【慰安婦判決】日本政府は国際司法裁判所への提訴をためらうべきではない


8日、韓国のソウル中央地方法院は信じがたい判決を下した。

旧日本軍の元従軍慰安婦らが日本政府に損害賠償を求めた訴訟で、原告1人当たり1億ウォン(約950万円)の慰謝料支払いを命じる判決を出したのだ。歴史問題に関連して韓国の司法機関が日本政府の賠償責任を認めるのははじめてのことで、日韓関係に重大な亀裂が入りかねない事態である。

そもそも19世紀に確立したといわれる国際慣習法「主権免除の原則」により、一般に主権国家は他国の裁判権に服さないとされている。にもかかわらず、ソウル中央地裁はこの原則を認めず、一方的な判決を下したのだ。

本稿では同判決の論理構成を紐解きつつ、日本政府が国際司法裁判所への提訴をためらうべきではないという筆者の主張を展開していく。

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「主権免除」の大原則

そもそも「主権免除」とは、主権国家やこれに属するすべての国家組織は、他国の裁判権に服さない、というものだ。国家が批准などの手続きをとることなく、普遍的なものとして全ての国々に普遍的に適用される「国際慣習法」である。よってこの大原則は全ての国に認められるものであることを確認しなければならない。

さらに、この主権免除については様々な学説が存在するものの、「制限免除主義」が主流を占めていることにも留意が必要だろう。この制限免除主義とは、国家による活動を「権力行為」と「私法行為」に分け、権力行為にのみ主権免除を適用するものである。国家の私法行為とは、国家や行政機関などが個人あるいは法人と対等な立場で売買や賃借などの契約を行うことなどがあげられる。

判決は「主権免除」をどう捉えたのか

対してこの判決では、「主権免除」の大原則および「制限免除主義」そのものは認めている。さらに本件については具体的な例まで挙げて「主権行為である」ということまで認めているのだ。

その具体例とは、1998年にイタリアで「第二次大戦中にドイツで強制労働させられた」と主張するイタリア人がドイツ政府を相手取り地元裁判所に提訴し、同国の最高裁がドイツ政府に賠償を命じたものの、ドイツ政府は国際法違反として国際司法裁判所に提訴し、2012年に勝訴したという一件だ。

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つまりこの判例を考えるならば、今回のソウル中央地裁の判決自体が理にかなわないものであることが自明なのである。

しかし、判決文は以下のように続く。

本事件の行為は、日本帝国による計画的・組織的で広範囲な反人道的犯罪行為として、国際強行規範に違反するものであり、当時日本帝国によって不法占領中だった朝鮮半島内で、我が国民である原告に対して行われたものとして、たとえ本事件の行為が国家の主権的行為だとしても、主権免除を適用することはできず、例外的に大韓民国の裁判所に被告に対する裁判権がある。

慰安婦訴訟 ソウル中央地裁の判決要旨(詳細版) https://www.yomiuri.co.jp/world/20210108-OYT1T50238/

すなわち、旧日本軍と日本政府が元慰安婦に行った犯罪は、あらゆる国際法の上位に位置する「強行規範」に反しているため主権免除は適用されない、というのだ。その根拠として韓国の憲法や国連憲章で「裁判を受ける権利」が認められていることを挙げている。

さらに判決は「主権免除は、手続き的要件に関するものではあるが、手続き法が不十分なことによって実体法上の権利や秩序が形骸化したり歪(ゆが)められたりしてはならない。主権免除の理論は、恒久的で固定的な価値ではなく、国際秩序の変動によって修正され続けている。」とし、主権行為においても主権免除の例外が認められるという独特の法体系を展開したのだ。

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すなわち、主権免除とは国家がむやみに他国の裁判権に服さないために存在する慣習法であって、絶対規範に違反し他国の個人に重大な損害を与えた国家が賠償を逃れるためのものではない、としたのだ。

数々の合意を無視した不当判決

この判決が、根本から矛盾した論理構成であることは言うまでもない。

主権免除と制限免除主義を認めているにもかかわらず、「裁判権を免除されない主権行為もある」としたことは、慣習法のみならず多くの判例を逸脱する前代未聞の判決である。

加えて、今回の判決が1965年の日韓請求権協定及び2015年の日韓合意をはじめとした数々の両国間の合意を無視したものであることも言わなければならない。

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日韓請求権協定は以下のように定めている。

・両締約国は、両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第四条(a)に規定されたものを含めて、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する。

・この協定の解釈及び実施に関する両締約国の紛争は、まず、外交上の経路を通じて解決するものとする。

財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定の説明書(一部抜粋)

また以下に日韓合意の概要を簡単にまとめる。

  1. 慰安婦問題は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、日本政府は責任を痛感している。 改めて、慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われた全ての方々に対し、心からおわびと反省の気持ちを表明する。
  2. 日本政府は、これまでも本問題に真摯に取り組んできたところ、その経験に立って、全ての元慰安婦の方々の心の傷を癒やす措置を講じる
  3. 日本政府は上記を表明するとともに、上記(2)の措置を着実に実施するとの前提で、今回の発表により、この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する。 あわせて、日本政府は、韓国政府と共に、今後、国連等国際社会において、本問題について互いに非難・批判することは控える
  4. なお(2)の予算措置については、規模はおおむね10億円程度となった。以上については日韓両首脳の指示に基づいて行ってきた協議の結果であり、これをもって日韓関係が新時代に入ることを確信している。

