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迫りくる魔の手:中国共産党のインターネット覇権戦略

インターネットの発明は車輪、蒸気機関、そしてトランジスターと並ぶ、人類社会を大きく変えた物である。自由競争とその平等性により、インターネットは数々のイノベーションを引き起こし、世界をより便利で繋がった世界にした。

インターネットは本来自由で開かれた物であるべきである。自由な表現が認められ、地理上会う事が出来ない人が気軽に連絡を取り合える手段である。世界の英知を簡単に調べる事ができ、情報コストを下げる事により、社会の可能性を圧倒的に飛躍させる。

そして、インターネットの大原則として個人情報の秘密とプライバシー権は守られるべきなのである。しかしながら、インターネット利用者数世界最大の国、中国ではその様な自由とプライバシーは全くない。公権力による統制が完全に行き渡っており、政府にとって好都合な理由でしかインターネットが利用できないのだ。

その為、フェイスブックやグーグルなど、グローバルスタンダードであるサービスは全く利用できず、自由な表現も認められない。中国のインターネットは政府支配の正当化に利用された民族主義と保護主義によって完全に自由を失っているのだ。

万里の長城

「万里の長城」とも揶揄される、中国の「金盾」計画は1999年、インターネットの黎明期に開発が始められた。当初は、中国にとって有害な情報が記載されているサイトを遮断すると言う、学校や企業の団体でも使われているプロキシシステムだった。コンピューターの基礎的知識を持っている人なら、簡単にVPNを利用し、迂回する事が可能であった。日本でのプロバイダが提供している「あんしんネット」的な物に近い。

元々は、一般大衆をいわゆる「危険思想」から守る事、そして反政府的活動を未然にシャットアウトを目的としてた為、当局側も一部の人間がVPNを使用する事を容認していた。これを取り締まる事が当時の技術では極めて困難な事であり、米ビル・クリントン大統領が「中国がインターネット規制を試みてるのは事実だが。。。まあ健闘を祈る(グッドラック)。 ゼリーを壁に釘付けしようとするような事だよな。」と揶揄した事が有名だ。 

しかし、2010年代から事態は大きく変わりだす。技術の発展により、一般大衆の通信内容さえ政府がコントロールできなくなる事態を恐れた政府は積極策に乗り出す。スカイプやラインなどの暗号化通信の全面禁止から始まり、機械学習を用いた自動ブロックなども開始され、VPNやDNSマスクを利用した迂回が不可能となった。自動的に暗号化トラフィックが検知され、遮断されるのだ。

そして、暗号通信が禁止された結果、特定のキーワードが含む文章や機械学習によって、「反中的」だと判断された画像や音声は送信できない状態が作り上げられた。中国政府は、インターネットの制御に成功したと言っても過言ではないだろう。

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外資規制

中国版グーグル、百度(Baidu)

暗号化の禁止、特定技術・サービスの禁止は結果的に中国以外の市場で認められる製品が中国国内で利用できない状況を作り出している。自動フィルタリングが無い主要SNSや、検索規制がかからないグーグルは勿論利用できない。政府の検閲が入っていない衛星データと地図を載せた地図サービスも勿論禁止される。

結果的に中国国民は西洋市場の質の高いサービスを利用できない状況となってしまっている。その結果、中国は全世界から分裂した、独自のインターネットエコシステムが形成されている。中にはSNS規制が強い結果、若者のコミュニケーションツールがモバイルゲームになっていると言う面白い結果も生み出している。

「国内産業育成」と言うウソ

本来なら、政府により規制で消費者に渡る製品の質が低下した場合、消費者側の圧力で政府はその規制を撤廃せざる得ない状況が多い。日本でも戦後その道を辿った経験がある。中国でも、以前はVPNを通じて海外サイトを利用でき、グーグルも一時期利用可能であったのに、政府に対して規制撤廃の圧がかからない。理由は、インターネット規制を自国産業保護政策として打ち出したからだ。

当局のプロパガンダでは、共産党の規制は中国国内をGAFA的な海外企業の席捲を防ぎ、中国独自のネット企業を作り上げる事が出来たと主張しているのだ。中国は元々愛国教育が徹底されている国である。この様なレトリックに中国国民ははまり易い。消費者を犠牲にして、共産党を盲目的に従う企業をどんどん大きくさせる。ステート・キャピタリズムそのものである。(なお日本もこんな感じだろ、と言われたら認めざる得ない)

