おとな研究所は新しくなりました!

なぜ「こども庁」であるべきなのか ”当事者の声”を聞く姿勢の大切さ ーこども政策特集【3】

3月7日、都内某所である記者会見が行われた。

被虐待当事者の風間暁さん、現役高校生の清水あきひとさんら「『こども庁』の名称を求める会」のメンバーは3月7日、都内で記者会見を開き、名称変更を改めて要望した。

風間さんは「虐待などを受けた子は、こども『家庭』庁に『家庭』での暴力を訴えても『どうせ親にチクられる』『家に戻される』と思うのでは。家に居場所のない子どもたちが信頼できる、そして助けを求めやすい名称にすべきです」と強調した。

「こども家庭庁」名称問題、「こども抜きで決めないで」高校生、虐待サバイバーら訴え – 弁護士ドットコムニュース

おとな研究所でも、この「こども家庭庁」名称問題については記事で取り上げている。

「こども家庭庁」への名称変更を絶対に認めてはいけない理由 -こども政策特集【1】

この記者会見では、新たに設置される省庁の名称問題が改めて取り沙汰された形だ。本稿では、この記者会見に弊所編集長が当事者として参加し、また実際に取材も行ったことで見えてきた「当事者の声」の意義についてレポートしたいと思う。

photo by Change.org Japan

そもそも「名称問題」はなぜ勃発したのか

経緯については前出の記事に詳しいが、ここでも簡単に確認しておきたい。

<スポンサー>

「こども政策」の在り方については、一元的な施策・情報管理を行うための担当省庁・基本法の策定が長きに渡り検討されてきたが、昨年初頭にようやく自民党内プロジェクトチームが発足。当初は「子ども家庭庁」という名称案で検討された。

だが、被虐待経験者で保護司の風間暁氏ら有識者の「こどもにとって家庭が最善の居場所とは限らない。こどもの問題を家庭に押し付けることや、地域・社会ぐるみで見守ることがこどもたちに伝わらないことになりかねず、”こどもまんなか”のコンセプトに矛盾する」との意見を受け、PTの事務局である自見はなこ・山田太郎両参議院議員が名称について再検討。結果「こども庁」へと変更され、与党内で合意するかに見えた。

しかし年の暮れになり突如、与党内の「保守派」「連立与党」からの反発で「こども家庭庁」に変更されたという報道が出回る。これを受け、風間氏らは署名キャンペーン「家庭単位じゃなく、子ども個人に目を向けてほしい!再度「こども庁」に名称変更を!」を立ち上げることとなった。

署名の数が3万人を超えたこと、また野田聖子こども政策担当大臣に緊急要望書を提出したことを報告することが、7日における記者会見の主たる報告事項だった。

同会は3月2日、野田聖子・こども政策担当大臣と面会し「こども庁」へ名称を戻すよう求める緊急要望書を提出。「Change.org」では名称変更に賛同する署名が3万筆を超えた。

また風間さんらの活動に対して、子ども支援のNPOなどのほか、東大名誉教授の上野千鶴子氏、臨床心理士の信田さよ子氏ら60人以上の専門家が賛同の意を示している。

「こども家庭庁」名称問題、「こども抜きで決めないで」高校生、虐待サバイバーら訴え – 弁護士ドットコムニュース

記者会見の流れ

記者会見に同席したのは風間氏に加え、「日本児童虐待当事者Voice」代表で司会のAyami氏、弊所編集長で高校3年生・若者当事者の清水、社会福祉士・精神保健福祉士・弁護士の安井飛鳥氏の4名だ。

<スポンサー>

風間氏が冒頭で経緯や思いを説明した後、清水が「若者当事者」としての思いを述べた。

編集長の発言については「おとな研+plus」で発言内容を全文公開している。ぜひご覧いただきたい。

2022/3/7「こども庁の名称を求める記者会見」清水 発言内容|おとな研+plus

その後安井氏が、専門家の立場から名称変更について意見を述べた。安井氏からは、

  • 家庭の重要性や家庭支援の必要性は否定せず、むしろこどもに限らず求められる政策課題だが、名称変更とは別問題
  • 家庭が殊更強調され、当事者への配慮が蔑ろにされることや家庭を持つ親へ過度な重責がかかることへの懸念
  • “こども権利擁護”という理念からの後退と、名称決定プロセスの問題点

