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【編集部解説】菅原一秀氏の経歴、公選法違反の不祥事。ポイントは「民意の反映」

政治家による不祥事というのは、国民の耳に毎日のように飛び込んでくる話題です。

2021年6月1日、また1人の国会議員が辞職願を提出しました。

辞職するのは衆議院東京9区選出の、菅原一秀衆議院議員。与党・自民党所属の国会議員で、閣僚を務めたほか、菅義偉内閣総理大臣の側近の1人と目されていた人です。

菅原一秀氏については議員辞職に先立って、自民党に離党届を提出したことが報じられていました。そのため「急に湧き上がったスキャンダルではない。辞職・離党は予想できた。」というのがほとんどの人の見解ではないでしょうか。

この記事では、菅原一秀氏とはどのような人物なのか、そして今回の事件がどのような点で違法なのかについて解説していきます。

菅原一秀氏の政治家としての歩み

菅原一秀氏は1962(昭和37)年1月7日、東京都練馬区豊玉に生まれました。

練馬区立豊玉南小学校、豊玉中学校を卒業されたということですが、中学校時代はサッカー部に所属し活躍していたそうです。

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その後、早稲田大学の系属校として知られる早稲田実業高校を卒業。高校時代は硬式野球部でバッティングピッチャーとして甲子園出場の牽引力となったそうですが、これを巡っては初当選2003年衆議院選挙の際、実際は3回の出場であるにも関わらず選挙公報に「4回出場」と記したことが問題になりました。ちなみに菅原氏はいずれも補欠でベンチ入りせず、「一部員として」出場したということです。

早実を卒業後は早稲田大学社会学部に推薦入学し、のちに同大学政治経済学部政治学科に学士入学し、寄本勝美ゼミで地方自治を研究する一方、早大雄弁会で活躍しました。

早大の卒業後は、総合商社である日商岩井(現在の双日)に入社。1991年に自民党公認で練馬区議会議員選挙に出馬し初当選したことで、政治家の道を歩み始めます。1995年にも区議会議員に再選していますが、1997年に辞職。同年の都議会議員選挙に練馬区選挙区から同じく自民党公認で出馬しこちらも初当選。

この3年後の2000年、都議の1期目満了を待たずに自民党公認で遂に衆議院総選挙に東京9区から出馬します。しかし約96%という高い惜敗率で相手候補に敗北。3年後の2003年衆議院総選挙に同じく東京9区から出馬し初当選しました。以降同選挙区から出馬し6連続当選しています。(うち1回は政権交代時の比例復活)

菅原氏は代議士時代の18年近く、党や政府で様々な職を歴任してきました。

民主党への政権交代前である第一次安倍内閣においても大臣政務官に登用されていますが、政権奪還後の第二次安倍内閣以降は副大臣クラス、さらに大臣クラスへ登用されることになります。

しかし後述の不祥事により、2019年に経済産業大臣を辞任に追い込まれ、以降は目立った活動もできず、最終的に議員辞職へと追い込まれたのでした。

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メロン・カニ・香典問題

話は2009年にさかのぼります。この年の8月、朝日新聞が以下のような報道を行いました。

自民党の菅原一秀・前衆院議員側が07年夏、同氏の選挙区である東京9区(東京都練馬区)の支持者らに1個約2千円のメロンを贈った疑いがあることがわかった。公職選挙法は国会議員やその後援団体などが選挙区内で金品を贈ることを禁じている。

複数の関係者によると、菅原氏側は、菅原氏が現職当時の同年7月、北海道稚内市の物産店に贈答用メロンを注文し、配送を依頼した。2個入り123件、3個入り9件、5個入り1件の計133件で、1件千円の送料と合わせ費用は計75万8千円。菅原氏が代表を務める自由民主党東京都第9選挙区支部あてに領収証も発行された。注文はその後、数件増えたという。

選挙区内支持者にメロン贈る? 自民・菅原一秀氏 朝日新聞

この時はまさに自民党から民主党へ政権が移ろうとしている総選挙の最中であり、メディアは自民党議員の不祥事を追うのに躍起になっていたため、この問題もさほど大きな問題として取り上げられることはありませんでした。

事実この後も、菅原氏は党副幹事長などに就任しています。

問題が表面化するのは、その10年後の2019年。菅原氏が経済産業大臣に就任してからのことでした。この年の10月はこの人の話題で持ちきりだったことは、読者の皆さんの記憶に新しいかも知れません。

