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高圧経済の限界ー積極財政による高インフレ、低成長、不景気

※この記事は、ゲストライターによる寄稿記事です。おとな研究所編集部や所属ライターが作成した記事ではありません。なお、寄稿の応募はコチラから誰でも可能です。

筆者:神谷ゆうた Twitter


米国ではバイデン政権の就任後、いわゆる「高圧経済」を唱えるイエレン氏が財務長官に就任し、かなりかなり強気な財政金融政策が実施されている。日本でも国民民主党の玉木雄一郎代表などが賛意を表明している高圧経済だが、賛否両論あり米国経済に様々な影響を与えている。本日は米国の2000兆円経済で実施されている壮大な実験、高圧経済の功罪を検証していきたい。

MMT論者顔負けの経済対策


高圧経済ドクトリンとは、従来の経済政策で重要視されている物価上昇目標(インフレターゲット)よりも、経済成長と失業率を重要視する経済政策だ。インフレに関係なく、常に完全雇用を目指し、限りなく高い経済成長を実現させる事を目標としている。これを実現する為に、莫大な政府支出と金融緩和を是としている政策姿勢だ。

パンデミックを受けて米連邦政府は、これまでに類を見ない規模の財政措置を講じた。パンデミック前には4.4兆ドルであった連邦予算は2020年度には6.6兆ドルに達し、21年度予算も6.8兆ドルに達する予測となっている。これに伴い、財政赤字もパンデミック前の0.99兆ドルから2020年度には4.28兆ドルにまで拡大した。

金融政策を担う連邦準備銀行(FRB)も同じく強気の金融政策を展開している。公定歩合はパンデミック発生時(2020年3月)に1.75ポイントから0.25ポイントにまで下げられて以降、固定されている。更にQE4と呼ばれる量的緩和政策も遂行中である。

大判振る舞いの副作用


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これらの対策を講じてもなお、米国では依然として失業率が高い水準にある。7月の失業率は5.4%と、パンデミック前の3.5%には程遠い水準にある。実質国内総生産(GDP)も19.36兆ドルと、パンデミック前の19.20兆を超えてるが、高圧経済論者が想定している供給の限界(潜在GDP)はパンデミック中も成長し、未だに成長の余地があると高圧経済論者は主張している。

しかし、米国では急速にインフレが進行しておりこれ以上、財政・金融拡大政策を維持できるかどうかには疑問符が残る。2021年7月に物価は5.4%も上昇した。これは、リーマンショック直前、米金融バブル中の2008年8月以来の高水準だ。高圧経済論者の一部はコロナ時の低インフレのリバウンド(跳ね返り)だと主張しているが、既に米国の物価指数はパンデミック前のトレンドを大きく超えている。確実に物価上昇局面になったと言えるだろう。



インフレと言う二日酔い


インフレがそこまで問題なのか?と思う読者もいるかもしれない。確かに日本は低インフレで悩まされているし、必ずしもインフレ自体は悪い現象ではない。実際に米国を含む主要経済は2から3%のインフレターゲットを持っている。しかし、5%を超えた米国のインフレは、結果的に消費者心理の低下を招いており、景気感を悪化させている。2021年8月の消費者態度指数は70ポイントを記録し、パンデミック後最悪の結果となった。ワクチン接種が進み行動制限が大幅に緩和されたのに、である。

高圧経済論者は、失業率がパンデミック前のレベルに回復するまでこの政策を維持する様に主張している。しかしながら、多額の失業給付や家賃補助が逆に労働意欲を阻害し、雇用の回復を阻んでいるとの指摘が主流派経済学者から殺到している。皮肉な事に、失業の克服を目標とした財政政策が逆に就労を阻害し、悪性インフレを進行させている。

結局、主流派が正しかったのか?

更に、高圧経済論は、実施前に、数々の経済学者からこのような悪性インフレを引き起こす可能性を指摘されていた。しかし、これに対して「潜在GDPはこれまでの見立てよりも高い筈だ」と主張し、莫大な支出を正当化した。潜在GDPは従来、効率的な生産を維持できる限界のGDPをされており、これを超えるとインフレギャップが拡大し、急速な物価上昇を招くとされていた。高圧経済論者によるこの実験は結果的に従来の経済学の見立てが正しかった事を証明してしまったのだ。

課題山積の米国経済

高圧経済論者は、現在米国で生じている数々の供給問題は短期間で解決できるとしており、この高インフレは来年には終わり、3%前後に落ち着くと予測している。しかし、パンデミック経済で消費者の行動様式が変わった結果、工場、港湾設備や陸上交通など、インフラ的要因が引き起こすボトルネックは半年単位で解決する事は難しいだろう。就労意欲が再びが戻ってきたとしても、設備投資だけは短期間で解決できない。特に、暗号資産関連の需要が急増している半導体分野の供給問題は、電子機器のみならず、自動車や鉄道、航空などの交通インフラ整備にも世界規模で悪影響を与える可能性がある。果たして高圧経済論者はこれを考慮しているのか、との疑問も残る。

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イデオロギーよりもエビデンスを

日本では実際に政府による対策不足の結果、30兆円程度のGDPギャップが依然残っており、財政対策が急務だ。しかしながら、一部積極財政派が求める超大規模な財政措置を行う事に伴う副作用はしっかり考慮されるべきだ。経済はその国の住民全員に直接的な影響を及ぼす分野だ。過激な理論に基づく実験ではなく、既に存在するエビデンスと理論に基づいた冷静な政策決定が求められているのではないか。


筆者について
神谷ゆうたは日本維新の会学生部広報課長であり、現在オーストラリア国立大学で政治哲学経済学部(PPE)を専攻中の学生です。Twitter

この記事は、ゲストライターによる寄稿記事です。おとな研究所編集部や所属ライターが作成した記事ではありません。なお、寄稿の応募はコチラから誰でも可能です。

3件のコメント

そうそう
裁量的財政政策で完全雇用を目指す際に起こるんですよねインフレは
だから失業者に対し的を絞ったJGが必要という訳ですね
もちろんJGを行えばインフレに見舞われますが
http://www.levyinstitute.org/pubs/rpr_4_18.pdf
インフレを恐れて緊縮財政に回帰するべきではないというのがミッチェル教授の言う所だと思いますね
あとMMTerは金融政策に懐疑的なのでは

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