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左派野党の先鋭化?合流新党の綱領案を診る

 立憲民主党と国民民主党の大部分の議員が合流し、これに民主系無所属議員が加わることで、衆院だけで100人近くの合流新党ができようとしている。その一方で、玉木雄一郎代表をはじめとする一部の国民民主の議員は、国民民主党を分党させ、国民民主党を残す方針である。

 今回は、合流新党の綱領案を分析することで、合流新党の目指す方向性を考えて行きたい。

1 憲法政策

私たちは、立憲主義を守り、象徴天皇制のもと、日本国憲法が掲げる「国民主権」「基本的人権の尊重」「平和主義」を堅持します。
私たちは、立憲主義を深化させる観点から未来志向の憲法議論を真摯に行います。
私たちは、草の根の声に基づく熟議を大切にしながら、民主政治を守り育てます。

 立国両党の合流交渉で、最も違いが露呈していたのが憲法政策であった。国民民主党は、玉木代表、前原誠司元民進党代表、山尾志桜里議員のように、憲法の議論に前向きな議論が多く、「論憲」の立場を明確にしていた。そして、国民民主党の綱領にも、「私たちは、立憲主義と国民主権・基本的人権・平和主義を断固として守り、国民と共に未来志向の憲法を構想します」と記載している通り、綱領でテーマを絞ることなく議論に前向きな姿勢を見せていた。ただし、それでも野党共闘戦略の中で、憲法審査会の審議拒否が相次いだことを指摘しておきたい。その一方、立憲民主党は、辻元清美議員や赤松広隆議員のように、護憲派の議員が多く、憲法の議論に消極的であった。立憲民主党は安倍政権下での憲法改正に反対している上に、憲法審査会でも審議拒否が目立った。綱領に、「私たちは、立憲主義を守り、象徴天皇制のもと、日本国憲法が掲げる『国民主権』『基本的人権の尊重』『平和主義』を堅持します。立憲主義を深める立場からの憲法議論を進めます」と記載している通り、「立憲主義を深める立場から」でなければ、議論は認めないと言うことであろう。

 さて、前置きが長くなったが、合流新党の憲法観はどちらに近くなったのだろうか。結論から言えば、立憲民主党の憲法観・立場が、ほぼ反映されたと言える。国民民主党の綱領や政権公約にあった「未来志向の憲法議論」という文言は生きているものの、「立憲主義を深化させる観点から」という文言が修飾語になっているからだ。これでは、例えば「現実的な安全保障策として憲法9条改正の議論を(賛成反対はともかく)進めて行こう」と誰かが言っても、「9条を改正し戦力や自衛隊を憲法上認めることは、立憲主義に反する」と反論されてしまうだろう。「論憲」の立場を明確化した国民民主でさえ、憲法審査会の審議拒否が目立った。そうだとすれば、立憲の主張がほぼ反映された合流新党の下では、憲法審査会の議論に全く応じない可能性すらある。少なくとも、国民民主党で従来行われていたような、自由闊達な憲法の議論はもはやできなくなってしまうに違いない。合流新党は、憲法改正の抵抗勢力である(護憲派は、本来憲法全体の理念を活かそうとする人を指すので、あえて護憲派とは呼ばない)。

2 基本理念

「合流新党(党名が入る)」は、立憲主義と熟議を重んずる民主政治を守り育て、人間の命とくらしを守る、国民が主役の政党です。
 私たちは、「自由」と「多様性」を尊重し、支え合い、人間が基軸となる「共生社会」を創り、「国際協調」をめざし、「未来への責任」を果たすこと、を基本理念とします。
 私たちは、この基本理念のもと、一人ひとりの日常のくらしと働く現場、地域の声とつながり、明日への備えを重視し、国民の期待に応えうる政権党となり、この基本理念を具現化する強い決意を持って「合流新党」を結党します。

(1)消えた「改革中道」の文字

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 「立憲主義」という立憲民主党の理念を最も表すキーワードが入っている。これについては、立憲民主党を主とする合流である以上、当然のことであろう。

 もっとも、ここで注目すべきは、何を書いてあるかよりも、何を書いていないかということである。そもそも、合流新党の綱領は、両党の綱領をミックスしたものになるということは、予想されていた。両党の綱領をミックスする中であえて削ったのであるから、新党では採用できない理念だと考えるべきである。

