オーストラリア総選挙 労働党辛勝、自由党系環境無所属躍進

結果概要

5月21日、オーストラリアで衆議院・元老院議員を選出する選挙が行われ、最大野党である労働党が衆議院の151議席中76から77議席を獲得し、比較第一党以上となる事が確定。3期9年続いた自由党・国民党連立政権からの政権交代が確実となった。

労働党は前回選挙で獲得した67議席から10議席を獲得した一方、自由・国民連合は75議席から58議席と16議席を失った。

今回の選挙結果を議席数で分析すると労働党の勝利、自由国民連合の大敗に見えるが得票率ベースではより複雑な実情が伺える。自由国民連合は得票率36.1%と前回選挙と比較して―5.4%得票率を下げる結果となったが、前回選挙に負けている労働党は得票率32.7%と得票率を0.6%下げている。

オーストラリアでは優先順位投票制度が採用されているため、労働党には得票率12%の緑の党票が加算される事で多くの選挙区で勝利しているが、それでも政党の人気を示す得票率が伸び悩んでいる事は事実だ。

更に、今回自由党と労働党が失った6%得票がどこに回ったのかと読者は思うかもしれない。票の移動に関しては今回の選挙、4つの大きなトレンドがあったと言える。

  • ①自由党→自由党系無所属(都心富裕層)
  • ②労働党→自由党(郊外)
  • ③自由党→労働党(西オーストラリア州)
  • ④労働党→緑の党(都心左派)

この内、④は労働党が政権を獲得する為に中道路線を取った事に由来し、労働党による政権交代時にはたびたび発生するので特段特殊な事情とは言えない。しかし、普段であれば全国的に労働党か自由党どちらかが相手から票を奪い、得票を伸ばす構図であるのが、今回は地域の属性によって大きく異なる結果となった。

今回の結果の構図は、オーストラリアの公共放送ABCが選挙前に公表した各選挙区の政治マトリックスに当てはめるとどの様な層がどのような投票行動を示したのか、今回の記事では各トレンドを分析していきたいと思う。

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「ティール」系無所属

ティール運動は従来の自由党地盤で旋風を巻き起こした。写真はティール系候補であるザリー・ステガル議員

今回の選挙では自由党・労働党どの党にも風は吹かなかった選挙とも言える。変わりに風が吹いたのが本来自由党系である筈の無所属候補だ。

「ティール」(青緑)呼ばれる建前上無所属である候補者は、クライメート200と言う名の気候変動対策を訴える政治団体から資金とロジスティクス援助を受けており、事実上の政党として活動していた。

これらの候補者が「ティール」と呼ばれるのは、自由党(青)に環境政策(緑)を足し合わせたからと言われており、実際ティール系の候補者は青緑色をシンボルカラーとしている。

「クライメート200」の創設者一族は自由党と関係が元々深く、その候補者も元自由党員だったりと関係が深い。ティール系のリーダー格とも言われるアレグラ・スペンダー氏は親が自由党で外務大臣を務め、祖父は初の自由党政権男爵で大蔵大臣までも務めており、政界のサラブレッドそのものだ。

本人もケンブリッジ大学経済学部卒(なお大学入試最高得点)、マッキンゼー&カンパニーで務めた後英国財務省で官僚の職を務めており、政策通として有名であり、自由党の議員であれば総理候補となる人材である。

「ティール」と呼ばれる自由党系無所属のリーダー格であるアレグラ・スペンダー氏

スペンダー氏を筆頭とするティール系無所蔵は主要都市の沿岸部に属する「ブルーリボン」と呼ばれる自由党の強固な地盤を完全に破壊した。スペンダー氏が勝利した「ウェントワース」選挙はターンブル元総理の選挙区であり、本来であれば自由党得票率70%越えの選挙区だ。

しかし、これらの選挙区は富裕層在住地域で経済的には右派だが、社会的にはリベラルな住民が多い。実際、ターンブル氏も自由党穏健派の筆頭格であった。

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しかしながら、ターンブル総理辞任以降、ここ数年進んだ自由党の右傾化に嫌気が差したリベラル右派系の支持者が密集する都心沿岸部で軒並み自由党の現職が敗退し、10議席を失う事になった。

なお、フライデンバーグ財務相やシャーマ議員など、今回自由党系無所属に敗れた自由党の現職の多くは党内でも穏健派であり、今回の選挙結果によって自由党が更に右傾化したとの指摘もあり、今回失った議席を取り返すのは容易ではないだろう。

崩れる労働党地盤(紫)

従来労働党の地盤である地域が近年接戦化しつつある。

今回選挙に勝った労働党はお祭りムードだが、前述した通り得票率を下げている。この得票率低下の原因は従来の労働党地盤である郊外のブルーカラー中流層の支持が急速に低下している事に由来する。

彼等は近年の社会潮流に一定反発しており、従来労働組合などの経済的イシューで労働党に投票していた所を社会保守的価値観から投票先を自由党に「切り替え」た層だ。潮流としてはアメリカのトランプ支持層よりは穏健だが、それに近いものがある。ABCの政治マトリックスの中で紫で示した部分だ。

今回の選挙では、ギルモア選挙区など、労働党が得票を減らしたがギリギリ逃げ切れた選挙区が10区程度存在する。内、ギルモア・ライオンズ・リンギャリの各選挙区は自由党の得票率が49%台と労働党に肉薄している。

もし次回の選挙で政権与党となった労働党に少しでも逆風が吹けば軒並み議席を失う事となり、過半数割れは確実だろう。

西オーストラリア州の労働党フィーバー

西オーストラリア州では大人気のマーク・マガワン知事

オーストラリア東部ではそこまで冴えない結果だった労働党だが、西オーストラリア州では自由党に対して圧勝を収め、選挙勝利に直結した。西オーストラリア州では元々労働党が15議席中、4議席しか獲得していなかったが、更に4議席獲得し議席数を倍増させ、躍進した。

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西オーストラリア州では労働党知事であるマガワン氏の中央政府と一線を画す独自政策が西オーストラリア州民の独立志向(人口の3割以上が分離独立を支持していると言われている)と合致し、前回の州議会選挙では得票率7割近く獲得した。

労働党は今回の選挙戦でもマガワン氏を全面に打ち出し、その結果、西オーストラリア州では一部選挙区では労働党が10%以上得票率を伸ばし、国政でも躍進する結果となった。

労働党も自由党も茨の道

自由党保守派の重鎮で、新代表に就任したピーター・ダットン氏

今回の選挙で二大政党両党とも得票率を下げ、従来の支持基盤の離反が決定的となった。ダットン氏率いる自由党の新執行部は更なる右傾化により、労働党がこれまで有利であったブルーコラー層地域の議席を獲得する事を戦略として練っている。

対する労働党は3年の任期でインフレ問題や賃金の向上によりなんとか与党の地位を守り抜く事に必死だ。しかし、中道路線である自由党系無所属が正式な政党になったり、更に勢力を伸ばした場合、両党の脅威になる事は確かだ。自由党系無所属は10議席を獲得し、オーストラリア建国以来初の大規模な第三極勢力となった。両党はこれを無視する事はできないだろう。

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神谷ゆうた

投稿者プロフィール

ライターページ
オーストラリア国立大学、政治哲学経済学部(PPE)在籍の19歳。日本維新の会学生部広報課長

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