
今日、初の大学入試共通テストが始まった。共通テストは国公立大学を受験する受験生は原則必須のテストで、また一部の私立大学では共通テストの成績を用いて合否を判断する、重要なテストだ。新型コロナウイルスの感染拡大が懸念されている中、約53万5000人の受験生が2日間の試験に挑む。
ところでこの共通テストで以前、記述式問題の導入が検討されていたことをご存じだろうか。当初共通テストでは「思考力・判断力・表現力」を問うために記述式問題の導入を検討していたが、2019年12月17日に採点の質が担保できないなどといった理由から導入が見送られることとなった。
今回はその見送りとなった記述式問題について分析していきたい。
なお、今回取り上げる記述式問題の定義としては、国語の読解問題だけでなく数学や小論文も含むこととする。
目次
記述式問題自体はやるべき
まず共通テストを一旦脇に置いて、記述式問題自体はやるべきなのかを考える。
文科省の資料では、記述式問題で以下の3つを評価することを目的としている。
①解答を選択肢の中から選ぶのではなく、自らの力で考え出すことにより、より主体的な思考力・判断力の発揮が期待できること
大学入学共通テストにおける記述式問題より
②文や文章を書いたりすることを通じて思考のプロセスがより自覚的なものとなることにより、より論理的な思考力・表現力の発揮が期待できること
③記述により自らまとめた新しい考えを表現させることにより、思考力や表現力の発揮が期待でき、特に文や文章の作成に当たって、目的に応じて適切な表現様式を用いるなど、表現力の発揮が期待できること
今までのセンター試験ではマークシート方式が採用されていた。マークシート方式は採点に時間をかけなくて済む反面、回答を選択肢の中から選ぶだけなので受験生自らが考えをまとめたり論述する力はあまり問われてこなかった。
記述式問題では受験生自らが回答欄に自分の考えを記述することになるので、より深く考えたり、表現したりする能力が問われる。記述式問題はこうした力を測るためにやる価値は十分にあると思う。
共通テストで記述式問題はやるべきではない
しかし、記述式問題は前述した様々な力を測るうえでは必要だが、共通テストで記述式問題を行うことは向いていないと思う。
採点の基準が担保できない
これは今回記述式問題の採用が見送られた最も大きい要因でもある。
記述式問題の解答は人によって多種多様で、採点するのにも手間がかかる。また、採点に当たって明確な基準を設けることが難しく、採点者によって点数が変わる可能性がある。これは採点者が人間である以上、採点者の研修などの対策をどんなに行っても解決不可能な問題である。大学受験は1点2点の違いで合否が大きく変わってくるので、採点者によって採点がぶれると公平性が担保できないのではないかという懸念があった。
採点する時間がない
今回の共通テストでは約53万5000人が受験したが、それを約3週間で採点しなければいけない。大学入試センターから採点業務を受注していたベネッセは約1万人の採点者を用意するとはしていたものの、かなりのハードタスクになることが予想されていた。
自己採点が難しい
2018年に実施された共通テストの試行調査では、自己採点と実際の点数との不一致率が約3割となった。受験生は共通テストの自己採点の結果に基づいて出願校を決めるケースがあるので、記述式問題で自己採点の点数がずれると受験生は不利益を被ることになる。

各大学の個別試験で記述式問題を出すべき
共通テストで記述式問題を行わないのであれば、どこで記述式問題を出題すべきなのだろうか。
私は各大学の個別試験で記述式問題を出すべきだと考えている。各大学が行う個別試験であれば、共通テストよりも受験生の人数が減ると同時に採点者も多く必要としない。そのため採点に偏りが出にくい上、採点に時間がかからない。また、共通テストの場合自己採点で志望校を決める場合があるので自己採点しづらい記述式問題は共通テストには向いていない一方、個別試験であれば自己採点で志望校が変わるなどの影響は出ることがなく最悪自己採点がずれていたとしても大きな問題は出ない。そのため、各大学の行う個別試験は記述式問題を行いやすいのだ。
懸念点があるとすれば、この個別試験は各大学が独自に行うものなので当然記述式問題を出題するかどうかも各大学の裁量に委ねられる。そこのあたりは政府が各大学に要請することも考えるべきだと思う。
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2021年 1月 17日
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