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間もなく開幕 政治と戦争に踊らされてきたオリンピックを振り返る

 新型コロナウイルスの影響で、1年間延期されていた東京オリンピックが間もなく開幕する。2013年、開催地が東京に決まったが、開催費用をめぐる問題やコロナ禍での開催に多くの批判が集まり、正直「ゴタゴタ」の中で開催が敢行されていることも事実である。

 今回の五輪は新型コロナウイルスに翻弄されただけでなく、多くの対立が絡みあったものになっているといえるではないだろうか。政治面では、開催を推進した政府・与党に対し、何かにかこつけて開催の中止を主張した野党。国民の意見も二分された。

 神聖なスポーツの祭典であるオリンピックが政治に影響されるものであってはいけない。しかし、過去には戦争や国家間の対立によって、一部の国によるボイコットや、さらには中止に追い込まれたケースも存在する。今回の記事では、オリンピック史の「黒い部分」を振り返っていくことで、後世に同じ失敗を繰り返していかないようこの問題を考えていきたい。

東京に建設されたオリンピックスタジアム

五輪史の「黒い部分」

 近代オリンピック、いわゆる現在の形のオリンピックとなったのは、1896年。今から125年前のことである。

 125年の間、様々な出来事があったが、主に暗い部分として挙げられるオリンピックは、以下のものである。

1936年 ベルリンオリンピック

1940年 東京オリンピック(中止)

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1980年 モスクワオリンピック

1984年 ロサンゼルスオリンピック

これらのオリンピックで一体何が起こったのか。次のパラグラフから、これらの問題を振り返っていく。

ヒトラーの政治利用

1936年 ベルリンオリンピック

 時は1936年のベルリンオリンピック。当時、ナチスの政権下だったドイツでは、ヒトラーがオリンピックをプロパガンダの目的に利用した。

プロパガンダ
 多数の人々の態度や行動に働きかけて,一定の方向に操作しようとする意図的,組織的試み。意見が対立するような政治的・経済的・社会的問題をめぐって,世論を宣伝者に有利な方向に操作しようとする政治宣伝は,過去のいかなる政治社会においても重要な役割を果たしてきた。
(ブリタニカ国際大百科事典より)

 当時、ユダヤ人に対する人権侵害など、人種差別主義を前面に押し出し、強く統一されたイメージを誇示した一方で、オリンピックの際にはその事実を隠すようになった。

 一方で、ドイツ人選手団からユダヤ人やジブシー(移動型民族)を排除するなどの民族差別は依然として行われていた。

 これに対し、アメリカやヨーロッパ諸国がボイコットを呼びかけたものの、失敗に終わる。しかし、この出来事は将来の世界の人権問題に目を向けさせるきっかけになったといえるだろう。

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幻のオリンピック ーTOKYO1940

1936年・ドイツから東京にバトン。しかしこのオリンピックは幻に終わった

 皆さんは、幻のオリンピックともいわれる「1940年東京オリンピック」をご存じだろうか。1964年の東京オリンピック以前にも、本当は日本でのオリンピック開催が決定していた。

 アジアの大国となり、オリンピックの開催でさらに力を強めようとしていた日本だったが、日中戦争の激化により開催が困難に。日本は自ら開催権を返上することになってしまった。

東西冷戦下の醜い争い

 オリンピック史の中でも、とくに有名なのが「東西冷戦による双方のボイコット」だろう。

 資本主義ブロックと社会主義ブロックの対立が発端となって起こった東西冷戦。その政治的な対立は、オリンピックにも影を落とすこととなった。

1980年 モスクワオリンピック

 1980年のモスクワオリンピック。ソ連は資本主義国でない国としては初めてオリンピックを開催した。しかし、前年のソ連軍によるアフガニスタン侵攻が問題視され、アメリカのカーター大統領(当時)がボイコットを呼びかけたことで、アメリカや日本、西ヨーロッパをはじめとした西側諸国がこれに同調した。

1984年 ロサンゼルスオリンピック

 4年後のロサンゼルスオリンピックでは、ソ連が東側諸国を率いてこれを報復ボイコット。ソ連をはじめとする社会主義陣営はこの時を境に没落し、崩壊へと進んでいった。

 1980年のボイコットにはれっきとした理由が存在するが、1984年の東側諸国によるものは報復のためのものであり、政治利用されたといっても過言ではないだろう。

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後ろ向きだった「TOKYO2020」

  2回目の東京オリンピック開催が叶ったわけだが、ここに至るまでには様々な困難があった。

 2013年に東京への招致が決まったものの、開催費用をめぐる問題がやり玉に挙がったうえ、新型コロナウイルスの大流行により、1年間の延期をせざるを得なくなった。

 2021年、ようやく開催が叶ったものの、世論においては賛否が分かれるなど、決して楽な道ではないのが実情ある。

オリンピックの本来の目的に立ち返れ

近代オリンピックの創始者 ピエール・ド・クーベルタン

 今夏開催のオリンピックは、日本の政治にも大きな影響を与えた。開催を推進する与党と、それに強硬に反対する野党の間で政争が巻き起され、オリンピックはいわば「槍玉」にあげられている状態だといえる。

 しかし、オリンピックの本来の目的、理念に立ち返ってみたとき、このような形でオリンピックを政治利用するのはいかがなものだろうか。先日行われた東京都議会議員選挙では、左派系野党の一部が公約やポスターに「五輪中止」を掲げた。しかし、新東京都議の任期が開催する頃にはオリンピックは開催されるのだから、中止に動けるわけがない。結局国民の不安を煽り、自らの党勢拡大に利用しているではないかといえるだろう。

 オリンピックはギリシャ神話の時代から行われてきたともいわれる、歴史の長いイベントだ。古代ではオリンピック間は戦争を中止するなど、『平和の祭典』ともいわれてきた。

 しかし、近代では戦争や国家間対立、プロパガンダによって、オリンピックは政治的に利用されるようになってしまった。何度も失敗して、その度に反省してきたはずであるが、日本がまた同じ道を進もうとしていることに呆れを禁じ得ない。

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 オリンピックは第一に『選手』のために行われるものである。それを戦争や政治的理由で阻害することがあってはならない。今こそ、過去の出来事に立ち返り、反省をすべき時だ。

引用・参考資料

日本オリンピック協会 公式ホームページ

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