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ガソリン高騰は、国民が「減税」を知る絶好の機会だ -野党主導の国会を再び

 衆院選直後の永田町における動きというのは、その後の政局はもちろん、この国の運命そのものを決定する重要なものとなるのが歴史の教訓だ。今回はその主たる例となるべきものだろう。

 去年来続くコロナ禍は、世界経済を一変させた。失われた20年とも30年とも言われた日本も例外ではなく、需要変動による原料高と、先進国の中央銀行によってとめどなく行われた大規模な金融緩和の結果として、商品市場には大量のお金が流入。足元の消費者物価指数は菅政権の実績である携帯電話料金の引き下げ効果もあって抑制的だが、企業物価指数の上昇は既に始まっている。

 上記記事の指摘の通り、この物価上昇の要因は日本の場合金融緩和に加え、各国の金融政策正常化に伴う外国為替市場の円安・外貨高の影響も大きい。だが主要因はやはり、「原油価格の高騰」だろう。

ガソリン高と、引っ張られる価格上昇・計り知れない影響

11月4日、石油輸出機構(OPEC)とロシアなど、非OPECの産油国でつくる「OPECプラス」は、原油の生産調整計画の現状を維持を決定。追加増産を見送りました。 世界各国がコロナ禍から経済活動を再開するなか、原油需要は急増し、価格も高騰をしています。日本や米国などは増産を求めていますが、産油国側は世界的なコロナ収束はまだ見込めないことから、慎重姿勢を崩していません。

給与は下がり物価は上昇…「最悪の状況の日本経済」に岸田首相は?(幻冬舎ゴールドオンライン) – Yahoo!ニュース

 産油国のこうした姿勢に、各国は様々な対応をとっている。アメリカでは備蓄石油の放出も検討しているというが、日本政府の対応については後述するとしよう。

 商品価格の上昇は抑えられておらず、特に小麦製品や油脂製品などの食品価格高騰は深刻だ。中国などでの感染収束による需要回復で原材料高が助けている側面もあるが、主な原因はやはり、石油を直接の原料とするガソリン価格の暴騰だろう。

 資源エネルギー庁の発表によると、直近11月15日のガソリン価格は全国平均168円90銭。アメリカでの在庫積み残りや、ドイツやベトナムでのコロナ再流行による需要減少で先週比では10銭下落しているものの、10週連続上昇し続けた価格の高止まりであることに変わりはなく、実に7年ぶりの高水準である。多くの経済アナリストも、来週以降の国内市場におけるガソリン価格の横ばいを示唆している。

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 輸送コストによる商品価格上昇もそこそこに、車移動が欠かせない地方では大打撃だ。ビニールハウスでの温室栽培を行う農家では重油が欠かせず、輸送やプラスチック製品の価格上昇と合わせれば、第1次産業への影響は計り知れない。加えて、灯油価格の上昇も見過ごすことができないだろう。例年より遅い気温低下は冬にかけて厳しさを増す。

 こうした価格上昇による影響は、消費税の10%引き上げの際の家計負担に匹敵するという。

 一方で家計の収入も厳しい状況が続いている。このままでは、必需品の価格ばかりがつり上がって給与は上がらないという最悪の状況が訪れる可能性がある。感染者数減少でうかうかしていられないのが現状なのだ。

政府が打ち出した摩訶不思議な対応策の問題点

 もちろんこの危急存亡の事態に、政府が指を加えて見ていたわけではなかった。米国のように備蓄石油の放出という手段もあるし、後述するような税制上の措置も可能である。だが政府はこれらの手段ではない、極めてアクロバティックな政策判断を行う。

原油価格が高騰する中、萩生田経済産業大臣は、レギュラーガソリンの平均価格が一定の価格を超えた場合に石油元売り会社に補助金を出し、ガソリンや灯油などの小売り価格の上昇を抑える緊急の対策を今月19日に決定する新たな経済対策に盛り込む方針を明らかにしました。(中略)具体的には、レギュラーガソリンの小売価格の全国平均が一定の価格を超えた場合に石油元売り会社に対して補助金を出す仕組みで、当面は1リットル当たり平均170円を想定しています。

