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【反論】税は財源ではない -神谷氏らの記事への反論

ライター:経世済民大学院生 @LiberalismStu

※貨幣論と積極財政のアライさん(カヘイさん) @monetaraisan との合作記事

※この記事は、ゲストライターによる寄稿記事です。おとな研究所編集部や所属ライターが作成した記事ではありません。なお、寄稿の応募はコチラから誰でも可能です。


先日、「税は財源だ!持続可能な税制を考える。」という記事がおとな研究所にて掲載された。これは、私が以前に寄稿させていただいた「消費税という有害無益な税〜税の役割の観点から問い直す〜」という記事に対する反論記事だ。このような反論が出てくることは、私たちも記事の最後でも述べている通り、むしろ歓迎したい。また、このような議論をさせていただけるのは、ひとえにおとな研究所さんの寛容さあってのことである。この場を借りて感謝を申し上げたい。

しかしながら、彼らの反論には瑕疵が多い。ここでは、果たして「税は本当に財源なのか、消費税は本当に必要なのか」という問題を、貨幣論と積極財政のアライさん(カヘイさん @monetaraisan)の協力も得ながら、反論記事執筆者の神谷ゆうたくんのモットー「イデオロギーよりエビデンスを」に従って、データに基づいて再反論していきたいと思う。(この記事を読むにあたっては、前述の2記事を一通り読んでいただくことを推奨したい)

当初記事: 消費税という有害無益な税〜税の役割の観点から問い直す〜 (経世済民大学院生@LiberalismStu)

反論記事: 税は財源だ!持続可能な税制を考える。 (神谷ゆうた@RealYutaKamiya、ひでしゅう@Kyushu_Hideshu、SS@super_saiyan46)

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※本稿は、神谷ゆうた、ひでしゅう、SSの三者による上記記事への反論記事である。

「税は財源ではない」という言い回しの妥当性

彼は冒頭で、

>「税は財源ではない」というのは、表現が不適切で、実際には「税だけが財源じゃない」と言う方が適切だろう。

と述べている。しかし、前回記事で説明した「納税が先で政府支出が後なのではなく、政府支出が先で納税が後でしょ」という根本のところには反論がなかった。よってその点はここでは論点にしない。続けてみると、彼は

>財政スペースを埋める手段としては、税だけでなく国債発行でも可能ではある。よって、支出は税収の範囲内でしかできないというのは間違いと言える。

とも述べている。この点においては、いわゆる反緊縮派とそう大きな相違はない。では何が具体的に異なるのだろうか?検討していこう。また彼は続けて、

>税は財源ではないというのは単なるレトリックに過ぎない。これでは真に重要な実物供給能力を見えづらくするだけだ。

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と言う。これはある意味で「税収が政府支出の上限ではない。政府支出の真の上限は、実物供給能力だ」と言っている訳である。これは反緊縮派やMMTと全く同様の主張であり、ここに主張の一致点を見ることができる。ただし、「『税は財源ではない』というのは、真の財政支出の上限である実物供給能力を見えづらくする」という主張は、おかしくないだろうか。

実際には、「税は財源ではない」という表現よりも、「税は財源である」という表現の方が税収が財源の上限であるかのように錯覚させ、実物供給能力という真の上限を見えづらくしている。それが現に、「財政均衡主義」という無意味なイデオロギーが幅を効かせることに貢献していると言えるだろう。

我々はその「財政均衡主義」に対するアンチテーゼとして、「税は財源ではない」という言葉を使っているのだ。このことを明確にすれば、彼らと主張の一致点を見つけることができるだろう。

消費税廃止の妥当性

税が財源かというの話はこれくらいにして、次は消費税廃止の是非について、彼の主張をベースに検討していこう。彼は、消費税廃止の是非に関して、

>失業率は歴史的水準まで下がっており、労働供給がほぼ限界と言ってもよい。このような状況で消費需要を過熱させる政策をとれば、直ぐに供給限界に達し、低成長高インフレのスタグフレーションになるだけだ。

>インフレ税で実質消費が減退し、厚生損失となる可能性もある。資源制約で生産はすぐに追いつかず、インフレ圧力が長期化すれば、成長率にもマイナスになるだろう。日本においては不適切な政策だ.

などと述べている。果たしてそうだろうか?

