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記事本文を読まないツイッター利用者と扇情的なタイトル~『愚民思想』をめぐるデマが広がった背景

 山尾志桜里議員(国民民主党)が論座に寄稿した記事「国民民主党『憲法改正への論点整理』に込めた願いは愚民思想からの卒業」について、様々な意見や批判が出ている。

https://webronza.asahi.com/politics/articles/2020121800002.html

 確かに、コロナ禍の今憲法の議論をすべきではないという立場が一定の支持を得ており、そのような立場から記事の内容を批判することについては、理解できるものである。しかし、記事の本文を読まずに、タイトルだけを読んで批判していると思われるような批判が相次いだ。今回の「炎上劇」は、現代のSNS社会における情報拡散の根深い問題を示唆しているのではないか。

「愚民思想」に嵌っているのは誰か?

 まず、山尾志桜里氏の記事中に使われている「愚民思想」の意味を確認したい。「権力者が国民を『愚民』扱いする」という思想である。ところが、①改憲反対派の②国民を愚民扱いしているという、2点において、ツイッターを中心にデマが流されていた。

 嶋﨑量氏は弁護士を名乗っているが、このような記事の読み方のように司法試験の問題を読めば、不合格になってしまうはずだ。これは記事を読んでいないという重過失か、読んだうえで内容を捻じ曲げて批判すると言う故意によって生じた、明確なデマだ。

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 まず、山尾氏は国民を愚民思想と言っているのではない。記事中の「マッカーサーほどあからさまではないにせよ、日本の政治家のなかに、国民を『守る』ふりをして『愚民』扱いする傾向が幅広く存在することに、我々は注意すべきだ」という記述から読み取れるように、政治家が国民を愚民扱いするという意味で、政治家が「愚民思想」を持っているというものだ。国民が、愚民思想を持っているとは、一言も言っていないのである。

 次に、山尾氏は改憲反対派政治家ばかりを愚民思想と言っているのではない。確かに、1ページ目には辻元清美衆議院議員(立憲民主党)という護憲派の筆頭的政治家を批判しているので、そこだけを読めば山尾氏が護憲派政治家ばかりを「愚民思想」と批判している、と思ってしまうのかもしれない。しかし、その後2ページ目で「安倍晋三前総理の『自衛隊明記案』の背後にも、国民に対する愚民思想が潜む。『自衛隊を明記するだけで、何も変わらない』という発言は法理論上数々の疑義を生んだが、その疑義には一切回答しないまま、『お父さんは違憲なの?』という情に訴えるエピソードに逃げこんだ姿勢は、愚民思想の最たるものだ」と、改憲派の筆頭である安倍晋三前首相(自由民主党)を強く批判している。つまり、山尾氏の言いたいことは、改憲、護憲に関係なく、政治家の中に、国民のことをバカにしている人々がいると言うものだ。

 嶋﨑量氏をはじめ、読まずに批判をした(2ページ目以降を読まずに批判した人も含む)人々には、猛省を促したい。念のために追記しておくが、もちろん、「コロナ禍の今憲法議論ではない」という主張からの批判は、山尾氏の記事に対する批判としてはありうるものであり、それについて言及しているわけではない。

「読まずに批判した人」がさらに「読まずに批判する人」を生む

 ここで取り上げた、「記事本文を読まずに批判する人」の問題は、もっと根深い。例えば、今回取り上げた嶋﨑氏は、約1.8万人のフォロワーがいる。そのような一定の影響力を有する利用者が、記事本文を読まずに批判した場合、多くのの人々が、さらに引用リツイートなどを通じ記事本文を読まずに批判してしまう。同氏のツイートを引用リツイートする形で、記事を読まずに批判したと考えられる人々が、あまりにもひどい(誹謗中傷を含む)批判を行っているので、参考のため紹介した。

https://twitter.com/saotomemakoto/status/1341181708041740289

 紹介したツイートの中には、記事の内容を読んでいないと思われるのにもかかわらず、擁護する趣旨で書いているものも見受けられる。しかし、山尾氏は、誰かのことを「愚民」扱いするような趣旨で書いていない。記事を読めばすぐに気づくはずなのだが、本文を読むという最小限の労力も怠って、批判したり擁護したりする人がここまでたくさんいるのである。

本文を読んだうえで論評すべき

 本件は、あまりにも典型的なSNS上のデマの例である。情報化社会が進み、一次情報(政治家や有名人の発言・記事)が形を変えず、ほぼそのままインターネットに転がっている。それにもかかわらず、一次情報にアクセスすることなく、軽率なことに真実に反することがSNSで拡散される。

 一般人も、デマを流してしまうおそれがあるのだ。情報発信をする際は、事実に反することを軽率に投稿することのないよう、慎重に行うべきである。

山尾氏にも扇情的なタイトルをつけた責任がある

 山尾氏の主張にも一理あるにせよ、「愚民」というワードは普段聞きなれない物騒なものだ。だれかのことを「愚民」と言っているわけではないということは、本文中から明らかではあるが、タイトルだけを読んで軽率に評価する人が多いことを考慮すべきであった。「政治家の愚民思想」だとか、「国民をバカにする政治家たち」のようなタイトル付であれば、ここまでデマが広まることもなかったのだろう。山尾氏にも非が無いとは言えないだろう。

 タイトルをつける際は、慎重に行うべきだ。