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シリーズ 日本の離島に目を向けよう #3 離島航路とその補助の変遷

前回に引き続き、シリーズ「日本の離島に目を向けよう」。今回は、離島を「航路と交通」の観点から解説していく。

参考とした資料、記事内で使用している画像の出展は以下

長谷知治「離島航路をめぐる環境変化と政策」

(『海事交通研究』山県記念財団、2012年)

https://ci.nii.ac.jp/naid/40019524509

国土交通省『使いやすい地域公共交通の実現に向けて』

https://www.mlit.go.jp/common/001039873.pdf

ではさっそく解説していこう。

「離島航路」とは

法的背景

離島航路という単語にはそのままの意味だけでなく、法律上の明確な意味が存在する。関連する法律は、「海上運送法」「離島航路整備法」「地域交通活性化法」の3つ。

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海上運送法において「船舶運航事業かつ一般旅客定期航路事業」とされているもののうち、離島航路整備法によって規定された「本土と離島とを連絡する航路、離島相互間を連絡する航路その他船舶以外には交通機関がない地点間又は船舶以外の交通機関によることが著しく不便である地点間を連絡する航路」のことだ。すなわち、「離島間と離島本土間を往来する船舶の航路」のことである。

政策とあり方の変化

平成12年に行われた海上運送法の改正によって、離島航路への事業参入が緩和される。具体的には需要調整規制を廃止することによって市場原理に基づくサービス提供を可能にしたのだ。

(航路事業への規制緩和)

  • 参入規制 免許制→許可制
  • 運賃規制 許可制→事前届出制
  • 退出規制 許可制→事前届出制

また必要以上の競争による弊害を生まないよう、一定のサービス基準を設けた「指定区間制度」を導入し、住民の日常生活に欠かせない生活航路が確保できる仕組みにもなっている。

平成19年には「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律(地域交通活性化法)」が制定されて自治体を中心として主体的な地域交通を運営していく仕組みが作られた。なおこの法律は平成26年に改正され、民間に任せきりであった仕組みから脱却するべく、国の提示した包括的な指針を自治体が先頭に立って形成し、事業者や利用者との協議のうえで計画を作成することが取り決められた。

離島航路の在り方は、事業者のみではなく自治体を中心に据えて国・地域住民が参与するという形で総合的かつ体系的な検討と制度設計によって成り立っている。

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離島航路の現状

少々前置きが長くなったが、離島航路の現状を解説していく。

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概況

日本に存在する一般航路は551航路存在するが、そのうち297が離島航路だ。島民の生活の足であり、生活必需品も輸送する交通手段である。にもかかわらず赤字航路が多数あり、また初回も解説したように人口減少に歯止めがかからず、欠損拡大の傾向にある。もっともこれは離島航路に限定されるものではない。航路事業そのものが景気低迷や高速道路料金引き下げのあおりを受け、輸送量が落ちこみ営業収入が減少傾向にあるのだ。

なお、離島航路のうち「唯一かつ赤字の航路」については国庫補助を行っている。この支援については後述。

離島航路の役割は、移動手段と輸送手段に大別される。図のように、生活に関わる移動に離島航路は欠かせないものである。

旅客船にも多く種類が存在する。

これらの船舶が、地域住民の生活を支えている。

離島航路補助

先述のように、離島航路のうち「唯一かつ赤字の航路」には国庫補助がされている。これは前回解説した「離島振興対策実施地域」に係る航路であることや、地上における国道に相当すること、などの「離島航路整備法」などに基づく細かい規定が存在する。

まずは制度の変遷から解説していきたい。

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離島航路補助の変遷

離島航路に対する補助の嚆矢は、明治9年に政府が三菱会社に対して佐渡、五島、対馬、釜山を命令航路(内務省、のちに逓信省によって命令をもって指定された航路)とする文書を発布したことである。これにより、離島航路の法的な地位が確立された。