関係者によりますと、補助金はガソリンの場合1リットル当たり5円の範囲内とすることを検討していて、期間は来月下旬から来年3月までとする方向です。

ガソリン高騰時には元売りに補助金 小売価格上昇に歯止めを | 原油価格 | NHKニュース

 なんと石油元売業者に直接補助金を出すというのである。財源としてはコロナ予備費や省庁の予備費を想定しており、石油元売大手の出光興産は、基準である1リットル当たり170円を超えた場合に「補助金相当分を卸価格に全額反映させる」、つまり1リットルあたり5円の値下げを行うことを表明している。

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 こうした価格上昇の事態に、政府が補助金注入をすることは極めて異例だ。「異例」が「良い異例」であればいいのだが、今回はそうは言い難いのではないか。

 まず基本的な事柄だが、自由競争を原則とする市場において、政府の過度な介入は好ましくない。競争環境を阻害するばかりか、他市場との「公平さ」の観点からも疑問が出るのは当然だ。

 2点目に、全元売り企業が足並みをそろえることができるかという問題。経産省は「賛同する会社が一社あれば、他社も追随するだろう」と見ている。しかし、実際は時期的な差が出るだけでも利益面では大きな影響だろう。この点で政府が適切に差配できるのかどうかは、まったくもって未知数だ。

 そして最後に、「そもそも本当に小売価格が下がるのか」という初歩的な問題である。卸価格に反映されたとしても、小売業者が反映させなければなんの意味もない。仮に反映されたとしても、1リットルあたり「最大でも」5円なのだから、より圧縮される可能性のほうが高いだろう。

 この他にも財源の議論が不十分である点や、環境対策の点、リスクを考えた代替政策の必要性や、制度をより煩雑化させることなど、懸念される事柄は枚挙に暇がない。この緊急事態に必要な「異例さ」ではないのだ。

動いたのは野党 -「トリガー条項凍結」の解禁などを提言

 政府の絶望的な発想力に、いち早く危機感を示していたのは野党・国民民主党だった。この党はなんと衆院選の公約に、「ガソリン価格高騰の際の課税停止措置(トリガー条項)」の復活を掲げていたのである。選挙後も与党自民党に対して国対委員長会談の席で要請した他、同じく野党である日本維新の会とはこの点で一致し、議員立法を提出することを表明している。

 トリガー条項の復活は「予算関連法案」であり、提出には衆議院で50議席が必要だが、この両党の議席を足せば50議席を超える。まさに奇跡のタッグだろう。

 そもそもトリガー条項とはなにか、という説明を行いたい。石油製品には独自の税金が存在し、ガソリンの場合は「揮発油税」「地方揮発油税」「石油石炭税」の三種類が存在する。このうち「揮発油税」「地方揮発油税」の合計を「ガソリン税」と呼ぶ。

 1974年からは道路整備事業の財源として本則税率の2倍を徴収する「暫定税率」が適用されてきたが、失効直前の2007年にいわゆる「ガソリン国会」で一旦棚晒しとなった。だが結局暫定税率は復活し、2010年には「当分の間税率」として、元のガソリン税が1リットルあたり28.7円のところ、期限なしのまま25.1円積み増して1リットルあたり53.8円としたのだった。

 民主党政権としては暫定税率の継承でしか無く、なんの成果もないのは流石に問題だということで、設けられたのが「トリガー条項」である。これは、ガソリンの3か月の平均小売価格が1リットル当たり160円を超えた場合、「当面の間税率」から元の税率に戻す(=25.1円分減額する)というもので、景気変動に対応することを目的としたものだった。しかし、実際の運用が行われる前に東日本大震災が起きてしまい、財源確保のためということで「別に法律を作るまで」この条項は凍結される事となったのである。

 ことここに及んで、この条項を復活させない手はないだろう、というのが国民民主党と日本維新の会の考えだ。政府案では「5円減額できるかできないか…」というところを、この条項では25.1円確実に減額できる。1年間発動による減税効果は国税・地方税合わせて1.5兆円で、1世帯あたり平均1.3万円の負担減となることが、試算により明らかになっている。