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そもそも消費税がスタグフレーションそのもの

まず、スタグフレーションとはなにか?一般的には、不況でかつ物価上昇が起こっている状況のことである。より実質的なことを言うと、「物価だけが上がり、賃金が上がらず、生活が苦しくなるインフレ」のことである。

当たり前の話だが、消費税は物価を直接的に引き上げる税だ。しかしこれは当然、賃金を上げることはない。よってただ国民生活は苦しくなり、消費は減退し、経済は不況に陥る。これはスタグフレーションそのものだ。

グラフ, 折れ線グラフ  自動的に生成された説明

上のグラフでわかるように、消費税増税は物価のみを上げ、賃金上昇には全く貢献していない。まさに「消費税はスタグフレーションそのもの」なのだ。

よって、「消費税廃止によって、低成長高インフレのスタグフレーションになる」などという言説は本末転倒だ。むしろ消費税廃止によって物価が下がり、需要が喚起されることによって、供給側の成長も促し、「高成長低インフレの経済」が実現されると考えるのが妥当だ。

要するに、インフレの話をしているのに消費税廃止による物価下落分をあえて無視するのは、極めて悪質な議論だということだ。

次に検討すべきは、「今の日本には消費税廃止するだけの供給側の余力があるのか」という話である。S.S.君は、近年の失業率の低下を根拠に、労働供給はもう限界であるとし、消費税廃止を実行すれば供給限界に達するとしている。

実際には、コロナ不況下の日本において消費税廃止で供給を逼迫されることはあり得ない。内閣府は2021年8月27日、日本経済の需要と潜在的な供給力の差を示すデフレギャップが年間で22兆円だったと発表した。(日本経済新聞の記事を参照)。この数値は、2020年度の消費税税収20兆円よりも大きいのである(朝日新聞の記事を参照)。である以上、「消費税廃止は供給能力を逼迫する」などという主張はまるで根拠がないことになる。

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また、供給能力を向上させるのは労働人数、労働時間のみではない。むしろ本当に重要なのは、設備投資によって増える資本投入量と労働生産性である。次の各国の各項目の寄与度を見れば一目瞭然だろう。黄色の「労働時間の寄与」は概して小さく、それよりも紫色の「TFPの寄与」(全要素生産性)や黄緑色の「資本の寄与」(資本投入量)の方が大きく、より重要であることがわかる。

グラフィカル ユーザー インターフェイス, テーブル, Excel  自動的に生成された説明

その上で、次のグラフで今の日本の潜在成長率に対する各要素の寄与度を見てみると、日本の低成長の理由は全要素生産性と資本投入量が少ないことであるのは明らかで、むしろ労働投入量は要素として一番小さいものである。であるにもかかわらず、日本の供給力全体の問題を失業率の問題に矮小化するのは、論理のすり替えと言わざるを得ない。

グラフ, ヒストグラム  自動的に生成された説明

さらに下のグラフを見て貰えばわかるが、日本では民間が設備投資をせず、経常利益が増えても内部留保などに回している。これがここ20年の日本の低成長の原因でもある。もし消費税廃止によって需要が供給能力の限界にまで近づくことになれば、企業は設備投資を増やし、供給能力を向上させるであろう。むしろこれは喜ばしいことなのではないだろうか?

グラフ, 折れ線グラフ  自動的に生成された説明

最後に、そもそも消費税廃止は消費税単独で主張されることでは無く、むしろ所得税の累進性強化、法人税増税などとともに税制改革としての文脈で語られるものである(だからこそ、前回記事では殊更に他の税との比較をしたのである)。そもそも景気の変動は、消費税のようなフラットタックスではなく、所得税や法人税のビルトインスタビライザー(前回記事を参照)の強化によって非裁量的に抑制されることが望ましい。長期的には、消費税廃止は他の税の累進性の強化などとセットにして実行されるべきなのは当然であろう。

以上より、「真の財政支出の上限は、税収では無く実物供給能力である」というS.S君との認識の共有を示した上で、「消費税廃止が実物供給能力を逼迫することはない」という事実を示した。これを以てS.S.君の反論への再反論としたい。

貨幣論と積極財政のアライさん、通称カヘイさんなのだ!

 今回は経世済民大学院生さんの助太刀に参ったのだ!院生さんが「政府支出が先、納税が後」の例として挙げた明治政府の財政を、神谷ゆうた氏とひでしゅう氏は「インフレになるから税は財源!」と言っているのでカヘイさんが検証を加えることにしたのだ。以下の論考ではアライグマの毛皮を脱いで書き記すのだ。

 本論に入る前に、ひでしゅう氏がめちゃくちゃな間違いをしているので突っ込んでおく。

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文字の書かれた紙  中程度の精度で自動的に生成された説明

 米価指数は明治10年を100とした場合、明治13年には203となっている。これは紛れもない事実だ。しかし、間の明治11年の117、12年の156を飛ばして記載しているのは何故だろうか。「一年に約70%近いインフレ」と書かれると、明治11年に一気に70%ものインフレが起こったかのような印象を受けるが、実際は17%の上昇である。

