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【編集部記事】自民党政権公約は今…衆院選マニフェストの実現状況を徹底検証!

昨年11月の衆議院議員総選挙から、約半年が経ちました。

与野党ともに政局も多く変化しましたが、やはり変化したことといえば、国際情勢の変化でしょう。ロシアによるウクライナ侵攻は世界中の経済状況や国防・安全保障政策などに大きな影響を及ぼしました。

我が国は、今年の夏に参議院議員通常選挙を控えています。有権者は、日々刻々と変化する情勢への対応策にももちろん注目しています。

一方で、政権選択選挙である衆院選で各党が掲げた政権公約、いわゆる「マニフェスト」への評価も行われると思います。

大きく状況が変わったとはいえ、一票一票は「人」や「党」ではなく「政策」が選ばれた結果であることも少なくはないでしょう。

このシリーズでは、衆院選の際に最大与党である自民党が掲げていたいくつかの主要公約に対する、2022年4月末現在までの取り組みを、解説していきたいと思います。主要と思われる公約集を検証します。

自由民主党の公約

自民党は言うまでもなく、国政政党第1党で最大与党です。この政党が選挙で政策を掲げた場合、政権を維持している間はその実現可能性が極めて高いといえます。

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特に前回選挙は、総裁の岸田文雄氏が内閣総理大臣として初めて戦った総選挙であり、長期にわたって続いた安倍政権や、その方針を受け継いだ菅政権との違いも、国民に注目されました。

実際に掲げた政策を具体的に見ていきましょう。

自民党の政権公約

自民党が掲げた政権公約は、8つです。

  1. 3回目ワクチン接種などのコロナ対策
  2. 「新しい資本主義」による中間層の再構築
  3. 第一次産業を成長産業に
  4. 通信技術や観光による地方活性化
  5. 経済安全保障の強化
  6. 新たな国家安全保障戦略
  7. 教育や人材力の強化
  8. 憲法改正

それぞれ簡単に確認します。

  1. 「コロナ対策」では、希望する人全員へのワクチン接種を11月までに完了すると同時に、全国各地で治療薬を投与できる体制を整備することなどを挙げています。各種支援措置も継続して実施するほか、幅広い感染症対応が可能な体制を抜本的に強化するため、枠組みや法改正も含めて行うということです。
  2. 「新しい資本主義」では、機動的な財政政策と金融緩和を通じて成長戦略を図るとし、危機管理分野やデジタル・科学技術などの成長分野への投資、中小企業や小規模授業者への支援を通じて分厚い中間層を再構築し、エッセンシャルワーカーの所得向上や医療インフラの整備、女性の活躍支援なども盛り込んでいます。
  3. 「第一次産業」政策では、農林水産業の保護と成長分野化を挙げており、生産物の販促や各分野への支援を挙げています。
  4. 「地方活性化」では、いわゆる「デジタル田園都市国家構想」と呼ばれる「ヒューマン」「デジタル」「グリーン」の活用でローカルイノベーションを推進し、5Gを全国で利用できるようにする他、被災地復興やGoToトラベルの早期再開なども謳われています。
  5. 「経済安全保障」では、戦略的な物資や技術を特定し流出を防止する法整備や、緊急時の物資生産・調達、サプライチェーンの強靭化や情報セキュリティ、人材育成などを掲げました。
  6. 「国家安全保障戦略」では、日米同盟を基軸とした日本外交を展開し、拉致問題や世界各国の人権問題に毅然として対応すること。加えて中国をはじめとした周辺国を念頭に、ミサイルに対する防御能力の強化や重要土地法に基づく国防力の強化を掲げました。
  7. 「教育や人材力の強化」では、2022年度までに10兆円規模の大学ファンドを実現し、AI教育やリカレント教育の充実、GIGAスクール構想の実行や新学習指導要領実施のための学校における働き方改革などを挙げたほか、地域ぐるみの教育支援や社会制度教育の推進を掲げました。
  8. 「憲法改正」では、結党以来の党是としつつ自民党の改正草案「①自衛隊明記 ②緊急事態対応 ③合区解消 ④教育充実」の4項目をベースとして憲法審査会で論議を深めるとしています。

