松戸市VTuber・戸定梨香の動画削除 -フェミニスト議連の無責任な対応は許されない

 筆者は本サイト開設以来、折に触れて「表現の自由」に関する記事を投稿してきた。表現の自由とは言うまでもなく、日本国憲法第21条で保障されている権利である。

第二十一条

1、集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

2、検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

日本国憲法 -e-gov法令検索

 この条文によって、公権力によるあらゆる表現形態への圧力や阻害するような規制などが全面的に禁じられている。その一方で、行政機関や立法機関は(特に地方政治の現場の中で)表現の自由を軽んじることも少なくない。重要なことは、そうした表現圧力に対して報道機関をはじめ国民がしっかりと監視し、必要に応じて声を上げることである。

 だが今回扱う件については、事態が沈静化するのを待つつもりだった。というのも、事がそこまで単純ではない。これまで取り上げてきたような論調で十把一絡げに批判するべきではないと考えていたのだ。

 それでも今回筆を執ってこのように記事を書くと決したのには、ある1つのプレスリリース公開されたからだ。本稿は、「松戸市ご当地VTuber」の「戸定梨香」が出演した交通安全啓発動画が千葉県警のYouTubeチャンネルから削除されるまでの経緯と、それに対して筆者が申し述べたいことを記すものである。

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ご当地VTuber「戸定梨香」の交通安全動画への起用

 今年7月、千葉県警察と松戸市の企業「株式会社Art Stone Entertainment」が松戸警察、松戸東警察の交通安全啓発活動に協力する協定が結ばれた。これによって同社がプロデュースするVTuber「戸定梨香」が出演し、様々な交通ルールを遵守するよう呼びかける動画が作成。県警のチャンネルにアップロードされた。

(この動画は戸定梨香が所属する事務所のチャンネルにアップロードされたもの)

 「VTuber」とは言うまでもなくバーチャルYouTuberのことであり、2Dや3Dで制作されたキャラクターを利用して動画投稿などを行う配信者を指すものである。その中でも「ご当地VTuber」と言われる配信者は、その活動を地域に根ざしたものとして地元PRにも取り組むという、いわば「アイドル」と「ご当地ゆるキャラ」のハイブリットなのである。

 この戸定梨香もその「ご当地VTuber」の1人で、地元千葉県松戸市をPRする活動を行っていた。

 そして千葉県警の交通安全動画である。戸定梨香が起用されたのは理由があった。新型コロナウイルスの影響で、警察職員が各学校やイベントに参加して交通ルールを説明する事は難しい。特に自転車については免許やそれに伴う試験などがなく、若い世代を中心にルールの徹底は必須だ。そこでそうした世代への波及力も十分なVTuberに目が付けられた、ということなのである。

 動画をご覧いただければわかるように、キャラクターが動作を交えながら自転車のルールについて解説するものになっている。服装は戸定梨香の通常デザインで、セーラー服をモチーフにしたと思われる衣装を着用している。

「全国フェミニスト議員連盟」からの抗議

 この動画に対して、抗議を行ったのが「全国フェミニスト議員連盟」である。同議連は、この動画について「丈はきわめて短く、腹やへそを露出している」「女子中高生であることを印象づけたうえで、性的対象物として描写し、かつ強調している」として8月26日付で「当局の謝罪、動画の使用中止、削除」を求めたのである。

全国フェミニスト議員連盟による抗議・公開質問状

 同議連は、2019年に自衛隊が自衛官募集のポスターでメディアミックス作品「ストライクウィッチーズ」のキャラクターを起用した際もほぼ同じ内容の抗議を行うなどしていた。現在は当時と代表なども異なり、共同代表には本件の舞台である千葉県松戸市の市議会議員の名前も見える。

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 そもそも「議員連盟」とは、多くの場合党派を超えて特定のイシューに賛同する議員によって構成される連合組織である。その目的も含め、様々な種類の議員連盟が存在するわけであるが、このフェミニスト議員連盟はホームページで確認できるだけでも1980年代から活動を行っており、以来女性の権利向上や、それに関わる施策を行ってきた。

 しかし近年は、今回のような自治体・官公庁への「抗議」が目立つ。自衛隊ポスターは最終的に撤去に追い込まれたが、今回も同様の結末を迎えた。

動画は削除へ…「表現の自由」界隈からは怒りの声

 千葉県警は9月10日までに、当該動画を削除した。これに先立って、県警は交通総務課長名義で以下のような回答書をフェミ議連に対して送付している。

戸定梨香起用への抗議ならびに公開質問状に対する千葉県警他回答

 記載内容は起用に至った経緯が記されており、対応についても「今後の広報活動の参考」にとどめている。しかし結果として動画は削除された。その理由については戸定梨香の所属元である株式会社Art Stone Entertainmenの代表がTwitterで以下のように述べている。