 そこで、綱領を注意深く見ると、「改革中道」の文字が消えている。国民民主党を端的に表す理念は、「穏健保守からリベラルまでを包摂する改革中道政党」である。このことばには、綱領に関するリーフレットでも強調されているほど、国民民主党にとっては重要なものである。それをバッサリと切ってしまったのはなぜか。論理的に3つの可能性が考えられる。①合流新党全体が改革中道という方向性を捨ててしまった、②穏健保守を包摂しない、③リベラルとすら言えない極左を包摂してしまっている、の3つだ。いずれにしても、問題がある。左右の全体主義とは距離を取りつつ、寛容な保守から穏健リベラルまで広く包摂していたのが、民主党の「民主中道」であり、国民民主の「改革中道」である。「改革中道」をバッサリと削ってしまったことで、合流新党の向く方向性は、自明である。合流新党は、結成後左傾化、先鋭化することになるだろう。

(2)熟議を重んずることはできるのか?

 合流新党は、「熟議を重んずる民主政治を守り育て」るとある。しかし、読者のみなさんもご存知の通り、今回の合流協議自体が熟議を軽視するものであった。枝野幸男立憲民主党代表や福山哲郎幹事長は、露骨な「玉木外し」を行い、強引な合流交渉を行った。国民民主党や立憲民主党は、経済政策や憲法、原発などの政策で隔たりがあるにも拘わらず、玉木代表が求めた党首同士による熟議を、枝野代表が拒否したのだ。そもそも、今回の合流は、スケジュールありきの拙速な合流である。立憲民主党、国民民主党の支持母体である連合が、8月28日の中央執行委員会で参院選の推薦候補を決めるために、両党に対し、同日までの合流を求めたのである。そして、そのスケジュールになるべく間に合わせるという意図を持って、枝野代表らは拙速な合流に走っていたのである。このように、結党の手続から熟議を捨てる集団が、結党後も熟議をせず決めてしまうことは、想像に難くない。

3 原発政策

合流新党綱領「私たちは、地域ごとの特性を生かした再生可能エネルギーを基本とする分散型エネルギー社会を構築し、あらゆる政策資源を投入して、原子力エネルギーに依存しない原発ゼロ社会を一日も早く実現します。」

立憲民主党綱領「私たちは、原発ゼロを一日も早く実現するため、具体的なプロセスを進めるとともに、東日本大震災からの復興を実現します。」

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 合流新党の綱領は、立憲民主党の綱領と同様に、原発ゼロを一日も早く実現することを明記している。原発政策に関しても、ほぼ立憲民主党の意向が反映された形だ。

 しかし、電力総連を支持母体とする国民民主党は、原発ゼロには慎重である。電力総連出身の議員が、この綱領に納得できるとは思えない。「大きな塊」と言いながら、特定の支持団体を排除してしまっていては、その団体出身の議員は合流できないであろう。分党後、合流新党に行かず国民民主党に残留する議員は、当初8人程度と予想されていたが、案外もっと多くなるかもしれない。

まとめ

 合流新党の綱領のその他の部分は、立憲民主党と国民民主党の理念をミックスさせた玉虫色のものが多かった。ところが、憲法、基本理念、原発政策という重要な部分で、立憲民主党の政策がほぼ反映された結果、合流新党の綱領・理念は、民進党よりも相対的に左傾化していると言える。左派野党は、平成28(2016)年に共産党との選挙協力を開始して以来、左傾化してきていると指摘されている。今後は、100人規模の左傾化した野党第一党が、野党政局の主導権を握ることとなる。左派野党の左傾化が、行くところまで行きついた結果である。

 加えて、熟議を掲げながら、結党時から熟議を軽視する。山尾議員や須藤元気議員が指摘したように、党内での言論の自由のない立憲民主党が、合流新党で再現される。

 徐々に左傾化を続け、熟議を拒み先鋭化していく左派野党に、未来はないだろう。少なくとも、政権を取ることは、できないと考えられる。自民党に愛想をつかした元自民党支持層の受け皿とならなければ政権をとれないのに、自民党よりかなり左傾化して、何をしたいのか、理解に苦しむ。

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