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マイナンバーカードはもう古い⁉「仮想カード」の整備を!

個人番号カード(マイナンバーカード)は「行政手続きにおける特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(通称マイナンバー法)によって規定されている、申請型の身分証明書だ。運転免許証や健康保険証等、様々な行政サービスの統合や、手続きの簡素化を主目的とする他、銀行口座との紐付けで迅速な公的給付を行う事も可能となる。更に、マイナンバーカードが持つ電子証明機能を利用した民間事業者が利用可能な本人確認などの利用も可能とする。煩雑で効率性が低い日本の行政管理の簡素化の切り札として期待されて導入された。

マイナンバーカードは、プラスチック製のICチップ付きカードで券面に氏名、住所、生年月日、性別、マイナンバー(個人番号)と本人の顔写真等が表示されます。本人確認のための身分証明書として利用できるほか、自治体サービス、e-Tax等の電子証明書を利用した電子申請等、様々なサービスにもご利用いただけます。

マイナンバーカードとはーマイナンバーカード総合サイト

導入に遅れが目立つマイナンバーカード

当初は申請の手間や、(保険証利用が始まっていないなど)メリットの少なさから取得率は供用開始された2017年から満2年でわずか15%と低迷していた。その後マイナポイント事業や機能の拡充によって21年末には取得率40%を達成し、政府は22年度末までに100%近い普及率を目指している。しかしながら、給付事業等でマイナンバーカードの申請を促す事はできても、国民がその利便性をメリットと感じないのであれば、実質的なカードの使用率は低迷し、期待されている合理化効果は不発に終わるだろう。

更に、カードの保有が高まったと言え、その利用が進んだとは言えない。マイナンバーカードの健康保険証利用の申込件数は311万件と、マイナンバーカード交付実施済数3,491万件に対して8.9%と、極めて低い水準に留まっている。この調子だと、24年度末に供用開始が計画されている免許証利用も躊躇する人が続出する事は明白だ。実際問題、色々な公的サービスのメリットはマイナンバーカードでは無く、番号自体になるので、センシティブな個人情報である個人番号漏洩リスクなどを鑑みると、携行に拒否感を持つ人を多いだろう、筆者もそう感じる。

「仮想マイナンバーカード」で利便性の向上を

これらの諸問題を解決するのが「マイナンバーカードのデジタル化」だ。これは、現在民間企業によって実用化されているクレジットカード等の仮想化サービスを活用した、マイナンバーカードの仮想化を指す。具体的には、国内でも普及・認知率が高いアップルペイとグーグルペイ等のサービスとの提携を可能とする法改正を提案する。国内での普及率が86%に達しているスマートフォンの活用はマイナンバーカードの利用促進にも繋がると考えられる。

アップルペイやグーグルペイを始めとするデジタルウォレットは、大手金融機関が発行するクレジット又はデビットカードを仮想化し、デジタル端末に搭載されているNFC機能を利用するサービスだ。これにより、財布やカードの持ち運びが不要となり、スマートフォンやスマートウォッチ等のウェアラブル端末を決済手段として利用することができる。勿論、セキュリティは海外の大手金融機関の認証を受けており、暗号化やハッキング対策もなされている。

既に総務省はマイナンバーカードの機能の内、電子署名のみに関して独実開発アプリでの仮想化を目指しているが、身分証明としての機能や、保険証や運転免許証としての利用を可能にする資格証明機能に関しては計画が無く、民間のアプリや規格を利用しない事はユーザビリティを害するもので、不十分と言える。

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上記のウォレットにマイナンバーカードを搭載する事で想定される利便性の向上は、マイナンバーの使用を促すと考える。具体的な例としては以下の2例が挙げられる。

①マイナンバーカードの持ち運びが減る

マイナンバーカードを紛失した場合の個人情報流出等のリスクが減り、マイナンバー番号の流出を恐れて家に保管する事を選択する方の利用も可能とする。デジタルウォレットとして、既にクレジットカードや他国の身分証明書のデータを抱えている携帯やウェアラブル端末のセキュリティ性は高く、遠隔データ消去やロックアウト機能が搭載されているため、端末を失った場合においても危険性は低い。

 ②デジタルウォレットシステムを利用した利便性の向上

デジタルウォレットの活用は、暗号化されたデータ通信を始めとした高い民間のセキュリティ規格の利用により、政府側のシステム開発費・維持費の削減が可能となる。例としては、政府が開発したワクチン証明書アプリの必要性が無くなり、既存のプラットフォームを活用する事で携帯を直接NFCリーダーにかざすだけでワクチン管理システムと交信し、確認が可能となる。

海外では導入例も

A driver’s license and state ID in the Wallet app on iPhone 12 Pro and Apple Watch Series 6.
アップルウォレットでの身分証明書導入イメージ(出典:アップル)

デジタルウォレットを通じた身分証明書の仮想化は既に導入例もあり、現実的な政策オプションとなりつつある。米アリゾナ州では、2022年3月に身分証明書の機能を有する州運転免許所のデジタル化サービスをアップルペイにて開始しており、同様のサービスが今後米国内で12の州と地域にて導入される計画だ。日本でマイナンバーカード導入の議論からの供用、そしてその浸透まで10年以上を要したが、その期間の間に単純な個人番号カードは既に時代遅れとなってしまった。

外部リンク:Add your driver’s licence or state ID to Apple Wallet

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障壁は高いが、、

マイナンバーカードのデジタル化の際に考えられる障壁としては法的障壁及び技術的障壁が考えられる。しかし、これらの障壁を今の内に解決しないとむしろマイナンバーカードの利用がスタンダードとなった時、その次の規格への移行が困難になる事が想定される。これまでのアナログ制度からマイナンバー制度に移行する時に要した時間と労力がもう一回繰り返される可能性がある。

マイナンバーカードの仮想化には、マイナンバーカードの利用方法を定めている現行法の改正が必要となり、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(平成二十五年法律第二十七号)が求められる。具体的には提示等の規制に関する部分において、「カード」との記載がある箇所を、デジタル化された仮想カードも認め、仮想カードと実物カードが法的に等しい事を明記することが必要だ。

技術面に関しては、現在のマイナンバーカードの暗号規格やシステム設計が民間デジタルウォレットやスマホ内蔵NFC等との互換性の問題が考えられる。しかしながら、前述した通り「今」この課題を乗り越えないと、将来の利便性向上を害する事となる。

マイナンバーカードの導入は我が国の行政のデジタル化に大きく寄与する事が期待されているが、「デジタル化」とは常に時代の潮流に合わせ制度やシステムをアップデートしていく事が前提の筈だ。20年前だったらパソコンやサーバーの導入も「デジタル化」となっただろう。しかし今ではそれくらいは「常識」となっている。今のマイナンバーカード制度は2010年代のシステム思想に基づいている。民間同様、行政サービスも恒久的なアップデートを行っていく事が重要だ。

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