AV新法の行方と当事者が語る法案の意義 ―「被害救済」の視点を見失うな

センセーショナルな言葉遣いを伴う報道が、時に元々の議論を混乱させてしまう。見えづらくなってしまう。

極めて稀なことでもあると思うが、国会においてリアルタイムで審議されている法案が多くの有権者の注目を集めている。

「性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資するために性行為映像制作物への出演に係る被害の防止を図り及び出演者の救済に資するための出演契約等に関する特則等に関する法律案(以下:AV出演被害救済法案)」だ。

アダルトビデオ(AV)の撮影や公表で生じた被害を救済するため、超党派の国会議員でまとめた「AV出演被害防止・救済法案」が27日、衆院本会議で全会一致で可決された。今後、参院での審議に移る。
法案は出演者の年齢や性別に関わらず、AVの公表から1年間は無条件に契約解除できることが救済策の柱。今後2年間に限り、契約解除できる特例措置もある。

AV救済法案が衆院通過、参院審議へ 1年間は無条件に契約解除が柱|朝日新聞デジタル

この法案そのものへの賛否と同時に、同時多発的な議論が多数巻き起こっている。

本稿ではそれらの経緯や推移を簡単に解説するとともに、この法案策定にも関わった当事者のコメントも交えながらその意義を見つめ直したい。

※当事者については個人情報の観点から、匿名での引用とさせていただきます。

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「成人年齢引き下げ」がすべての発端

法案の中身について触れる前に、ぜひすべての人に知っていただきたい事実は、「未成年取消権」という論点が根底に存在しているということである。

民法では,未成年者が親の同意を得ずに契約した場合には,原則として,契約を取り消すことができるとされています(未成年者取消権)。未成年者取消権は未成年者を保護するためのものであり,未成年者の消費者被害を抑止する役割を果たしてきました。成年年齢を18歳に引き下げた場合には,18歳,19歳の方は,未成年者取消権を行使することができなくなるため,悪徳商法などによる消費者被害の拡大が懸念されています。

民法(成年年齢関係)改正 Q&A|法務省

これまでは、18歳、19歳の者が親の意に沿わないままAVに出演した場合でも、その販売や流通を差止めることができた。だが今年4月から、民法改正で成人年齢が18歳に引き下げられた。そのため18歳・19歳が出演を強要される被害に遭う可能性が高まるとの懸念が、複数の市民団体から提起されたのである。

支援団体は3月に「高校生AV出演解禁を止めてください」キャンペーンを開始し、与野党の国会議員に訴えかけました。そのなかでも立憲民主党の塩村あやか議員が関心をもってくださり、国会質問を繰り返し行いました。

前出の当事者

この質問では、一部の国会議員から笑いの声が上がるなどの信じがたい光景が映し出されている。

https://twitter.com/emil418/status/1508378810248761346?s=20&t=hzzL5OX2nmqmWibtOtdLmw

3月末ごろに、AV出演被害当事者の声を読み上げられてから、多くの国会議員が関心を持ち、徐々になんとかしなければならないと思いはじめました。

岸田首相から「性的搾取はあってはならないもの議員立法を見守りたい。」という答弁があってから加速度的に展開し、与党は法案骨子イメージを作成しましたが、被害実態と乖離しており、多くの批判が寄せられました。

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若年女性の支援団体のヒアリングを通じて、AV出演被害者の視点の法文へと変化していったのです。

前出の当事者

民法改正はわかりきっていたのだから、当然こうした問題が起こることも予想できたわけである。ところが法案の議論を行っている現在は既に18歳が成人になってから2ヶ月近く経っており、国会・政府の動きの鈍さは指摘しなければならないだろう。

法案の中身

法案では第1条に目的が記載されたほか、第2条では各語句の定義、第3条では法律の基本原則が謳われ、4~16条で各権利や特則が明記された上で、20~22条で罰則が定められている。

1条ではAV出演被害により、出演者の心身や私生活に将来にわたり取り返しの付かない重大な被害が現に生じていることから、全ての年齢・性別の者について被害の防止・被害者の救済が必要としている。

また出演者の個人としての人格を尊重し、あわせてその心身の健康及び私生活の平穏その他の利益を保護し、性行為の強制の禁止・出演契約の特則等により、出演者の性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会を形成するとしている。

目的は「性的搾取」の被害救済

法案の3条の1項、2項を抜粋したい。

第三条 制作公表者及び制作公表従事者は、その行う性行為映像制作物の制作公表により出演者の心身及び私生活に将来にわたって取り返しの付かない重大な被害が生ずるおそれがあり、また、現に生じていることを深く自覚して、出演者の個人としての人格を尊重し、あわせてその心身の健康及び私生活の平穏その他の利益を保護し、もってその性をめぐる個人の尊厳が重んぜられるようにしなければならない。
2 制作公表者及び制作公表従事者は、性行為映像制作物に係る撮影に当たっては、出演者に対して性行為を強制してはならない。

