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都知事選特集ー財政政策、山本太郎氏の政策は本当に財政破綻を招くのか?公約を検証してみるー

6月15日(月)にれいわ新選組代表の山本太郎氏が東京都知事選に立候補を表明、①東京五輪・パラリンピックの中止、②コロナによる経済損失への対応として総額15兆円規模の財政出動などを目玉に掲げ立候補した。財政出動を多く要する政策のため、早速、Twitter上で「財政破綻するぞー!」、「ムンジェイン韓国大統領の再来だー」といった多くの批判的なコメントが寄せられ、良くも悪くもネット上では大きな話題を集めている。

 今回の記事では、ネット上で言われているように「財政破綻を招くのか?」という部分を検証してみたい。障害者福祉政策などの公約の検証については次回以降の論考で述べたい。

財政破綻を招くは本当か?

ー批判と過去の経緯とー

 今回、山本太郎候補が発表した財政政策について早速、維新・あたらしい党所属の音喜多氏がブログで意見を述べている。音喜多氏の意見は以下の点である。

  • 地方は国と違って中央銀行や通貨発行権を持たないこと
  • 20兆円の地方債発行について本当に買い手がつくのか?
  • 将来の世代にツケを残すのではないか?
  • 地方債市場の問題

 これらの問題を挙げている。また、ネット上の意見として筆者が傾聴するべき意見としては、以下のものがある。

  • 地方税不交付団体で圧倒的に財政的に優位である東京ばかりが、一気に財政出動できるのは不公平ではないか?
  • 公債発行比率の観点から地方債の発行がそもそも難しい財政難の自治体は余計不利な立場になるのではないか?
  • 美濃部都政の再来ではないか?
  • 国家社会主義がやってくる

 東京は、美濃部都政と青島都政の時代に2度財政難を経験したことがあり、鈴木都政、石原都政の時代に財政を立て直した経験がある。特に美濃部都政の時代には、赤字に転落したこと、旧自治省と起債権限で揉めた経緯がある。歴史的経緯を踏まえると、上記の批判は一見すると傾聴に値するように見える。

ー徹底検証してみるー

 これらの見解に対して、まず、山本太郎代表は、東京都の実質公債費率が1.5%であり、20兆円財政出動したとしても実質公債費率の18%を超えないということを総務省に確認している。今回支出する額は総額15兆円である。全都民10万円給付、マイナス分の補填、医療・エッセンシャルワーカーに対する日当2万4千円の給付などなど

 「大盤振る舞い」「美濃部都政の再来」と言った見解を聞くが、筆者は全くそうは考えていない。まず、美濃部都政で問題になった点は、

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  • 公務員の一人当たり人件費が国家公務員より1.18倍。
  • し尿の汲み取り費無料化
  • 老人医療費無料化

 こうした財政出動は、恒久的に財政出動が伴うものであり、好不況に合わせて歳出を機動的にコントロールできるものではない。その上、オイルショック後の経済の低成長と高いインフレ率の中で財政出動を増やし続けたという背景もある。今回の話は、コロナショックに伴う緊急事態における機動的な財政出動であり、美濃部都政で問題になった恒久的な無償化政策とは根本的に異なる。

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 また、東京は唯一の地方交付税不交付団体であり、市場は優良団体だと判断すると思われるの買い手はつくと考えられる。都債の利回りは0.4%であり、国債はマイナス金利である以上、買い手は多く発生すると見られている。国債ではなく都債を買う機関投資家もいるであろう。

 東京だけが大盤振る舞いして、実質公債費率が高い自治体は不利になるのではないか?とする声も多くある。その点については、3点考え方がある。1つは、中央銀行による地方債の直接引受、2つ目には薔薇マークキャンペーが提示する地方交付税交付金や国庫支出金の増額である。

 1つ目については、N国党の浜田議員が6月4日の質疑で日銀法33条に基づいて地方債の購入が可能である、という答弁を日銀の加藤毅企画局長から引き出している。ただし、日銀で地方債が購入できたとしても公債発行比率に関するルールを改正しない限り厳しい。また、個々の自治体の地方債を中央銀行に引き受けるとなrと、地方間の格差が顕在化するという批判もある。こうした批判に対して、薔薇マークキャンペーン(反緊縮を求める運動)では「交付税および譲与税配付金特別会計」 のための国債を発行していくという方法を提唱している。「交付税および譲与税配付金特別会計」のために国債を発行し、その上で日銀が購入し、自治体間の分配は交付税配分ルールに基づいて行われるため自治体間の分配の不公平は発生しないとされる。

 2つ目は、地方交付税・国庫支出金の大幅増額。地方交付税の総額は、所得税・法人税の 33.1%(2015 年度から)、 酒税の 50%(2015 年度から)、消費税の 22.3%(2014 年度から)、地方法人税の全額(2014 年度か ら)と決めらてるが、その地方への分配比率の拡充である。国庫支出金の大幅増額である。

詳細な案については、薔薇マークキャンペーンの下記リンクに書かれている。

https://rosemark.jp/wp-content/uploads/2020/01/local_mani_ver15_202001.pdf

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 なお、山本太郎代表候補は、今回提唱した政策については「本来、国がやるべきこと」と述べている。山本太郎都政が誕生した場合は、この点をしつかり議論していきたい。

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 国家社会主義がやって来る、という批判もある。筆者はこの見解については、違うと考えている。戦後、財政法が制定され4条で赤字国債の発行が禁止されたが、その理由は戦前から戦中、膨大な国債発行を行って戦費調達をした背景が理由ある。ただ、国債発行なしでは戦後復興が厳しい、ということで、石橋湛山蔵相や池田勇人蔵相は抜け道による公庫制度・特別会計制度・財政投融資という形で事実上の「国債発行」による資金調達を実施した。復興金融公庫、住宅金融公庫などの各種公庫制度の整備と、特別会計による財政出動を行った。石橋湛山蔵相は「インフレ大臣」と言われるほど財政出動に熱心だった。石橋湛山は、統制経済反対・小日本論者である。この財政出動で社会主義になるならば、そもそも石橋湛山さんや池田勇人さんは社会主義者になるのだろうか?不思議でならない。むしろ、財政出動とは、民間経済が危機に陥ったからこそ需要を作り出し支えていくという意味で、資本主義を守るプロセスだと筆者は考えている。

最後に

「戦争の時に「財政規律がー」とか「政府の借金がー」とか言っている閣僚はクビにした方がいいと思います。今、ウイルスとの戦争をやっているわけでしょう」

 経済学者である井上智洋さんのツイートで好きな言葉である。

 コロナについて自粛・反自粛色々意見はあるが、海外での深刻な状況を見ていると「戦争」とも呼べるし、日本ではコロナそのものについては影響が小さくとも、経済的に深刻なダメージを受けているという意味ではまさしく「戦争」であろう。

 戦争中に軍事費を削れ、財政規律というリーダーが世界中どこにいるのだろうか?

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 その問いかけこそ、都知事選の一つの争点であろうと筆者は考えている。

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