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アイドルと歌詞とセクシズム 第2回

 「アイドルと歌詞とセクシズム」第1回では、秋元康作詞の曲をいくつか取り上げ、その有害性やジェンダー規範の押し付けを考察した。本記事では、対照的なメッセージを発信しているK-POPのいくつかの曲を取り上げ、韓国音楽文化に注目する。

K-POPの潮流

 この記事では主に韓国の音楽文化について解説するが、基礎として、K-POPのアーティストに存在する「世代」についてまずは取り上げる。

第1世代

 韓国の音楽文化の始まりは、主に日本の歌謡曲に似たようなものだった。当時最も人気だった「ソテジワアイドゥル」というグループが解散・引退したのちにヒップホップを取り入れた、韓国独自の音楽ジャンル「K-POP」が育ち始めたのである。

第2世代

 第2世代からは、メンバー全員がボーカルやダンスに秀でているという点が特徴的になる。日本でも韓流ブームが起こり、「東方神起」や「少女時代」「KARA」などのグループが日本進出し人気を博した。

第3世代

 K-POPが広く世界で認知されるようになるのがこの世代からである。「BTS」や「TWICE」といったグループが次々に世界でヒットした。世界で活動を行うにあたっては、高い語学力や一定のコンプライアンス意識を持っていることがアイドルに求められるようになった。ガールクラッシュの代表格とされる「BLACKPINK」もこの世代に属する。

第4世代

 この世代で最も特徴的なのは、デジタルへの適応性である。様々な媒体を介して活動を発信し、ファンとコミュニケーションを取ることが可能になった。

 それゆえ、ファンたちが求めているコンセプトにより密着した音楽がプロデュースされるようになり、ガールクラッシュグループも増えたと考えられる。

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「ガールクラッシュ」とは何か

 では、この記事で注目しようとしている「ガールクラッシュ」とはどのような概念なのだろうか。

 この言葉は、女の子を意味する「Girl(ガール)」と、惚れる、恋に落ちるという意味を持つ「Crush on (クラッシュ オン)」というフレーズが組み合わされてできたものだ。つまり、女性が憧れる女性、美しさと強さを兼ね備えた女性像を表す言葉として用いられている。

 当初はかわいい/清純系とセクシー系に二分されていたK-POPの女性アイドルグループに変革が起こり、強さやかっこよさを打ち出したコンセプトが受け入れられるようになった。「ガールクラッシュ」という言葉が使われ始めたのは2010年前半のことであるが、それ以前に活躍していた「2NE1」が、言葉に追われる形でガールクラッシュの元祖であると広く認識されている。

 現代の「ガールクラッシュ」コンセプトの歌詞をいくつか見ていこう。

DDU-DU DDU-DU / BLACKPINK

착한 얼굴에 그렇지 못한 태도

大人しそうな顔でそうじゃない態度

거침없이 직진 굳이 보진 않지 눈치

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躊躇なく直進 あえて空気を読まない

우린 예쁘장한 Savage

私達はかわいらしいSavage

DDU-DU DDU-DU / BLACKPINK

 第3世代ガールクラッシュの代表格とされているBLACKPINKの人気曲である。全体として、おとなしく見えてもそうではなく、相手に惑わされず自分の道を突き進むというメッセージが発信されている。

HIP / MAMAMOO

어딜 가든 넌 빛날 수 있어

どこに行ってもあなたは 輝けるよ

세상에 넌 하나뿐인 걸

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世界にあなたは一人だけだよ

HIP / MAMAMOO

 タイトルである「HIP」とは、「流行の」「格好いい」という意味で用いられる英語のスラングであり、「cool」と同じようなニュアンスである。

 自分自身に対する自信を歌った曲であり、メンバーのファサ自身が空港での服装を揶揄された事件などをMVに取り込み、ありのままの自分を肯定する意志が込められた曲である。

DALLA DALLA / ITZY

예쁘기만 하고 매력은 없는

綺麗なだけで魅力がないような

애들과 난 달라 달라 달라

皆と私は違うのよ

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니 기준에 날 맞추려 하지 마

あなたの基準に私を当てはめないで

난 지금 내가 좋아 나는 나야

今の私が好き 私は私よ

DALLA DALLA / ITZY

 第4世代の代表であるITZYのデビュー曲は、強烈なインパクトを世界に残した。これぞガールクラッシュ、ともいうべき自信と自己肯定に満ち溢れた歌詞は、多くの女性をエンパワーしたと言えるだろう。

世界で巻き起こるK-POPブーム

 「ガールクラッシュ」な女性アイドルの歌詞をいくつか見てきたが、このようなコンセプトの生成には韓国社会の雰囲気が大きく影響したと考察できる。

 日本と同じように家父長制が強く根付いている韓国では、民主化の波とともに独自のフェミニズム運動が育っていった。21世紀に入り、SNSなどの影響で若者にとって身近なものになった「ジェンダー平等」の概念は、近年人気である韓国のフェミニズム文学などの形で萌芽した。

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 ガールクラッシュのコンセプトは、女性解放、女性のエンパワーメントという点でフェミニズムの要素を少なからず有しており、このようなコンセプトが韓国で生まれ人気になったことは当然の結果かもしれない。

「ガールクラッシュ」コンセプトは広まるか

 「アイドルと歌詞とセクシズム」第2回では、K-POPの「ガールクラッシュ」コンセプトについて紹介した。このコンセプトは日本のみならず世界で大ヒットすることになり、多くの女性を勇気づける役割を果たした。

 ではこのような文化は日本で見られるようになるだろうか。次回の記事で解説する。

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ライターページ おとな研究所 編集部員 ジェンダー/セクシュアリティや外国人の権利問題に強く関心を持っています。社会問題についての記事が多くなると思いますが、おとな研究所に新しい風を吹かせることができればと思います。