本格的な補助が始まるのは明治29年ごろである。この時期に制定された「航海奨励法」という法に基づき、命令航路における欠損補助をおこなっていたようである。なお航海奨励法は明治42年に「遠洋航海補助法」に改正され、遠洋航路のみ指定されていた命令航路だけでなく、離島航路や近海航路を「特定助成航路」として補助金を交付できる仕組みが出来上がった。

ただし、これらの仕組みは海運振興や外航中心で、離島の後進性除去という観点はほとんど入る隙がなかった。逆にこれらの制度は後進性を加速させていたという見方もある。

戦後になると、予算補助に法的根拠を求める傾向から、海上運送法によって補助金を交付する旨が規定される。だがこれは欠損に対する補助であり、しかもその補填率は極端に低かった。

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そのため昭和27年に離島航路整備法が制定される。仕組みは海上運送法と同様で事後に欠損を補填する仕組み(事後欠損方式)だが、その補助額は実績欠損額に比例して補助金予算額を按分するというもので、合理的な施策として受け入れられた。この仕組みはさらに合理化・効率化される。昭和32年、事業全体が黒字である場合に補助はしないこととなり、より事業主義へと傾いた。

昭和41年からは事後欠損方式から定率補助方式が導入された。これは「実績欠損額」と、事業者に策定を義務付けた「航路整備計画」という運航計画をベースとして「効率的な航路運営を行った際に生じたと想定される欠損額」のいずれか低い方の75%を補助金として交付するもので、離島航路補助独特の方程式が確立される。

だがこの仕組みも長くは続かなかった。昭和48年ごろから離島航路を地方自治体に委任する動きが加速し、平成6年には全国の標準的な賃率や経費単価に基づき算出した標準的な欠損額を補助金として交付する仕組みとなる(補助充足率は実質40%)。これを「標準方式」という。国土交通省が積極的かつ直接的に事業者や離島振興施策そのものへの支援を行っていった。

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離島航路補助の現状

これ以降しばらくは標準方式で運営されていた離島航路補助だったが、平成23年にこれらの制度は抜本的に改革される。離島航路はもとより、地方バスや航空などの地域交通全般への補助を統合した「地域公共交通確保維持改善事業」として一体的な制度に転換され、補助金についても地方自治体や住民を含めた地域関係者で組織される地域協議会で「生活交通ネットワーク計画」という事業を策定し、収支見込み額から標準的な欠損額を算出して事業開始前に補助額を通知するシステムとなった。これを「事前内定方式」という。このシステムによって航路事業者の経営努力によるインセンティブを図られた。また地方の主体性を明確にする制度であるという重要な意味もある。

一方東日本大震災の発災によって被災地の離島航路の復旧が他のインフラに比べて遅れるなど、脆弱な基盤の上に成り立っている制度であることも指摘されている。

まとめ

離島航路の今後の展望と課題

今回参考資料として閲覧した論文の著者で東大客員研究員の長谷知治氏は以下のように述べている。

(前略)…公共交通機関は、「私的資本と異なって、個々の経済主体によって私的な観点から管理・運営されるものではなく、社会全体にとって共通の資産として、社会的に管理・運営されるようなものを一般的に総称する」概念である社会的共通資本としても位置付けられる。…(後略)

長谷知治「離島航路をめぐる環境変化と政策」(『海事交通研究』山県記念財団、2012年)

この定義を当てはめるにあたって最も困難なものの一つが離島航路だろう。人口減少率や少子高齢化率はほかの条件不利地域と比較しても高いうえ、好転する要素は少ない。事業者の経営改善・振興策との一体化・地方への権限移譲など、問題は山積している。

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とりわけ問題とされるのが、高齢化にも関連する離島航路のバリアフリー化だ。一般に船舶の改造費用は高額で、遅々として進まない航路も多い。一方で高齢化に歯止めはかからず、あまりに一方通行な事業がどこまで続くかという懸念も大きい。

離島航路こそが離島問題の根幹であるといっても過言ではないのかもしれない。 次弾では、「国境としての離島」に迫る。

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