以上が、自民党の政権公約でした。8つの政策がどれだけ進んでいるのか、見ていきましょう。

公約達成状況

自民党は政権与党なので、政権公約の単純な達成状況を見ていきます。

1番の「コロナ対策」で掲げた「ワクチン接種」は2022年に入ってから本格的に進み、2月以降は日当たりの接種人数が50万人、3月後半まで100万人となり、追加接種した人は6700万人を超え、総人口の半数以上を占めています。

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11月までの希望者全員への接種完了という公約を夏の参院選で判断することはできませんが、一定の成果として評価できるでしょう。

また治療薬については、4月19日にパンデミックの際の医薬品緊急承認制度創設を含む医薬品医療機器法改正案が衆院で可決。法改正を含めた改革が進んでいる状況です。

一方で、ワクチンについては20代接種率が3割程度に留まっていて、幅広い世代に呼びかけることができるかどうかが、今後の課題になるでしょう。

2番〜4番の「新しい資本主義」を含む経済政策のプランは、今年2月に起こったロシアによるウクライナ侵攻などの影響を受け、変更を余儀なくされています。

まずは物価の高騰がコロナ禍からの回復の妨げになりかねないことを念頭に、4月末に(1)原油高対策(2)資源・食料安定供給(3)中小企業支援(4)生活困窮者支援からなる総合緊急対策を決定しました。

さらに経済財政運営を2段階に分けて行うとし、第1段階で13兆円規模の対策を行い、第2段階で「新しい資本主義」の具体化を、参院選以降行なっていくとしました。また、これらを踏まえた補正予算を今国会で提出し、成立を目指すということです。

また、農業の環境負荷への軽減を目指す「みどりの食料システム法案」など、関連法案の審議も行われています。

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情勢の変動に合わせた対応の変化や、その実体経済への効果などが、有権者に注視されるものと思われます。

5番の経済安全保障では、経済安全保障推進法案の審議が大詰めを迎えています。基幹インフラへのサイバー攻撃に備えた事前審査が、企業の負担を増やすことになりかねないという財界からの懸念があるほか、専門家から「企業価値に繋がる」という声がある一方で「十分な対策とは言えない」という指摘が上がるなど、十分な対策となり得るかどうかが注目されます。

特にウクライナ侵攻以降、ロシアに対する制裁措置をさらに強めるべきとする世論が半数近くに登る(NHK)など、国民の経済安全保障に対する意識は高まっています。どこまで踏み込んだ制度設計ができるかが鍵となります。

6番の国家安全保障については、周辺国による圧力、特に4月に入ってからは北朝鮮や中国に加えロシアからの牽制が強まっており、各界から情勢を不安視する声が上がっています。

こうした状況を受け、自民党は党安全保障調査会が、岸田総理に対して防衛費のGDP比2%以上への増額を念頭に「国家安全保障戦略」への提言を行いました。

さらに、従来いわゆる「敵基地攻撃能力」と呼称されてきたものを「反撃能力」と名称変更した上で、これの保有を求めています。政府はミサイル基地などを想定した「敵基地攻撃能力」が専守防衛の範囲内であるとの解釈を続けてきましたが、都市部を含めて想定した「反撃」の場合にはこれを逸脱するとして野党が強く反発しており、参院選での争点となりそうです。

7番の教育政策では、世界最高の研究水準を目指す大学への支援のため設立された10兆円規模の「大学ファンド」に、国立大のうち東北大学、東京農工大学、名古屋大学、大阪大学の4大学が既に申請の意向を示しています。また他の27校も検討中ということです。

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公募は今年度中に開始されますが、選定基準のハードルが示されていないため、不透明な部分が残っています。また地方大学の多くは申請見送っており、格差の拡大にも懸念が示されています。

また、積極的な活用を打ち出しているGIGAスクール構想やAI教育、学校教員の働き方改革なども依然として問題点を指摘されている状況で、どこまで教育改革に切り込むことができるかが肝となりそうです。

教育や安全保障に関わる部分としては8番目の「憲法改正」。首相は5月1日にNHKの討論番組に出演死、「時代にそぐわない、不足している部分もあるとの議論にしっかり応えなければならない」と述べ、議論への意欲を見せました。

5月3日の憲法記念日を前とした議論ですが、世論はともかくとして憲法審査会での議論はいまだに投票環境整備のための「国民投票法」改正案の段階であり、憲法論議の中身までには至っていない状況です。

憲法改正を期待して自民党に投票した有権者に、どこまで期待値を持たせる方向性を示すことができるかが注目されます。