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炭素税の本格導入に警戒せよ―増税が日本経済を滅ぼす

炭素税の本格導入に警戒せよ―増税が日本経済を滅ぼす

新環境事務次官の異例の発言

 環境省は、令和2(2020)年7月21日付で新人事を行った。この人事によって、新しく事務次官に就任したのが、中井徳太郎氏である。中井氏は、元大蔵官僚(今の財務官僚)で、東日本大震災後の平成23(2011)年7月に環境省に異動した。
 この中井氏であるが、就任会見で早速、物議を醸す発言を行った。朝日新聞の報道によると、中井氏は、脱炭素社会の実現に向けて「炭素税も含め有効だと本当に思っている」と、炭素税の本格導入に前向きな発言を行った。
 しかし、消費増税と新型コロナによる不況が続く中、このような発言は多くの批判を浴びている。

https://twitter.com/chanelcrara/status/1286528054269861889
https://twitter.com/KoheiMorinaga/status/1286496703244247040

中井次官発言の問題点

 憲法30条は、国民に納税の義務を課している。その反面で、租税法律主義(84条)によって、政府権力を統制しようとしている。租税法律主義とは、課税要件、賦課徴収の手続は国会の定めた法律で規定されなければならないという課税要件法定主義と、課税要件と賦課徴収手続は、一般人が見ても分かるよう一義的で明確でなければならないという課税要件明確主義からなる。租税法律主義を憲法83条で定めた以上、税制のあり方については、国民の選んだ国会議員の定めた法律によって決定されるべきである。そうであれば、選挙で選ばれたわけではない官僚が税制のあり方について公の場で意見を出すことは、租税法律主義の趣旨からして、現に控えるべきだ。
 中井次官の発言は、税制のあり方についての私見を、就任会見の場で公式に述べたものである。中井次官は、選挙で選ばれていない官僚であって、国会議員ではない。炭素税の本格導入について前向きな意見を述べたことは、租税法律主義の趣旨に反するため、大いに問題である。このような中井次官の発言について、政治アナリストの渡瀬裕哉さんは、弊所の取材に対し次のようにコメントした。「環境省は財務省出身の事務次官を過去に度々受け入れてきたが、今回の中井氏の財務省出身の事務次官。炭素税ないしカ-ボンプライシングを新設するための人事と言っても良いだろう。本来は税金に関する発言は政治家が行うべきもので、役人は慎むべきだ。特に小泉(環境:筆者注)大臣が今年の税制要望での炭素税見送りを既に述べている中での発言は、財務省出身の次官が若い大臣を軽く見ている証拠。小泉大臣の指導力に疑問がある。」
 財務省出身の次官が、炭素税を新設するために送り込まれているというのが、渡瀬氏の見立てである。小泉大臣の見解とも矛盾しかねない発言を事務次官が行ったことについては、小泉大臣にも責任が問われる。
 

炭素税とはなにか

 では、現在導入が検討されている炭素税とは、どのような税なのか。
 炭素税とは、二酸化炭素(CO2)の排出に課税する税である。日本でも、「地球温暖化対策のための税」として、部分的に導入されている。しかし、二酸化炭素排出量1トンにつき289円しか課税されておらず、税収としても2600億円に過ぎない。日本の地球温暖化対策税は、税率や税収全体に占める割合が、炭素税を本格的に導入しているフィンランド・スウェーデン・フランス等に比べて圧倒的に低い。
 一見すると、環境に配慮した税であって、良い税であるとも思える。しかし、企業などの二酸化炭素排出に課税された分は、私たち消費者が購入する製品に価格転嫁される。すなわち、炭素税が本格的に導入された場合、消費者の負担が増えることとなるのだ。コロナ禍から景気回復をすべき局面で炭素税の導入をするなど、愚の骨頂である。商品の値上げに伴い、消費が回復せず、日本経済の停滞はもう10年続くことになるだろう。

あらゆる増税に反対する姿勢が重要

 環境省と財務省が炭素税を導入することを検討しているとすれば、コロナ禍で行う財政出動や減税の「穴埋め」として、財源を確保しようとしている可能性がある。仮にコロナ対策として政府が消費減税や所得減税を行った場合であっても、もし炭素税が本格導入されれば、私たちの負担は変わらないことになる。もし減税措置が時限的である場合には、減税期間終了後には事実上の増税が待っている。あらゆる増税に反対しなければ、結局私たちの負担は、変わらないということとなりかねない。
 渡瀬裕哉さんも「増税を止めるには如何なる場合であっても全増税に反対すること。役所は国民の税金を使って調査研究しながら増税する側は税金を引き上げる様々な理屈を作る。国民には減税や増税阻止をするための費用は今のところないので、何を言われても全てに反対することが大事。1つ認めれば蟻の一穴になる。」と述べる。私たち国民が、全ての増税に対し反対するという意思表示をしなければ、国民負担は徐々に上がっていくのである。

財務省主計局長にも要注意

 さて、話は変わるが、財務省人事にも要注目だ。7月22日に「財務官僚ナンバー2」の主計局長に任命されたのは、矢野康治氏である。矢野氏は、主税局長を務めていたため、今年の人事で国税庁長官に任命されるという予想が有力であったが、その予想に反し主計局長に抜擢された。主計局長が次の人事で財務事務次官になれなかった例はまれであり、その意味で、今回主計局長となった矢野氏は事実上の次期財務事務次官であると言える。
 矢野氏は、「増税原理主義者」と揶揄されるほど、強硬な財政再建論者である。実際に、著書『決断!待ったなしの日本財政危機: 平成の子どもたちの未来のために』でも、矢野氏は、日本の財政赤字に警鐘を鳴らしたうえで大増税を主張している。矢野氏が今回主計局長に任命されたということは、財務省が、炭素税の本格導入や、消費税などのさらなる増税を計画している可能性すらある。奇しくも、「今後10年間は、増税は不要」と述べた安倍首相の求心力が急激に落ち、来年の任期で退任することが確実視されている状況である。次期首相と矢野次期財務事務次官の下での、炭素税の本格導入や消費増税に、私たちは警戒しなければならない。

参考文献
朝日新聞デジタル 令和2(2020)年7月23日付https://www.asahi.com/articles/ASN7Q74NRN7QULBJ00G.html?iref=pc_ss_date
環境省(2018)「諸外国における炭素税等の導入状況」https://www.env.go.jp/policy/policy/tax/mat-4.pdf

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