以上3点が述べられた。本稿で問題にしたいのは、特に2点目の「当事者」である。

もう一つのテーマは「当事者の声」

このあと、司会のAyami氏からは「虐待当事者」の声が代読された。

20代学生から70代の高齢者まで、匿名ではあるものの、生々しい悲痛な声が述べられる。本人はそう望んでいなくても、経験から「家庭」と言う言葉に複雑な感情を抱き、「こども」が家庭に縛られることの問題点を語る一つ一つの言葉には、揺るぎない説得力があった。

<スポンサー>

実は先述の通り、Ayami氏自身が非虐待当事者であると同時に、「日本虐待当事者Voice」の代表でもある。同団体は「声を拾い社会へと繋ぐ」ことをコンセプトに、様々な媒体を通して「当事者の声」を社会に届けてきたのである。

「大人になってから虐待に遭っていたことに気づく人も少なくない。「家庭の問題を家庭の中で話し合ってね」と相談機関に言われたこともある。子どもの視点や子どもの心に寄り添う社会になってほしい。」とAyami氏は訴えた。

果たして当事者の声は、本当に政治家に届いているのだろうか。そもそも政治家は、彼らの声を聞く気があるのだろうか。

風間氏にマイクが戻り、改めて名称変更の経緯における問題点を述べる。「「こっちは親権持ってんだぞ」と脅すような、親という支配者の鶴の一声で安全が帯やされるような虐待家庭の構造に等しい政治と思わざるを得ない」と声を震わせた。

そして話は野田こども担当大臣への陳情へと移る。大臣の「非公式の勉強会で決まったにすぎない」との指摘を紹介し、「内閣官房こども政策推進体制検討チーム」が主催した、公式のヒアリングに招かれた当事者の声を清水が代読。

家庭虐待と支援者からの性被害や児童相談所員の心無い言葉が、胸に深く響く。そして、今回の突然の名称変更にも「自分達は利用されただけなのか」と書いていた。まさに風間氏の言う「虐待家庭の構造」の反復だと言うことだろう。

<スポンサー>

その後記者からの質疑応答があったのち、記者会見は終了した。

「Nothing about us, without us!」

「Nothing about us, without us!」−私たちのことを私たち抜きで決めないで

障害者権利条約の完全実施|認定NPO法人 DPI 日本会議

この言葉は、子どもの権利条約同様に国際連合における人権条約として多くの国が批准している「障害者の権利に関する条約」の作成にあたって呼びかけられた合言葉だ。

風間氏はこの言葉を「こども家庭庁 名称問題」における合言葉にもしているという。すなわち、「当事者の声が蔑ろにされるべきではない」ということだ。

親子関係や家族関係が良好で、「家庭に自分の居場所がある」と感じる人が、果たしてそう感じない人の声を聞かずに気持ちがわかるだろうか。きっと難しいだろう。

不器用なまでの「気遣い」が必要なのではないのだと思う。2020年度は、生徒児童の自殺数が過去最多。児童相談所への相談件数も過去最多だ。「家庭に居場所がある」と感じている人すら、追い込まれている可能性が十分にあると言うのが現実なのである。

「被虐待当事者」だけが、「こども家庭庁の当事者」ではない。「全てのこども」がこども家庭庁の当事者だ。だからこそ、マイノリティである被虐待当事者の声だけを聞くことができない、と言うのも筋は通っているのかもしれない。

<スポンサー>

しかし考えてみれば、「こども家庭庁」で漏れ出る、辛い記憶を呼び起こしてしまう人がいても、「こども庁」から漏れ出るこどもがいるだろうか。誰1人取り残さない社会、と言うのはSDGs「持続可能な開発目標」の一つでもある。

私たちは、「取り残される恐れのある人たちの声」こそ意識して聞くべきなのである。ましてや、政治家の密室談義的な決定を追認してはならない。

「私たち抜き」で「私たちのこと」を決めることは許されないのである。未来の社会を作る政策と言ってもいい「こども政策」で、この言葉の重みはより増していくのだろう。

2件のコメント

コメントを残す