戸定の「おへそが見えている」「動くと胸が揺れる」「スカートの丈が短い」という見た目が、女性蔑視に当たるという抗議があった

 署はメディアの取材にも答えている。

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松戸警察交通課は10日、J-CASTニュースの取材に、動画作成の経緯を「対面での交通安全教育の実施が困難な状況で、自転車の安全利用や反射材の利用促進などを目的に作りました」と答えた。

削除の理由は「使用しているキャラクターが、適切じゃないのではとのご意見をいただいた」と話す。市民らから意見が寄せられたとするも、具体的な内容や数は明かせないとした。

千葉県警の動画にフェミニスト議連から抗議 VTuber起用は「女性蔑視」か – ライブドアニュース

 いずれもフェミ議連を名指しするものではないが、7月から8月までは普通に公開されていたことや、その時系列から考えても議連による「抗議」が影響したことは想像に難くない。何よりも議連が求めていた「動画の使用中止・削除」は達成されたわけだ。

 ここで一点重要な問題として確認しておきたいのは、動画が議連の主張するように「性的な対象物だから」削除されたというわけではないということである。これについては参議院議員の藤末健三氏が、警察庁経由で千葉県警に問い合わせたことで明らかになった。

 

 ここでは明確に「性犯罪を誘発する懸念」について否定している。とすると、やはり動画は文字通り「抗議があったから削除した」と見るべきだろう。

 恐らく議連側も県警側も想像していなかったことだろうが、これに対する怒りの声は現在まで収まることがない。上述の藤末議員や、自民党の山田太郎議員などの国会議員も議連の対応に抗議している他、ネット論客・青識亜論氏を中心として、おぎの稔大田区議会議員や、やぶはら太郎武蔵野市議会議員、みうらひらく津山市議会議員など、著名な地方議員も賛同するオンライン署名活動が展開されている。

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なぜ議連の「抗議」に「抗議」する必要があるのか

 この署名は2021年9月20日10時時点で4万1000筆を超えており、今後も増加することが予想されている。彼らの議連への抗議理由はシンプルだ。戸定梨香に対して「性的対象物」だと決めつけ、「女性差別」とレッテルを貼り排除したことである。

現実の肉体の年齢や性別を超えて、まったく異なる理想の身体になるという、新しいセクシュアリティを獲得した人々の意思と想いがこもったこの新しい文化に、「女性差別」のレッテルを貼りつけ、踏みにじろうとしているのです。

 署名概要文にもある通り、VTuberは新たなセクシュアリティの確立でもある。LGBTを含むクロスドレッサーにとって、自らの姿を直接晒すこと無く表現活動を行うことは極めて画期的なことなのだ。それを、容姿の1つ1つを断罪するような形で「性的対象物」だとした抗議文は、あまりに乱暴であると言わざるを得ない。

 VTuberは我が国由来の新たな文化だ。しかも、行っていることは「交通安全の啓発」である。キャラクターの容姿が個人個人にとってどのように見えるかについては、主観である部分が大きいため一概には言えないだろう。だが「自転車のルールを解説する動画」を「性犯罪を誘発する懸念」と結びつけるのは些か無理がある。

 さらにもう1つ重要な点として、このプロジェクトは冒頭紹介したとおり、「市内のベンチャー芸能プロダクションと公的機関のコラボレーション」という側面も持っており、それを中止させたということでもあるということだ。Art Stone Entertainment社の板倉代表は以下のように述べている。

私たちからすれば、性的対象物を描写したつもりは一切ないし、強調したつもりもない。法に触れているわけでもない。今回もあくまでフェミニスト議員連盟の方々の、科学的根拠もデータもない、主観的な判断だと思うが、それによって戸定梨香は尊厳を傷つけられたし、弊社は損失も被った。今後の仕事にもかなり影響があると思う。

「女性の権利や社会進出を訴えたいという思いは同じだと思う」松戸市のVTuber「戸定梨香」の動画削除で、運営会社社長が全国フェミニスト議員連盟に呼びかけ(ABEMA TIMES) – Yahoo!ニュース

