自民党は公認争いなどしている場合ではない -山口3区と派閥抗争に見る絶望

 新型コロナウイルス感染症の防疫政策や、目前に迫った東京オリンピック・パラリンピック、一方で深刻な被害を受けた飲食店をはじめとした支援金など、いま政府取り組むべき事柄は枚挙に暇がない。つい先週には西村康稔経済再生担当大臣が酒類を提供する飲食店について、「金融機関や卸売業者に対しても働きかける」などと発言して大きな批判を浴びた。

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 事実政府・自民党の仕事は多いはずなのである。決してこのような道楽のようなことをやっている暇はないはずなのだが、実際問題としてこのような事が起こっているのである。ずばり「次期衆議院解散総選挙の公認内定をめぐる党内の争い」だ。

 コレ自体は決して他党でも物珍しいものではない。有権者の記憶に新しいものを挙げれば、前回の衆議院選挙に行われた2017年、希望の党の公認選定問題。当時野党第一党であった民進党の代表である前原誠司氏が、既に退潮傾向であった党のこれ以上の崩壊させじと、小池百合子東京都知事が中心となって結党した「希望の党」への合流を画策。しかし当の小池氏本人を含む希望の党側が「公認候補の選別」を主張し、実際に公認を得られなかった(もしくは受けられる見込みがなくなった)前議員等によって「立憲民主党」が結党され、総選挙では野党第一党に躍進。現在に至るまで野党政局の中心で有り続けた。

 こうした政党の公認争いは、当然ながら政権与党である自民党でも起きている。今回は第49回衆議院議員総選挙を前にして発生しているこうした自民党の公認争いのうち、山口3区の公認候補をめぐる経緯を取り上げていきたい。

山口3区の現職は「選挙の鬼」河村建夫氏

 そもそも山口県というのは、いわゆる「保守王国」とされる地域。すべての選挙区を自民党公認候補が強力な地盤で固め、圧勝してきた。選出議員としては山口4区の安倍晋三前首相、その実弟である岸信夫防衛大臣は山口2区だ。いずれも対立候補の比例復活当選を許さない圧勝である。

 その山口県の選挙区うち、3区で選出されているのが河村建夫氏だ。彼も他の山口選出の代議士同様、圧倒的な知名度と地盤で、他候補に大差をつけて勝利してきた。直近の選挙である2017年の第48回総選挙では、実に70%を超える得票率である。

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ファイル:Takeo Kawamura.jpg
河村氏(出典)

 河村氏は地元で県議会議員を4期務めた後、1990年に自民党公認で衆院選に出馬し初当選。以来10期に渡り小選挙区当選を決めてきた実力者だ。小泉内閣で文部科学大臣を務めたほか、麻生政権では官房長官に就任している。

 この麻生政権での官房長官就任には理由がある。当初から麻生政権は世界金融危機と湧き上がる政権交代ブームの煽りを受けていたため、解散総選挙を行えばどの道大敗することがわかりきっていた。よって長期政権であることを想定されておらず、政権発足直後の解散説が有力視されていたのである。

 こうした理由から、政府・党双方における総理総裁の女房役である幹事長と官房長官は「選挙で絶対に負けない人」という条件で選定されたのだと、麻生氏は後年語っている。結果として麻生政権における幹事長は、後に清和政策研究会(当時町村派)の領袖となる細田博之氏、そして官房長官には河村建夫氏が選ばれたというわけだ。派閥の力学を超えた力技である。

 また河村氏は当選以来一貫して志帥会、つまり二階派に所属してきた。そのため二階俊博幹事長の懐刀という側面もあるわけだが、官房長官経験者であり「選挙の鬼」であるため、様々な議連を率いる「議連のドン」という顔もある。いずれにしても安倍氏や岸氏といった細田派色の強い地域であるため、県連内では決して有利な立場ではないのである。

挑戦者は「総理を狙う男」林芳正氏

 この河村氏に反旗を翻したのが、参議院山口県選挙区選出の参議院議員、林芳正氏だ。1995年に初当選して以来5回当選という、こちらも実力者。閣僚を含む政府・党の多くの要職を経験してきており、2012年には総裁選にも立候補している。

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林氏(出典)

 自民党の国会議員が総裁選に立候補するということはすなわち「内閣総理大臣になる」ということを目指すことを意味するわけだが、当選はならなかったものの林氏は出馬自体が党史に残るという結果になった。1972年に自民党総裁選挙で推薦人制度が導入されて以降、参議院議員としてはじめて総裁選に立候補したのである。

 内閣総理大臣選挙を決定する衆参両院での首班指名選挙における指名資格は2つだけだ。「国会議員であること」と「文民であること」。すなわち衆議院議員であろうと参議院議員であろうと、総理大臣になることは可能なのだ。にもかかわらず、戦後の総理大臣はすべて衆議院議員から選出されてきた。また参議院議員経験者は2名居るが、両名とも総裁選出馬にあたって衆院に鞍替え当選している。

