自民党改憲案 憲法11条と重複する97条(基本的人権の保障)の削除は妥当か

平成24年に決定された自民党の改憲草案。私は憲法9条や緊急事態条項などの改憲に賛成である一方で、自民党の改憲案には反対だ。しかし、主に左翼の改憲案批判で「自民党は憲法97条(基本的人権の保障)を丸ごと削除している!自民党は基本的人権をないがしろにするむごい政党だ!」というのはさすがにデマ・ミスリードだと思っていた。今までは。。。

(2020年12月31日の私のツイート)

自民党の主張

自民党の主張は、憲法11条と憲法97条は内容が重複しており、憲法97条は必要ないと考えたようだ。

我が党の憲法改正草案では、基本的人権の本質について定める現行憲法 97条を削除しましたが、これは、現行憲法 11 条と内容的に重複している(※)と考えたために削除したものであり、「人権が生まれながらにして当然に有するものである」ことを否定したものではありません。

日本国憲法改正草案 Q&A より

なるほど確かに、憲法11条と憲法97条の主旨はどちらも基本的人権の保障である。

さらに付け加えると、自民党のQ&Aには憲法97条の成立過程について以下のように書かれている。

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現行憲法の制定過程を見ると、11 条後段と 97 条の重複については、97 条のもととなった総司令部案 10 条が GHQ ホイットニー民政局長の直々の起草によることから、政府案起草者がその削除に躊躇したのが原因であることが明らかになっている。

日本国憲法改正草案 Q&A より

これを読むと、憲法97条はマッカーサー元帥に近かったホイットニー氏の案が押し付けられたわけで、政府案起草者が本来消すべきだった条文を削除しなかったと捉えることもできる。なるほどなるほど、これはやはり憲法97条は削除すべきなのだろうか。

97条が「最高法規」の章に存在することの意味

ところで、皆さんは憲法の「最高法規性」が2種類あるのはご存じだろうか。多くの人は憲法の最高法規性といえば、憲法が国の法体系のトップであるというイメージを持つと思うが、実は憲法の最高法規性は「形式的最高法規性」と「実質的最高法規性」に分けることができる。

形式的最高法規性とはそのままの意味で、先ほどの「憲法が国の法体系のトップである」という事実そのものである。うってかわって実質的最高法規性とは、国家権力から国民の権利や自由を保障する近代憲法の立憲的な価値観をもってして存在意義があるとするというものだ。

最高法規としての憲法の本質は、むしろ、憲法が実質的に法律と異なるという点に求められなければならない。つまり、憲法が最高法規であるのは、その内容が、人間の権利・自由をあらゆる国家権力から不可侵のものとして保障する規範を中心として構成されているからである。これは、「自由の基礎法」であることが憲法の最高法規性の実質的根拠であること、この「実質的最高法規性」は、形式的最高法規性の基礎をなし、憲法の最高法規性を真に支えるものであること、を意味する。

日本国憲法第十章「最高法規」の冒頭にあって、基本的人権が永久不可侵であることを宣言する九七条は、硬性憲法の建前(九六条)、およびそこから当然に派生する憲法の形式的最高法規性(九八条)の実質的な根拠を明らかにした規定である。

芦部信喜(高橋和之補訂)『憲法[第 5 版]』(岩波書店、2011 年)p.12 より

さてここで、憲法97条の条文をもう一度細かく読んでみよう。

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憲法97条は、人類が基本的人権を獲得するに至った過程と、権利が永久不可侵であることが明記されている。つまり、この条文は実質的最高法規性にあたり、日本国憲法そのものが形式的なものではなく実質的な最高法規である根拠となっているのだ。

11条と97条の違いは?

では憲法11条と97条はどこに違いがあるのだろうか。先程条文を照らし合わせたように、条文の主旨はほとんど違いのないこの2つの条文だが、決定的に異なるのは条文の「役割」なのだ。

まず憲法11条と97条をよく照らし合わせると、若干条文が違う。特に、憲法11条には書かれていないが、憲法97条に書かれているのが、「人類が基本的人権を獲得するに至った過程」である。

つまり、憲法97条は人類が憲法に実質的な力を持たせるまでの過程を示しているわけであり、総則的な意味がとてつもなく大きい。

また、憲法11条は「人権享有主体性」を強調する条文であるのに対し、先程解説したように憲法97条は10章の「最高法規」の章に置かれており、日本国憲法が実質的な最高法規であることを示す条文である。このように、憲法11条と97条では役割が大きく違うのだ。

憲法97条は改正する必要はないのでは

私の結論としては、憲法97条を改正する必要はないと考える。憲法11条と大部分が重複するのは事実だが、さすがに憲法11条と内容が重複するからとして今までの憲法の成立過程や「最高法規」の章に存在することを全部無視して改憲するのは根拠が薄いだろう。

仮に憲法97条を削除した場合は、統治機構は「基本的人権の保障という目的を達成するための手段」であるという憲法の根底が揺らいでしまうことになる。憲法97条があることで人権体系が憲法の根本規範ということになっているが、仮に人権規定と統治規定でバッティングする事例が生じた際、統治規定が優先され基本的人権がないがしろにされる可能性も否定できない。そういった意味では左派の言う「自民党は基本的人権をないがしろにしている!」という批判も理解できる。

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恐らく自民党の方々も基本的人権を蔑ろにしたいという意図があるわけではない(と信じたい)はずなので、内容がダブっていてもわざわざ改正する必要もないのでは、と思った。

編集後記

この記事に関して、意見・感想などがあれば私のTwitterアカウント(@Yomogi_hs)のDMか、私のメールアドレス(yomogi.hs@gmail.com)に送っていただけると参考になるのでありがたい。

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よもぎおとな研究所 副編集長

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最近は教育問題に関心あり

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