 フェミ議連はこうした背景を本当に考えていたのか、ということがいよいよ問題となってくる。「萌え系アニメキャラ=性的搾取」という「固定観念」を持っているのは議連の方ではないのだろうか。

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信じがたいフェミニスト議連の対応

 前置きが長くなって恐縮だが、最後に本題を述べようと思う。9月18日にフェミニスト議連は、以下の文章と関係書類のみを添付したプレスリリースをホームページ上に公表した。

千葉県警等に提出した抗議ならびに公開質問状にご関心をお寄せいただいた皆さまへ

提出した文書は、公的機関としての認識を問うたものです。
当該動画の掲載も、削除も、ともに千葉県警によるものです。

現在、多数のメール等が多種の内容で寄せられており、個別に回答は致しかねます。悪しからずご了承ください。

以上

2021年9月18日
全国フェミニスト議員連盟

千葉県警本部、松戸警察署、松戸東警察署、千葉県、松戸市、松戸市教育委員会宛の公開質問状を提出。およびその回答について。 – 全国フェミニスト議員連盟

 要は「私達は認識を問うただけであって、削除したのは県警だ」ということだろう。削除に至る経緯は前述の通りであり、しかも当初の抗議文が「削除」も求めていたのだから、この弁解は虚偽を含むものである。なおここでは、削除に至った詳細な経緯を会社側にも説明しない千葉県警にも問題があることも指摘しなければならない。

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 議連はこれ以前の17日に、 Art Stone Entertainment社の板倉代表が出演したAbemaTVからの出演依頼を「会合を開いて決定しなければならず、今回は間に合わない」として見送っている。プレスリリースの記述といい、いずれも議連としての説明を拒否していると受け取られかねない行動である。

 そもそもフェミニスト議連はその活動の目的を「女性がいきいきと生きることができる、あらゆる環境づくり」としていたはずだ。結果として女性が代表を務める会社が損害を被り、女性キャラクター表現者の尊厳が踏みにじられたことは本末転倒だろう。なぜこの期に及んで対話の姿勢を示さないのか、一方的な「抗議」で終わらせているのかについては疑問符が付いたままだ。

 抗議文を送付したことそれ自体についての批判は枚挙に暇がなく、しかもすでに多くの御仁が行っているのでここでは最低限に留める。筆者が問題視するのはこの議連の対応だ。実際に動画が削除されたからか、事態が予想を遥かに超える大事になっているからか、その明確な理由は不明だが、このような場当たり的な対応は火に油を注ぐだけである。議連共同代表で松戸市議の増田かおる氏は、9月20日に以下のようにツイートした。

 組織として幹部で話し合った上でアナウンスすることはたしかに重要であるが、そうであるならばそもそもこのプレスリリースを出した必然性が理解できない。少なくとも抗議の署名で求められている「「性的対象物」になると断定する理由」「「性犯罪誘発」につながる明確な機序」「女性活躍推進の観点」「VTuberという存在について、LGBT、特にクロスドレッサーの人権の観点」について回答するべきだろう。しかも「地方議員が圧力をかけて削除させたわけではない」としているが、どういった点について批判されているかも理解していないことに重大な危機感を感じるものである。「消したのは警察であって私達は関係ない」では通らない。

 そもそも抗議文を出した時点で、あらゆる面からの反発や反論は予想して然るべきだ。議連のこれまでの文章を見ると、今回の抗議文と大枠の記述が酷似している。もし「女児のアニメキャラが出たからいつもどおり抗議しよう」というような安易な判断で抗議文を出しているのであれば、議連の本旨であるはずの「女性差別の反対」にも逆行しているのではないか。

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 有権者の信託を持って活動するのが議員である。その議員が本来の職務を忘れ、文化の有り様を否定し、官民共働して取り組む交通安全プロジェクトをぶち壊し、活動している表現者の尊厳を踏みにじることは許されない。これまでもこのようなことは幾度となく繰り返されてきた。

 最後に板倉代表の言葉を引用したい。

人により感覚が違うのは当たり前の事ですので、価値観の違いを押し付けるのではなく、どうしたらお互いが良い方向に行くのかを考え、歩み寄る姿勢を取ることが何より女性が活動しやすく、大切な事ではないでしょうか。

全国フェミニスト議員連盟宛抗議と公開質問状

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清水 あきひとおとな研究所 編集長

投稿者プロフィール

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おとな研究所 編集長
早稲田大学文学部 1年。こども若者政策メディア「madaminu」主幹。バイセクシャル。

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  1. 2021年 9月 27日

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