 また、203をそのまま3で割って「一年に約70%近いインフレ」と結論づけるのも相当な問題である。歴史が専門のひでしゅう氏が間違えてしまっただけならいざ知らず、海外の大学で経済学を学んでいるらしい神谷ゆうた氏がここを見過ごすのは信じられない

 インフレ率とは前年比で求められるので、年率換算をする際には指数の起点100となる明治10年をa=1として、3年後の明治13年にar^3=2.03となるrを求めることになる。この場合のrは1.266になるので、インフレ率は年間27%程度ということになる。同じく東京重要品物値指数は年9%程度の上昇である。

 では、 「税は財源だ」との記事における明治初期に関する主張について検証を加えたい。ひでしゅう氏は経世済民大学院生さんにこのように反論する。

>筆者は本文中で明治初期は歳入の大半を紙幣発行で賄っていたと述べ、自身の論の補助に用いている。たしかに明治初期において財政基盤の弱い新政府は太政官札を発行することで、歳入の不足を補っていた。しかしこの制度は成功せず、インフレーションと言う大きな問題を引き起こしている。

 論点が完全にすり替わっている。経世済民大学院生さんは、「(政府が)通貨を発行していなければ、そもそも納税など出来ようもない」という証拠として明治初期の資料を提示した。インフレという問題が発生しようがすまいが、「政府支出が先、納税が後」という原則(MMTではこれをスペンディングファーストと言う)を否定できていない時点で経世済民大学院生さんに対する何らの反駁にもなっていない。彼らは一応、「インフレによる貯蓄価値喪失か税で返済する事が求められる」として「後から返すから税は財源だ」というレトリックを用いているのだが、そもそもMMT派は政府が税によって貨幣を回収する行為を否定していない。論点は、財政支出に先立って財源が必要かどうかである。

 しかし、財政支出により本当にインフレが起こるのなら、歳出を歳入に出来るだけ近づけようという主張も一理はあることになる。そこで本稿では、彼らが取り上げた明治初期のインフレ(明治元年~明治4年頃)ならびに、西南戦争とその後のインフレ(明治10年~明治14年)の2つの時期について、インフレはどの程度起きたのか、インフレの原因は政府支出なのかを検証する。

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明治初期のインフレ

 明治の物価を知るのに3つの指標がある。当時の記録をそのまま使用する米の価格と、朝日新聞社『物価大勢指数』(以下、総合物価)、そして現代の研究者に拠る推計である。その3点をグラフ化したのが以下である。(米の価格は大正に出版された『米界資料』、現代からの推計は斎藤修氏「幕末-明治の賃金変動再考」を使用した。)

グラフ, 折れ線グラフ  自動的に生成された説明

 米の価格は明治3年に入ると落ち着き、その後下落している。一番変化の大きい生計費指数で見ても明治4年に入れば落ち着いているが、実はこの物価指数は慶応3年から明治元年にかけて下がっている。この明治元年前半の下落については『米界資料』の記述と一致しているので信用して良いだろう。ひでしゅう氏の「このように行政上の必要だけを念頭とした通貨発行が行われたため結果として急速なインフレーションが進むこととなった。そしてその後、このインフレーションは明治10年の西南戦争の勃発により財政規模が拡大し、紙幣発行の増加による更に加速した。」とインフレが止まらなかったかのような説明は明らかに誤りである。

 ちなみに『米界資料』では明治元年の夏に雨が続いて不作で米価が上がり、明治2年の前半までそれが影響したと記している。要は物価上昇の原因は天候不順に拠る不作という実物供給能力の弱体化である。

西南戦争とインフレ

 次に西南戦争期の物価を確認しよう。ひでしゅう氏は西南戦争が原因でインフレが起きたと主張している。しかし普通、政治的混乱に拠るインフレはその年に起こる。政府に拠る貨幣乱発が原因なら、貨幣乱発をした明治10年時点で物価上昇が起こっていなければおかしいし、後に尾を引いたとしても物価上昇するなら明治11年であろう。極端な例だが、ドイツのハイパーインフレは1923年1月のルール占領から始まり、たった半年で約20倍に達している。

では西南戦争時は前年(明治9年)に比較してどうだったかと言うと、下図のとおりだ。

グラフ, 折れ線グラフ  自動的に生成された説明

 米の価格と生計費は微増、総合物価はむしろ下がっているのである。これについて『米界資料』は、明治10年から12年について、貨幣乱発が原因だと述べはするが、同時に「明治10年に財界が活況となり米価が上がった」「明治12年は好景気で地方から米がやってこず、深川(筆者が米問屋を営んでいる地域)の米の在庫が四万俵まで減った」と書いている。要は、好景気による需要超過での物価上昇である。