 また、財政収支への影響も1年目は1.5兆円の赤字拡大要因となるが、2年目以降は民間からの自然増収によって0.2兆円の赤字縮小要因となることもわかっている。

参照:永濱利廣「トリガー条項発動のマクロインパクト」(第一生命経済研究所,2021年10月19日)

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 政府はトリガー条項の凍結解除について、「買い控えなど、経済や流通の混乱が懸念される」と主張している。しかしこれは、2014年にも起きた石油価格高騰の際の安倍政権の言い訳を反復しているに過ぎない。ましてや仕事・生活に無くてはならないガソリンである。いちいち買い控えなどするはずもないのだ。

 なお、会派「みんなの党」の浜田聡参議院議員は、「当分の間税率」の廃止(本則税率である28.7円に戻す)の法案骨子をまとめている。

 国民・維新案よりもさらに踏み込んだ内容だ。この他にもガソリンには、ガソリン税・石油石炭税を含めた価格で消費税が計算されている「二重課税」の問題があるなど、論点は尽きない。

野党が「減税」を先導する国会へ

 ここまでガソリン高騰と、それに伴う対策・税制上の措置について解説してきた。実際に政府が野党案に応じる可能性自体は限りなく低いかも知れない。しかし、まったく意味がなかったわけではない。むしろ大アリなのである。

 多くの国民は、実体経済に効果を持つ「減税」が存在することを知らない。それを実感したことも勿論ない。それは長らく自民党が政権の座にいるばかりでなく、野党が不甲斐ないということも一因にあったのではないだろうか。

 衆院選の結果、議席を伸ばした維新は以前から「フロー減税」を謳ってきた。同じく議席を伸ばした国民民主党は、産業労組を大きな支持母体としている政策提案型の政党である。この両党がトリガー条項の一点で連携できたことの意義は大きい。

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 加えてこの議論が大きく報じられることで、国民は「減税できるのにしない政府」を目の当たりにするだろう。あとは来年の参院選を楽しみにするだけだ。

 立憲民主党の代表選なども注目されている。まだまだ日本の野党は、十分なポテンシャルを秘めているのかも知れない。

関連記事:国民民主党衆院選公約を徹底分析!② 「比例は国民民主」でガソリン代が安くなる!

参考記事一覧↓

トリガー条項発動のマクロインパクト ~家計▲0.7兆、企業▲0.8兆以上の減税効果により世帯当たり年▲1.3万円の負担減~ | 永濱 利廣 | 第一生命経済研究所
トリガー条項|証券用語解説集|野村證券
ガソリン高で新対策 国が元売りに補助金、小売価格抑制: 日本経済新聞
ガソリン市場にゆがみも 元売りに価格抑制の補助金: 日本経済新聞
原油高騰で石油元売り補助金 政府方針 | KSBニュース | KSB瀬戸内海放送
「トリガー条項」凍結解除を 国民が自民に協力要請(時事通信) – Yahoo!ニュース
ガソリン元売りに補助金、大ブーイングでも減税したくない政治のウラ – SAKISIRU(サキシル)
ガソリン高をこれで抑える!維新&国民、「トリガー条項の凍結解除」早くもシナジー – SAKISIRU(サキシル)
ポテチ、コーヒー、文具 広がる値上げ 消費増税並み負担に(産経新聞) – Yahoo!ニュース
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「それでもガソリン税は下げない」…自民党・松野官房長官の「トリガー条項解除否定」に怒りの声(SmartFLASH) – Yahoo!ニュース
原油高騰受けた減税「トリガー条項」 凍結解除を否定 官房長官(毎日新聞) – Yahoo!ニュース
揮発油税などのトリガー条項、発動は適当でない=安倍首相 | ロイター
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ガソリン価格 依然高止まり 3カ月ぶり値下がりも…(フジテレビ系(FNN)) – Yahoo!ニュース
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