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性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資するために性行為映像制作物への出演に係る被害の防止を図り及び出演者の救済に資するための出演契約等に関する特則等に関する法律案|Gov base

当事者を中心とする市民団体からの声によって動かされている以上、一連の議論は「性的搾取があってはならない(首相答弁)」というところに原点がある。

ここで筆者が問題意識を持つのは、「AV出演強要」という事案自体がそこまで報道に載せられていないという点である。そもそも出演強要の被害が起きており被害者が生まれていることを、決して忘れてはならない。

以下に当事者の手記を掲載する。まずは是非こちらに目を通していただきたい。

強要はもちろんあってはならず犯罪行為なのだが、AVというのはその性質上、強要された結果で一度撮影されてしまうと、その動画存在自体に強い加虐性を帯びることになる。つまり簡単に「なかったこと」にはできない。こうした意味において、AVを巡る被害は深刻だ。

「なかったこと」に少しでも近づけることが即ち被害者を救済する手段のひとつなのであり、そのためにこの法案は議論されているのである。

「AV」を定義すること

2条の概要を抜粋する。

「性行為映像制作物(この資料において便宜上「AV」)」とは、性行為(性交若しくは性交類似行為又は他人が人の露出された性器等(性器又は肛門をいう。)を触る行為若しくは人が自己若しくは他人の露出された性器等を触る行為)に係る人の姿態を撮影した映像並びにこれに関連する映像及び音声によって構成され、社会通念上一体の内容を有するものとして制作された電磁的記録又はこれに係る記録媒体であって、その全体として専ら性欲を興奮させ又は刺激するもの

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AV出演被害防止・救済法案 概要|衆議院

「性行為」ないし「AV」を定義することにはかなりの議論があったようだ。

被害救済をするためには、正しくアダルトビデオを定義する必要があり、性行為(性交、性交類似行為)などを明文化する必要に迫られて定義したところ、一部の女性団体などから、性売買の合法化に繋がるなどの懸念が多く寄せられたのです。

前出の当事者

これには新法成立を求める「AV出演被害防止・救済法の実現を求める会」も反応している。

与野党はこの懸念に応え、①「性行為を行う人の姿態」の表現は「性行為に係る人の姿態」と改め(2条2項、3項、4条3項4号、7条2項、3項、4項)、②第1条に「性行為の強制の禁止並びに他の法令による契約の無効および性行為その他の行為の禁止または制限をいささかも変更するものではないとのこの法律の実施及び解釈の基本原則」が示され、第3条に「売春防止法その他の法令において禁止され又は制限されている性行為その他の行為を行うことができることとなるものではない」と規定されています。

本法の罰則規定や、関連する刑事法規定を厳格に運用することにより、上記懸念を払しょくする努力を進める必要があります。

AV出演被害防止・救済法の実現を求める会 声明 が出ました。|women’s action network

また国際人権NGOヒューマンライツ・ナウも、以下のような声明を発出している。

法案をめぐっては、「契約による性交を合法化するのでは」との懸念が指摘されたが、法案はこの懸念に配慮し、規制対象の定義を修正したほか、第3条で解釈の基本原則として、民事上も刑事上も、違法な性行為を合法にするものではない趣旨を明確に規定した。

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アダルトビデオ(AV)被害防止・救済法案に関する声明|国際人権NGO ヒューマンライツ・ナウ

「合法化」とは、既に違法であるものを適法範囲に含めることであり、現状において法律上何ら説明されていない「AV」を、出演被害の防止及び救済を目的として定義づけることはそもそも「合法化」にあたらない。

この点は後ほども触れる。

法案で定められたこと

既に見たように「出演強要禁止」が定められたほか、出演者は年齢・性別にかかわらず、映像の公表から1年間は無条件・違約金など無しで、契約を解除できる。制作・公表者は契約時に撮影で求められる性行為の内容などを記した書面を渡すなどの義務を負い、また契約解除の場合、商品回収などの義務を負う。

さらに、虚偽の説明に対する罰金なども盛り込まれている。

本法案を読み解くと、契約内容と少しでも異なる撮影があった場合は取り消しの対象となり、販売を差し止めることができます(時効5年)。また、たとえ出演に同意したとしても、任意で契約を解除できる期間が「公表後」1年(はじめの2年間は激変緩和期間として2年間任意解除できる)となっています。

AV出演被害の特質性として、公表後に身バレすることがあります。AV出演契約時には、公表日や期間を明示しなければ瑕疵のある契約となり取消の対象となることから、公表日がわかりかつ公表後1年(法施行後2年間は2年)は取り消すことができるのは大きな評価ポイントです。