週刊文春が秘書給与のピンハネ疑惑とともに、有権者買収を報じたのです。秘書給与のピンハネについては2007年にも同様の報道が週刊文春によってなされていたのですが、2019年報道の際には菅原の暴力などにより公設秘書17人が退職したことや、秘書に給与上納を要求していたことなどが報じられました。

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国会議員秘書給与法(国会議員の秘書の給与等に関する法律)第21条の3では「何人も、議員秘書に対して(略)寄附を勧誘し、又は要求してはならない」と定めているため、ピンハネやその要求が事実であれば法律に違反しています。

さらにこの報道を受けての野党の追求の中で、「贈答品リスト」が公表され、菅原氏自らが地元の有権者に配った疑惑のあるメロンやカニ、イクラなどを「振り分ける」音声データが明るみとなりました。当然ながら、公職選挙法では国会議員やその後援団体などが選挙区内で金品を贈ることを禁じています。

この時点では経済産業大臣に留任していましたが、文春砲が止むことはありませんでした。なんとこの報道のさなかである2019年10月17日に東京9区内の斎場で行われた支援者の通夜で、菅原の公設秘書が香典を受付に手渡している写真が公表されたのでした。公職選挙法では議員自らが葬式や通夜に出席して香典を渡す場合を除いて、家族や秘書が政治家名義で香典を渡すことには罰則があります。

結局菅原氏は「法案審議の停滞を避けるため」として大臣を辞職しますが、離党・議員辞職は否定。2019年10月の波乱は幕を閉じたのでした。

起訴猶予から一転起訴相当へ

以上のなかで、メディアによる報道が「不祥事」である根拠ーつまり菅原一秀氏の行為の違法性のことですがーについては余す所無く解説しました。

当然ながら菅原氏は一般市民から刑事告発を受け、そして同様に当然ながら起訴される…はずでした。

2020年6月、捜査を行っていた東京地検特捜部は菅原氏を「起訴猶予」とします。すなわち不起訴です。根拠は「法を軽視する姿勢が顕著とまでは言い難かったため」。いずれの事案も公選法違反と認めながら不起訴とした検察の判断は極めて異例なものだったのです。

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しかしこの不起訴処分が下る中でも飛ぶのは文春砲。バス旅行で有権者800人を接待していた疑惑が報道されます。こちらも言うまでもなく、公選法違反に当たる寄附行為です。

そして最初に刑事告発を行った人物は、検察審査会に異議申し立てを行いました。

検察審査会ってどんなところ… | 裁判所
出典:裁判所

検察審査会は、国民の中から無作為にくじ引きによって選ばれた検察審査員11人によって構成される機関で、法執行に民主的な意思を反映させるためのシステム。これにより菅原氏に対する「不起訴」という検察の決定の妥当性を審査するわけです。

審査会が1回目に出す議決は、不起訴の判断には納得できるという「不起訴相当」、不起訴の判断には納得できないという「不起訴不当」、不起訴を取り消して起訴すべきだという「起訴相当」の3種類。「不起訴不当」もしくは「起訴相当」の結果の場合は検察は再調査を行うか、審査会が2回目の審議を開始します。特に起訴相当の場合は審査員のうち8人の賛成が必要となるため、2回目の審議においても「起訴すべき」となる可能性が高く、この結論となった場合は強制起訴となります。

時は流れて2021年2月、審査を行った東京第四検察審査会は検察の判断を批判した上で「起訴相当」と議決。これを受けて東京地検特捜部は再度捜査を行うことを表明しました。4月に入り菅原氏は検察から任意で事情聴取され、遂に先月、略式起訴の方針が報道されるに至りました。

離党・議員辞職については既に述べたとおりです。

大臣辞職から2年の経過。衆院選への影響は必至

刑事告発した市民と、検察審査会による判断がなければ、菅原氏の議員辞職は無かったかも知れないことを考えると、検察機関に対する民意の反映の重要性が確認できるのではないでしょうか。

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今年中に必ず行われる衆議院解散総選挙が近いため補欠選挙は行われないものの、与党自民党への影響は必至です。

直接的な影響としては、来月行われる東京都議会議員選挙が挙げられます。都民ファーストの会の劣勢は想定されるものの、自民党はもちろん、連携する公明党の風当たりも決して優しいものではないでしょう。

何よりも問題なのは、当の本人が大臣辞職で幕引きを図ろうとしてから既に2年が経過している点。他にも多数疑惑が存在することを考えると、果たすべき説明責任は与党自民党にも存在しているとしか言いようがありません。

今後の捜査は、引き続き注目されます。

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