中国の千人計画に絡めて日本の研究環境の課題を分析する

昨日、読売新聞が「中国『千人計画』に日本人、政府が規制強化へ…研究者44人を確認」という記事を掲載した。

千人計画とは2008年に創設された海外ハイレベル人材招致政策で、かつては中国人の留学生を呼び戻すための政策だったが今では海外出身の研究者も積極的に承知している。しかし、同時に中国が軍事転用が可能な最先端技術を盗み出そうとしているのではないかとアメリカを中心に懸念が高まっている。

千人計画の参加は禁止せよ

まず大前提として必要なのは千人計画への参加を禁じることだ。前述したように千人計画を通じて軍事転用可能な技術が中国側に流出している可能性がある。そのリスクが確実にないと言える段階までは千人計画の参加は禁止するべきだ。

日本は現段階では千人計画に対して規制は行っておらず、また実態すら把握していないが、先ほどの読売新聞の記事によれば、海外人材招致プロジェクトへの参加や外国資金受け入れの際には情報開示を義務付けることを検討しているそうだ。少し生ぬるい感は否めないが、これが規制の契機となってほしい。

日本の研究環境の不備

とはいえ千人計画の参加を禁じるだけでは、日本の研究者の行き場がなくなってしまう恐れがある。研究者も人間で生活があるので、千人計画に変わる受け皿が必要だ。

そもそもなぜ日本の研究者が千人計画に参加してしまうのかというと、日本の研究環境は劣悪だからである。デイリー新潮の「本当は日本で働きたい」…中国「千人計画」参加者の本音という記事では以下のような記述がある。

自分を含めて中国に来た若手の研究者は、働けるなら日本にいたいというのが本音です。給料や研究費が高いから中国に行くのではなく、日本に研究者としてのポストがない。だから中国へ行くしかなかったのです

中国は「中国」という国の威信をかけているので外国人研究者の論文でも積極的に中国の研究所や大学を介して発表させようとしている一方、外国人研究者は自分の論文を出すこと自体が目的なので、どこの国や大学から発表されても気に留めないという。

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なぜ日本の研究者が千人計画に参加せざるを得ないのか。それは日本に研究者としてのポストがないから、ということに尽きるのだ。

GDP比の日本の研究費総額は決して低くない

なぜ日本ではそうした研究者のポストが少なくなるのか、もっと踏み込んでみる。

科学技術・学術政策研究所によると、2017年の日本の研究開発費総額(名目額)は、19.1兆円である一方、中国の研究開発費総額は50.8兆円である。下のグラフを見ても、近年中国が研究開発費を大きく伸ばしていることが見て取れる。

研究開発費-科学技術指標より

また、研究者一人当たりの研究開発費も日本はリーマンショック以降伸び悩んでいる一方、中国は2009年以降大きな伸びを見せており、日本にも迫る水準だ。

日本の研究開発費-経済産業省より

しかし一方で、こんなデータもある。

研究開発費総額をGDP比で見ると、日本は決して低い水準ではないのだ。
(しかも日本は日本学術会議が軍事研究を禁止しているという非常に珍しい国なので、防衛関連の研究を除くと日本のGDP比の研究開発費は世界トップレベルだ)

研究開発費-科学技術指標より

不安定な立場の研究員が増加

では一体何が問題なのだろうか。今度は研究開発費の内訳を見ることにする。

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競争的研究費改革に関する検討会 データ集
赤が運営費交付金、青が競争的資金を示している

ここでいう運営費交付金は主に固定経費や定年制職員などの人件費を、競争的資金は委託や任期制職員の人件費などを示している。これを見ると、運営費交付金が減少している一方で、競争的資金が増加している。

また、日本のポスドク(博士研究員・博士号を取得している任期付きの研究者)の数もここ最近は減少傾向であるものの、2004年に比べると増加している。

大学等における研究活動の動向について

そろそろ勘のいい読者の方は気づいたかもしれない。ここで、科学雑誌「Nature」の記事を引用する。

A government policy, introduced in the 1990s, to produce 10,000 post-doctoral researchers to strengthen the country’s competitiveness, may be compounding problems. While the government intended for many of these researchers to work in the private sector, an unintended consequence is that a large portion stayed in academia. By 2012, the number of postdocs had surged past the government’s target — more than 16,000 in academia. The problem is most acute in life sciences, in which the government invested heavily in the early 2000s. As a result, postdocs often hop from one position to another waiting for an offer of an increasingly rare permanent research position.

1990年代に導入された、国の競争力を強化するために10,000人のポスドク研究員を輩出するという政府の政策は、問題を悪化させている可能性がある。政府はこれらの研究者の多くが民間部門で働くことを意図していたが、意図しない結果は大部分が学界にとどまったということである。 2012年までに、ポスドクの数は政府の目標を超えて急増しました。学界では16,000人以上。この問題は、政府が2000年代初頭に多額の投資を行った生命科学で最も深刻だ。その結果、ポスドクは、ますますまれな恒久的な研究職の申し出を待って、ある職から別の職に飛び移ることがよくある。

What price will science pay for austerity?

Natureの記事でも記されているように、当初政府が意図していたのはポスドクが民間に流れることだったが、結果としてその大部分が学界にとどまってしまったのだ。そう。これが「研究者としてのポストが足りない」根本の原因なのだ。

常勤の研究員を増やすべき

先ほどのデイリー新潮の記事で、2016年にノーベル賞を受賞した大隅良典氏は「今の日本のやり方は、研究にお金を出したらその分の見返りがなくてはいけないというもので、これでは絶対に上手くいかないと思います」と述べている。

前述したポスドクがまさにそうで、身分が不安定なので結果を出し続けていかなければ食っていくことができない。つまり、短期的な結果を出さなければならなくなる。

いま日本がやるべきことは任期付きではなく常勤の研究員を増やし、短期的な結果を求めるのではなく長い目で見て将来花開くような研究を行える体制を整えることだと思う。

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よもぎおとな研究所 副編集長

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おとな研究所副編集長、ブロガー
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時事・教育・経済など幅広い分野に関心あり

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