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 明文化されていないものの「総理大臣は衆議院議員から」という慣例が事実上定着しているのは、内閣総理大臣の権能である「衆議院の解散権」が大きく関わっている。要は、「解散のない参議院の議員が、両翼をなす衆議院の解散権を持つのはおかしい」というロジックなのである。

 とは言え、過去に首班指名選挙で参議院議員が多数得票した例は無いわけではない。2009年、民主党に政権が移行した際、辞任した麻生総裁に代わる総裁を選出できず、まとまった候補の擁立が難航したことから、当時の両院議員総会長である若林正俊参議院議員に投票することで決着が付いた。若林氏はこの首班指名選挙で、衆参合わせて480票を獲得している。

 前置きが長くなったが、林氏が衆院への鞍替え出馬を狙う理由はご理解いただけただろう。自ら「総理を狙う」としている以上、参議院議員に甘んじていることはできない、というわけなのである。林氏は2021年7月15日に正式に山口3区からの出馬を表明した。

動向の鍵は「県連」「党本部」そして「派閥」

衆議院山口3区を巡る自民党内の攻防

 こうした公認争いは他地域でも見られるが、この件が具合をさらに悪くしている要因として、自民党という組織そのものが抱える様々な火種を集約している点が指摘できる。

 1つには「地方と党本部」だ。岸信夫防衛大臣を会長とする自民党山口県連は、県議団や地方首長らとともに、林氏の推薦・支援に動いている。一方党本部の責任者は幹事長である二階氏その人。派閥のパーティーなどでは「受けて立つ」と息巻いている。

 党本部の公認の基準として「現職優先」としている二階氏だが、同様の公認争いが起きている静岡5区や新潟2区など、民進党からの離党組を二階派に抱きこんだ形となっている選挙区については「地元の声を聞く」とトーンダウンしていることから、他派閥から「ダブスタだ」との批判が出ている。

 こうした党本部の理論に振り回されている地方県連が、二階氏のやり方に不満を持つのも当たり前だ。だがこのケースでは公認候補の変更を求めているのはむしろ地方の側なのである。問題を複雑化させているのは、やはり派閥の存在が大きい。

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 林芳正氏が所属しているのは宏池会、つまり岸田派だ。岸田派と二階派といえば、さきの参議院通常選挙・広島選挙区で、岸田派現職の溝手顕正氏と、後に二階派に所属する新人の河合案里氏が定数2を争うなど、因縁の間柄なのである。今回の林氏の鞍替え表明にあたっても、岸田文雄氏は「全力でサポートする」としている。

 だが一方で、別の岸田派幹部からは「今回が最後だ」との声も聞こえるという。ここに来て二階派との全面対決が鮮明になったことで、万が一公認争いや選挙で負けた場合の逃げ道を考えていると見ることもできる。

 さらに山口県連の会長は岸信夫氏で、彼が所属するのは細田派。同じ県連所属の議員であり兄でもある安倍晋三氏と二階氏は、2021年に入って活発化したいわゆる「議連政局」で、互いに牽制しあっている関係である。自らが所属する県連の問題でもあるため息を潜めていると思われる安倍氏だが、先述の新潟2区では、二階派の鷲尾英一郎氏と公認争いを行っている細田健一氏を「唯一の公認候補」として、複数回現地入りした上で地元の支援を呼びかけている。

 こうした重層的な要素が複雑に絡み合っているのがこの「山口3区問題」であると言えるのである。

自民党は本来、このようなことをしている場合ではない

 ところで、昨日7月16日の時事通信社による世論調査で、衝撃的な結果が飛び込んできた。

時事通信が9~12日に実施した7月の世論調査で、菅内閣の支持率は前月比3.8ポイント減の29.3%で、不支持率は5.6ポイント増の49.8%となった。政権発足後、支持率が3割を切り「危険水域」とされる20%台に落ち込むのは初めて。逆に不支持率は最高となった。

菅内閣支持29.3%、発足後最低 初の3割割れ―時事世論調査:時事ドットコム

 菅内閣の支持率が、まさに文字通り危機的な状況となっているのである。冒頭述べたように、菅内閣の解散総選挙までの仕事は山積しているはずだ。なのに、そもそもの基礎票である自民党支持票が危うくなる中で内輪もめをしているようでは、地元の支持者ばかりか全国的な求心力を更に低下させかねないのではないか。

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 巨大与党だけに、派閥の存在感は大きくなるし、中央と地方の乖離も大きくなる。公明党の顔色も伺わなければならない。だがそのバランスさえ取ることができないのであれば、とても国難に立ち向かう政権を担当する能力があるとは言えないのではないか。

 自民党内部での対立が、選挙で誰を立てるか、誰が勝つかということだけに終始しない本質的な議論となる日は来るのだろうか。

参考文献

 

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Akiおとな研究所 編集長

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おとな研究所 編集長
趣味は短歌、動画編集。不登校経験あり。

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