日本国内で新型コロナウイルス感染症の蔓延が始まってから、既に2ヶ月が経った。依然ウイルスは猛威を振るっており、命を守るための休校や外出自粛はもちろん、長期的な目線でのイベント中止・経済対策を行うなど、予断を許さない状況は続く。特に政府による「新型インフルエンザ等対策特別措置法」に基づいた緊急事態宣言が出された地域は、現在も全国で感染者数が上位だ。この「緊急事態宣言」の内容については以前取り上げた。
政府対策本部長たる内閣総理大臣は緊急事態宣言を発布する際、実施する期間や内容と共に、対象区域を発表して国会に報告しなくてはならない。4月7日に発布された緊急事態宣言では東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫の7都府県が指定された。
だが一方で、対象から外れた愛知県や北海道などでは宣言を望む声が高まったほか、各地で「独自の緊急事態宣言」を出すという異例な動きが起こった。
これを受けてか、政府は15日夜から対象地域への追加を検討し始め、北海道・愛知・京都がその候補に挙がったことが報じられている。また16日午後4時現在の情報として、政府はその対象地域を全国47都道府県に拡大する方針を固め、専門家からなる諮問委員会に意見を求めることとなったことがわかっている。菅官房長官は会見で以下のように述べた。
対象地域を区切れば、対象地域以外の周辺地域にどんどん人が流れていくことを何とかしなければならないことなど、様々な観点から議論されると思っている
「独自宣言」乱発に至るまで
なるほど確かに、対象区域以外の地域に人が流れることは危険だ。だがその防止は、そもそも感染者数の居る地域に限ればいい話ではある。というのも、16日午後現在、岩手県においては感染者が確認されていない。また感染が確認されている地域のうち、9県は感染者数が20人に満たない。
さらに、そもそも対象地域を「全国」に拡大するのであれば、この「特措法」の意味がない。新法を作るべきだったという声を肯定するようなものだ。7日に出された緊急事態宣言そのものが、いかに杜撰だったかが象徴される。全国に拡大した背景として考えられるのが、先ほども述べた「独自の緊急事態宣言」が各地で乱発されたことである。大手メディアが「独自の」と報じるのは、法的根拠がないからだ。事実一部の地域が出した宣言は、その名称すら曖昧である。
一連の時系列を整理したい。まず4月7日、特措法に基づく「政府の」緊急事態宣言が発令される。対象地域は7都道府県(東京、神奈川、埼玉、千葉。大阪、兵庫、福岡)。この時点で既に、愛知を追加するべきとの声が高まっていた。9日に、愛知県が政府に対象地域への追加を要望する。だが官房長官はお得意の「専門家の意見を…」でかわした。今考えれば、この対応に問題があったとしか思えない。

4月10日、愛知県が「独自の緊急事態宣言」を発令する。密かに自らの道府県の追加を望んでいた知事からすれば『そんなのアリかよ』と言わんばかりだ。同日、三重県が「感染拡大阻止緊急宣言」を発令。さらに岐阜県も「非常事態宣言」発令。どちらも名前こそ違うが、独自の宣言であることに変わりはない。さらにこの日は京都府が、政府に対象地域への追加を要望している。この日の動きが活発化したのは、翌日と翌々日の土日を見据えてのことだろう。
これらの動きに追従するように、12日には北海道と札幌市が「緊急共同宣言」を発令する。これも当然独自だ。さらに13日には石川が、14日には香川と福井が、それぞれ独自の緊急事態宣言を出した。
また昨日から今日にかけては、新たに滋賀、山形、新潟、宮城の県知事が独自の緊急事態宣言に言及している。収拾がつかない状況になっていることはお判りいただけただろう。
広がるのは「感染症」や「独自宣言」だけではなく…
「新型インフルエンザ等対策特別措置法」における「緊急事態宣言」の発令主体は政府だ。当然各都道府県知事にその権限はない。だが一方で、「独自の宣言」を出すことを制限する条文も法律もないのだ。そもそも特措法における「オリジナル」の緊急事態宣言は、国民に罰則をもって強制させるものではない。つまり各都道府県が独自で出した宣言との違いは法的な地位だけであり、国民の受け取り方としては変わらない。むしろ三重・岐阜・北海道のようにわざわざ名称を変えて宣言を出すことは、各地域の住人に混乱をもたらす恐れすらある。対象地域が全国に拡大される背景として、このような事態を避ける必要もあったのだろう。
だが、宣言が「法律に基づいて」いようが「独自」であろうが、その実態にほとんど違いがないことは明白だ。現実を変えなければどうしようもないのに、大儀ばかりにとらわれているまさに「実を捨てて名を取る」悲惨な状態としか言いようがない。今日飛び交ったニュースのもう一つは、安倍総理が国民一人当たり現金10万円を一律給付する方針を自民党幹部に伝え、20日提出予定であった補正予算案に組み込んだうえで提出を遅らせる方向で調整していることだ。遅すぎる対応としか言いようがない。
問題はまだまだ山積しているのに、これらのことすらまだ「調整」「方針を固める」の段階だ。週明けには当初の緊急事態宣言の効果が表れ始めるはずだが、このタイミングでもおそらく新たな「追加措置」があるのだろう。
“最初からそうして欲しかった。”
この声は、感染症と共に「全国に拡大」している。
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