 論点になるのが明治13年で、『米界資料』では「収穫は明治12年に続いて例年通りの量だったので、米の供給量から考えればこのような突飛な高値になるような原因は見当たらない。これはどう考えても不換紙幣の乱発が悪いと言わざるを得ない。」と、原因がよくわからない価格上昇であったため、当時の世論であった貨幣乱発によるインフレだと結論づけている。

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 しかしこれも近年の研究で詳細が明らかになっている。岡山大学名誉教授、一ノ瀬篤氏は明治10年以降、国立銀行(条例で認可された民間の銀行)による貸付が増大している事実に着目し、インフレの原因を財政赤字とする通説に「11年から14年にかけて,政府は財政収支の黒字化につとめ,政府紙幣の銷却を着々と実行した。この結果,上のような政府紙幣の縮小が実現したのである。したがって,この間財政活動によるインフレはなかったといってよい。」「銀行券発行を基礎として,国立銀行がこの時期に,著しく貸出を拡大していることは確実である。これが,明治12-14年の激しい物価上昇をもたらした最大の要因であろう。」と結論づける。要は、民間の信用貸し付けによる貨幣量増加、もしくは活発な事業の投融資がインフレの原因だとするのである。

 また、累積財政赤字と物価の関係をグラフ化してみたが、財政赤字と物価上昇に関係は無さそうだ。

グラフ, 折れ線グラフ  自動的に生成された説明

インフレと実質賃金

 インフレは庶民生活を苦しめると言われるが、それは賃金が上がらなかった場合である。では明治の実質賃金を見てみよう。

グラフ, 折れ線グラフ  自動的に生成された説明

 あくまで建築職人という一職業の実質賃金でしかないが、幕末期という政治的混乱期に落ち込んだ実質賃金は明治元年にやや回復し、その後急上昇したのが確認できる。明治元年、2年のインフレが仮に貨幣発行を原因とするとしても、実質賃金が上昇しているため全く問題にならなかったのだ。ちなみにこの場合、インフレに文句を言うのは富裕層である

 また、西南戦争時には内乱という問題から実質賃金はやや下落した。明治13-14年のインフレ(とそれに伴う実質賃金の下落)が西南戦争を原因としないことは先に述べたとおりである。しかし、仮に政府支出が原因であったとしても、これはMMTへの批判には当たらない。何故ならMMTは、国内供給力を国民生活に寄与しない戦争などにつぎ込むことには反対しているからだ。

 明治13-14年のように、新興国の活発な民間投融資は市場を歪め、経済成長とともに格差拡大(庶民の実質賃金低下)をもたらす場合がある。その際に格差是正の政策が必要になるが、明治政府はそれをとらなかっただけなのだ。

貨幣が増えたらインフレになるのか

 最後に、「そもそも国債や貨幣を乱発するとインフレになるのか」という問題を確認しておきたい。高校日本史の教科書では、西南戦争での貨幣乱発でインフレになったと習うが、それは事実ではないことをこれまで確認してきた。また、高校世界史の教科書では、アメリカ大陸からの金銀の流入でヨーロッパのインフレが起きた(価格革命)と説明される。

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 しかし、これも近年の研究で金銀の流入以前から物価の上昇が始まっていたことが明らかとなり、都市のネットワーク化、職能の専門化が貨幣流通速度を上げて、インフレを招いたと説明されている。

 それでは、貨幣量の増加でインフレが起きるのか。現代日本でも確認しよう。

グラフ, 折れ線グラフ  自動的に生成された説明

 日本はこの40年で貨幣量を8倍にしたが、物価は1.5倍にも満たない上昇であった。これでも皆さんは消費税廃止や政府の貨幣発行による教育や研究の推進、老朽化したインフラの整備等の行いがインフレをもたらし庶民を苦しめると考えますか?


ライター:経世済民大学院生 @LiberalismStu

プロフィール:法科大学院一年生。法律、政治、経済に関心あり

※貨幣論と積極財政のアライさん(カヘイさん) @monetaraisan との合作記事

※この記事は、ゲストライターによる寄稿記事です。おとな研究所編集部や所属ライターが作成した記事ではありません。なお、寄稿の応募はコチラから誰でも可能です。

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当初記事: 消費税という有害無益な税〜税の役割の観点から問い直す〜 (経世済民大学院生@LiberalismStu)

反論記事: 税は財源だ!持続可能な税制を考える。 (神谷ゆうた@RealYutaKamiya、ひでしゅう@Kyushu_Hideshu、SS@super_saiyan46)

※本稿は、神谷ゆうた、ひでしゅう、SSの三者による上記記事への反論記事である。

2件のコメント

教科書に書いてる不愉快な程のインフレ要因で、貨幣発行しすぎたからというのが当たった試しがあるのだろうかw
大体が供給サイドに問題が起きている

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