【経済】最低賃金制度に関する一考察 最低賃金引き上げは何をもたらすのか

最低賃金制度は経済学者の中でも意見の分かれるトピックの一つである。古典的な立場の経済学者からすれば、最低賃金制度は価格統制の一つで市場を歪め、結果として雇用を減少させる作用があるとして否定的な立場をとってきた。

一方でCard and Krueger (1995)に代表されるように、労働市場が不完全労働市場で企業側が賃金決定に対し強い力を持っている場合は最低賃金制度の導入で強制的に賃金が引き上げられることはむしろ良い効果をもたらすと論じている。(前回の記事でも論じた)

ところで、日本の最低賃金制度は都道府県ごとに定められた地域別最低賃金と特定の産業別に応じた特定最低賃金の2種類がある。特定最低賃金に関しては適用対象の労働者が少なく、廃止の方向に向かっていることなどから今回は産業に関係なく幅広い分野で適用される地域別最低賃金を最低賃金と表現することとする。

貧困層への社会政策としての最低賃金制度

まず、社会政策として最低賃金制度を考えることにする。一部の最低賃金引き上げ論者は最低賃金が上昇することによって貧困削減につながると論じている。しかし本当にそうだろうか。

これを分析するにあたっては最低賃金労働者と世帯所得の関係を見る必要がある。下の表の(4)の結果を見ると、最低賃金労働者の半数以上は世帯所得が500万円以上であることがわかる。

また、最低賃金労働者の構成を教育別、性別、年齢別に分析すると中卒、高卒、中年女性が最低賃金労働者の多くを占めていることが読み取れる。

この結果より、最低賃金の影響を受けやすい最低賃金労働者は比較的生産性の低い低学歴の若い男性や主婦がほとんどであると考察することができる。ここで、最低賃金が引き上げられると何が起こるか。川口・森(2009)の回帰分析の結果によれば、最低賃金の引き上げによって若い男性や中年女性の雇用を減少させることが分かっている。

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また、前述したように最低賃金労働者の半数以上は世帯所得が500万円以上の世帯構成員の一人であることも読み取れた。この結果から、最低賃金労働者の多くは貧困世帯ではなく、最低賃金制度で貧困削減につなげようとするのは非効率であると考えられる。貧困削減としての政策はBI(ベーシックインカム)やNIT(負の所得税)の方が効率的だろう。

最低賃金制度で生産性が向上するか

他方で、「最低賃金を引き上げることで企業の生産性が向上する」という言説もある。デービッド・アトキンソン氏は最低賃金に見合うように経営者が経営効率化を進め、結果として生産性が上昇すると主張している。

これに対し、岩崎雄也(2019)はカイツ指標に基づく実証分析を行い「日本の小売業および宿泊・飲食サービス業では、最低賃金を引き上げることで企業の労働生産性は向上する。ただし、その労働生産性の向上は、雇用の減少によってもたらされる数値上の結果にすぎない可能性が高い」と結論付けている。

つまり、最低賃金引き上げによる生産性上昇は認められるが、それは労働生産性(付加価値額/労働者数×労働時間)の分母が減少したからである。

日本ではゾンビ企業の淘汰の必要性が時に叫ばれる。私も生産性の無いゾンビ企業を補助金などを与えて存続させることは負の影響しかないと思うが、最低賃金引き上げが無ければ労働できていたはずの労働者を失業させてまでする必要はなく、それは市場の自然淘汰に委ねるべきだと考える。

結論

経済実態にそぐわない急激な最低賃金の引き上げは雇用悪化をもたらすことは多くの経済学者でも一致している見解だ。隣国の韓国は文在寅政権の5年間で最低賃金を40%近く引き上げたが、20代の失業率が9%になるなど雇用悪化を招いてしまった。韓国は日本と異なり自営業者の比率が高いこともあるが、最低賃金の急激な引き上げは雇用悪化を招くものだとして参考にしなければならないだろう。

今回紹介した論文の分析では、最低賃金が上昇すると生産性は向上するが雇用は減少してしまうことがわかる。ただし、最低賃金制度自体は日本国憲法25条で定められる最低限度の生活を営む権利を保障する指標としての意味合いは大きいうえ、日本も批准しているILO条約では最低賃金制度の創設が明記されている。

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また、政府は時に間違えることもある。前回紹介した完全競争市場のモデルでも不完全競争市場の場合でも最低賃金の引上げ”すぎ”は社会的損失を生んでしまうことは同じ結果を得ている。これらのことから、私は最低賃金制度は最低限必要な金額に留めるべきであると考える。

参考文献

N・グレゴリー・マンキュー(2013)『マンキュー経済学 ミクロ編(第3版)』
N・グレゴリー・マンキュー(2017)『マンキューマクロ経済学 入門編(第4版)』
Card, David and Alan Krueger (1995) Myth and Measurement. Princeton University Press.
岩崎雄也(2019)『最低賃金の引き上げによって労働生産性は向上するのか
川口大司・森悠子(2009)『最低賃金労働者の属性と最低賃金引き上げの雇用への影響
安部由起子(2004)『最低賃金は賃金の有効な下支えか

 

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よもぎおとな研究所 副編集長

投稿者プロフィール

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おとな研究所副編集長、ブロガー
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時事・教育・経済など幅広い分野に関心あり

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