請求権協定及び合意の4項目より明らかであるように、既に慰安婦問題については金銭上、外交上ともに「最終的かつ不可逆的に解決」した問題なのだ。

これは国家間のみのやり取りに限定されず、韓国国民による訴訟もその例外ではないことは請求権協定より明らかだろう。

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日本政府の反応と今後の展開

韓国政府は本判決を受けて「政府は裁判所の判断を尊重し、慰安婦被害者の名誉と尊厳を回復するためにできる限りの努力を尽くす」と述べている。

一連の判決と声明に、日本政府の反発は言うまでもない。首相や官房長官をはじめとした政府高官がすでに強く非難する旨の声明を出している。

加藤官房長官「断じて受け入れず」 慰安婦訴訟、韓国に抗議 (時事ドットコム)

【速報】韓国地裁判決 菅首相 「断じて受け入れられない」 (おとな研究所)

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しかし、日本政府はこの判決に控訴しないことはほぼ確実だろう。

というのも、日本政府はこれまでの審理にも主権免除を理由に出席してこなかった。主権免除が大原則である以上、敗訴した判決に今更こちらから反応することは日本政府側の論理矛盾になりかねない。よって、日本政府は異なる方法での対応が必要となるだろう。

これまでも、韓国の裁判所は「徴用工問題」をめぐって日本企業に対して賠償を求めてきていた。日本国内の対韓感情にも限界が来る恐れがある。

既に産経新聞が、日本政府内で国際司法裁判所への提訴を検討していることを報じている。

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<独自>日本、国際司法裁へ提訴検討 韓国の慰安婦判決

そもそも国際司法裁判所(ICJ)とは、国際連合の主要な司法機関だ。15名の裁判官で構成され、国際法に従って、国家から付託された国家間の紛争を解決し、正当な権限を与えられた国連の主要機関および専門機関から諮問された法律問題について勧告的意見を与えるという二重の役割を持っている。

その性質上、ICJそれ自体は裁判を提起することができないが、当事国が付託した場合には開始することができる。

しかし、「同意原則」と呼ばれる原則により、関係国が2国以上の場合はすべての当事国が付託しなければ裁判は開始することができない。つまり日本側が付託をしたとしても、韓国が拒否すれば開廷しないのだ。

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日本は日本の対応を。国際社会への発信を怠ってはいけない。

日本がICJにこの問題を付託することに意味がないわけではない。

先述のようなドイツ・イタリア間の例もあり、国際社会に今回の判決が明らかに不当であることを発信することは絶対に必要だからだ。

さらに判決でソウル中央地裁は仮執行を認めており、原告側が韓国内にある日本政府の資産を差し押さえする手続きを取ることが可能になる。日本政府を相手取った類似の訴訟が相次ぐ可能性があるという、きわめて重大な禍根を残しかねないのだ。

今まで日本政府は、日韓間で様々な問題が起きるたびにICJへの付託をにおわせたがすべて実行に移されていない。日本は「相手の土俵に立たない」だけでなく、「淡々と、しかし毅然と対応する」という立場も必要なのではないだろうか。

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2020年10月、元徴用工に関する判決にからんで韓国の中央日報は記事の中で、「個人の請求権は請求権協定と別個で消滅しなかったという韓国大法院の判決は国際的な判断を受けてみる必要がある。」と述べている。

【時論】「菅時代」の韓日葛藤を国際法と常識で解決を (中央日報)

韓国側がICJへの付託に参加する可能性も無いわけではないのだ。

両国の関係が正しく健全なものになるよう、私たち一人一人が真に必要なことを考えなければならない。

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参考

財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定の説明書 (Wikiソース)

慰安婦訴訟 ソウル中央地裁の判決要旨(詳細版) (読売新聞)

慰安婦訴訟、日本政府に賠償命令 ソウル中央地裁 (日本経済新聞)

慰安婦訴訟、日本政府に賠償命令 「主権免除」適用せず―韓国・ソウル中央地裁 (時事ドットコム)

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<独自>日本、国際司法裁へ提訴検討 韓国の慰安婦判決 (産経新聞)

【時論】「菅時代」の韓日葛藤を国際法と常識で解決を (中央日報)

国際司法裁判所 | 国連広報センター

辺真一「韓国の「不法判決」で日韓関係は修復不能となるか?

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韓国政府「判決尊重、韓日の協力続くよう努力」 元慰安婦勝訴受け (聯合ニュース)

本田恵美「主権免除についての国内法の整備~外国等に対する我が国の民事裁判権に関する法律案~

坂巻静佳「重大な人権侵害行為に対する国家免除否定論の展開

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Aki

Akiおとな研究所 編集長

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おとな研究所 編集長
趣味は短歌、動画編集。不登校経験あり。

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