前出の当事者

「未成年取消権」の復活や立法化は無意味

AV合法化の懸念や法案にまつわる議論を受け、複数のメディアや団体が「未成年取消権」の復活(18歳・19歳への適応)やAVに関わる部分における未成年取消権の立法化を主張しているが、これらはいずれも問題の根本的な解決になっていないことを付言する。

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本法案反対派の人からは、原点に戻り、高校生AV出演解禁を止める観点で、AV出演の18歳19歳取消権の維持存続の立法化をすれば良いのではないか?という意見が寄せられました。

しかしAVを法的に定義するためには、性行為を明文化する必要があるため、現行制度で運用するためには必要不可欠であることを理解してほしいです。

前出の当事者

またこれまで見てきたように、この法律の保護法益は「年齢・性別を問わないAVの出演者」の被害防止・救済であり、論点を狭めるものである。

不意に飛び出した「AV禁止法」の議論

こうしたなかで、「AV禁止法」の議論が飛び出したのである。

もともと、前述の「合法化への懸念」を根拠に、新法に反対する声は小さくなかった。

与野党がまとめたアダルトビデオの出演被害防止の法案は逆に「性売買の合法化」につながるとして、被害者支援団体などが反対を訴えました。

少女支援団体Colabo 仁藤夢乃代表
「AVの被害は契約に問題があるから起きるのではなく、陵虐的な身体的暴行や性暴力を受け、リアルな性交が求められるからこそ起きているものです」

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AV出演被害防止・救済法案反対デモ 逆に「性売買の合法化」につながる|TBS NEWS DIG

「AV業界に有利なAV新法に反対する緊急アクション」は、問題を「出演被害」だけでなく「AV」という産業そのものとしており、意見の違いが見られる。「性行為」を金銭取引の対象とすること自体に構造上の問題を指摘しているのである。

このような流れから、国会においても「AV禁止法」の議論がにわかに出始める。

 与野党超党派議員による「アダルトビデオ(AV)出演被害防止・救済法案」についての審議が25日の衆院内閣委員会で行われ、立憲民主党は性行為を伴うAVを禁止する法律の制定を別途、検討していく方針を示した。(中略)

 立民の堤かなめ氏は「政党として性行為AV禁止の法律を別途検討していくことは可能か」と確認。提案者(立民の森山浩行氏)は「性行為AVの禁止を決めることはこの法律を妨げない。本法(被害防止・救済法案)成立後の議論、検討は可能だ」と答弁した。

 堤氏は「テレビや映画の殺人シーンで実際に人は殺さない」とした上で、「性行為の撮影や動画の売買を認めることは個人の尊厳を傷付け性的搾取を許すことだ。党としてさらなる対策を検討し進めていきたい」と表明した。

性行為伴うAV禁止の法制定を別途検討 立憲民主党が方針|カナロコ

これを受け、Twitterでは「AV禁止」がトレンド1位となり、またセクシー俳優のしみけん氏も持論を表明するなど、一気に話題が拡散した。

しみけんが“AV新法”に持論 現場で起きているのは「強要」ではなく「後悔」|モデルプレス

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だがそもそも、この「立憲民主党が検討」という報道自体が、話題性優先のものであったのである。

様々な観点から「テレビや映画のシーンで人は殺さない」という堤議員の発言や、AV禁止の問題点を論ずる声はある。だがここではそれらにあえて言及しない。

いわば「使える法律」として進められている「救済法」とは全く無縁の法律であり、そもそもこうしたことのみに話題が集中することは、議論に混乱を呼ぶ。そして現にそうなりつつあるのだ。

「AV禁止」の議論は現状国会においてなされておらず、今集中するべきは現実に起きている被害の救済である。

なぜAV禁止となると話題を集め、被害の救済には注目が集まらないのか。

現実を見据えた法案整備に期待

ここまで触れてきたように、AV新法は「未成年取消権」を一つの契機として、様々な経緯を経てここまできている。あとは参議院の議論を待つのであり、法案成立の兆しは見えている。

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修正に修正をかさねてきたことから、今後も当事者にとってより良い制度設計となるよう議論自体は続けていかなければならないだろう。

これまでの18歳19歳取消権の時効は20歳になってから5年間でしたが、既に18歳は成人のため5年間の時効は他の法律の公平性の観点から厳しいです。この法案は全年齢対象であるため、被害救済の枠が大幅に広がったことは大きく評価できます。 罰則規定も、事業者側に1億円の罰金が科されるなど、これまでに類を見ない内容となっています。

前出の当事者

「合法化と違法化」「活動家と業界」「賛成と反対」という二項対立で考えると、法案の理解を誤る。改めて本法案が、「被害の防止と救済」を主眼においていることを述べて、筆を置きたい。

参考資料

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清水 あきひとおとな研究所 編集長

投稿者プロフィール

ライターページ
おとな研究所 編集長
早稲田大学文学部 1年。こども若者政策メディア「madaminu」主幹。バイセクシャル。

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