられるのが、「第三者機関」である。

3つ目の「ない」:第三者機関

新たに作られるのはこども家庭庁以外に、関連する機関がある。”こども家庭審議会”もその一つだが、これはあくまで首相の諮問機関で、担当閣僚などが参加するにとどまる。

本来であれば、日本財団などの各団体が「こども基本法」案を取りまとめた際に盛り込まれていたのが「こどもコミッショナー」と呼ばれる第三者機関の存在だった。

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審議会や協議会が政府関係者を中心に構成されるのに対し、第三者委員会(いわゆる「コミッショナー」)はそれ自体が独立した機関として、各行政機関に対する強い調査権・勧告権を有する。

政府から距離を保った組織であるため、そのメンバーも第三者である非官僚・有識者が入ることになる。発達段階のこどもは弱い立場にあり、自らの権利を自らの手で守ることが困難だ。選挙権もなく、ましてや何かしらの権利が侵害された場合には、裁判を起こしたり自ら行政機関に訴え出ることも難しいだろう。

そして、そうした事例は決して少なくない。例えばいじめや児童虐待が発覚するしないの瀬戸際で、学校や教育委員会、児相、自治体が適切な判断をすることができず、より事態を悪化させたケースも多い。

こういった場合に直面した時に、子どもの声を代弁し、子どもにとっての「最後の砦」として、政策が真に子ども目線のものになっているかチェックする役割を果たすのが、「こどもコミッショナー」である。子どもの権利条約批准国の多くが導入し、制度を活用している。

出典:朝日新聞

「こども基本法」は「こども家庭庁設置法案」と異なり、理念法的な側面が強い。条文も存在感を示すのは基本理念や行政機関の責務といった部分で、本来ここに盛り込まれるはずだった「こどもコミッショナー」は、そうした理念ーすなわち「チルドレンファースト」であり子どもの権利条約に謳われた思想を守るはずだったのである。

にもかかわらず、自民党内の保守派が強硬に反対し、この条文は消され、議論は先送りされることになった。

関連記事:自民党保守派の大きな矛盾 今こそ考える「こども基本法」の意義とは ーこども政策特集【2】

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子供にとって自らの訴えを直に聞いてもらえる場所がないのに、果たして本当の意味で権利擁護ができるのだろうか。

岸田政権の「聞く力」が試される

長年求める声がありながら、ほとんど進んでこなかったこども関連法案。ようやくここにきて成立の目処が立ってきている。

しかし物事は、近づいてきたからこそ見えてくる問題点も多いだろう。それを象徴するのが、やはり「こども家庭庁」の名称問題だと思う。

筆者も含めて多くのこども政策当事者が動き、名称変更を求め続けてきた甲斐もあって、野党議員からは何度もこの名称問題について政府側へ追及があった。

関連記事:立憲・中谷議員ら追及 こども家庭庁名称問題 国会で初論戦 ―こども政策特集【5】

今こそ試されるのは、政権が発足以来掲げてきた「聞く力」だ。政治家や官僚・学者といった「おとな」の声を聞くことももちろん大事なことである。だが、こども政策の当事者は紛れもなく「こども」のはずだ。

「ないもの」だらけの政策に、「家庭」の二文字は必要だろうか。何が求められていて、何が求められていないか、本当に吟味されているのだろうか。

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まだ議論は終わっていない。参議院での議論はすでに始まっている。すべての国会議員が参加し、未来志向の結論が出ることを願ってやまない。

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清水 あきひとおとな研究所 編集長

投稿者プロフィール

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おとな研究所 編集長
早稲田大学文学部 1年。こども若者政策メディア「madaminu」主幹。バイセクシャル。

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