共産党の産物:テンセント帝国

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テンセント本社

海外では競争力と影響力が全くない企業なのに、中国国内の市場規模のお陰でマンモス企業に成長した代表格がテンセント(騰訊控股)だ。テンセント近年西洋のゲーム企業を買収し、海外市場でも相応の規模を持ちつつあるが、それ以前は主に中国国内でモバイルゲームサービスを提供する会社であった。しかし、海外製品が規制される中、爆発的に成長し、ついにソニーや任天堂、アクティビジョンを超える売上世界一のゲーム企業とまでになった。

今ではゲーム以外に中国最大かつ(事実上)唯一のチャットアプリ、WeChatを運営・開発している。WeChatはチャット以外にもキャッシュレス決済、や役所の窓口業務までを請け負っており、中国で生活するは必須のアプリだ。

しかし、テンセントの成功は共産党による保護のお陰であるから以上、テンセントは中国共産党の戦略とアジェンダに追従する以外生存手段はない。共産党の支援なしに成長したアリババでさえ、今は政府に屈服しているのに、テンセントに自由性がある訳がない。

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ソーシャル・エンジニアリングによる恐怖支配

中国共産党がテンセント課した目標は大きく分けて二つある。①資本の力による海外メディア支配、そして②プラットフォーマーとして中国共産党支配の強化、である。

テンセントは米国において数々の映画制作企業、プロジェクトに出資している。結果的にその映画の内容に口出しする事が可能となる。最近ではトップガン次作から台湾に関する表記が消えた事や、映画スター、ジョン・シーナが台湾を「国」と表現した事を謝罪させる圧力をかけた事が米国では波紋を及ぼしている。他にも、米バスケットボールNBAリーグへの資金援助を通じた政治的圧力なども問題視されている。

Tom Cruise's Tom Gun Patches Changed to Keep China Happy

この悪しきトレンドが続けば、ハリウッドメディアで中国に懐疑的、批判的な主張を含むコンテンツは制作不可能となるだろう。監督、脚本化がブラックリストされ、親中的な人のみが業界で生き残れる時代となるかもしれない。

日本がこの共産浸食に侵されていないと思ってはいけない。近年では、中国資本が製作委員会に入っているアニメの数の確実に増えている。テンセントは日本のプラチナゲームズ社に最近出資した。

Tencent Makes Strategic Investment Into Skydance Media To Reach Broader  Markets In China - VR News, Games, And Reviews
米王手映画制作スタジオスカイダンスの筆頭株主となったスカイダンス

そして、テンセントのもう一つの責務は中国における共産党支配の強化である。テンセントはスマートシティ開発ではリーダーとも言われているが、その技術が完全な全体主義監視社会実現の為に使われているのである。高度な監視社会が構築された結果、ウイグル族を始めとする少数民族の行動制限や、特定人物の行動をリアルタイムで監視する事によって共産党支配を助長している。テンセントは、中国一のプラットフォーマーとして、社会信用スコアの開発にも深く関与している。

このシステムは、市民の行動に対して賞罰を管理することになる。共産政府が是としない行為、(迷惑行為から、宗教活動、反政府的人物との交友など)医療や交通などの公共サービス利用禁止、学校からの排除、インターネット速度の低下、職場からの排除、ホテルからの排除、ウェブサイトやメディアでの個人情報公開などが行われる。逆に、共産党に忠誠を誓った、「模範的市民」には公共サービスの優先使用権や就職での優遇などの利益が与えられる。

Beijing Turns to Facial Recognition, Palm Scanners to Speed Up Subways |  Digital Trends
社会信用スコア制度の要である、顔認証システム

テンセントは、中国国民の通信手段である事を利用し、通信内容に問題があれば信用スコアを落とし、更に買春など、非奨励行為を行った場合、決済手段である事を利用し、信用スコアと落とし、位置情報を持っている事を利用し、反政府人物を会っただけで信用スコアを落とす事となる。

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全ての行動を監視し、贔屓で命の優先まで行うーこれは、ジョージ・オーウェル氏が警告した小説「1984年」の世界観そのものだ。自由、平等と基本的人権の大原則を踏みにじった、糾弾されるべき行為である。

テンセントと中国共産党は世界中での言論支配に乗り出している。権威主義と圧政に対抗する為にも、これに対する対応は急務である。

「中国型ネット」の輸出

恐ろしい事に、もう、この様な閉ざされたネットは中国だけの話ではない。中国はこの「中国式インターネット」を海外に売り込んでいる。実際、既にベラルーシ、キューバ、ロシアと始めとする諸国に輸出されている。実際に、中国政府主催の「世界インタネット会議(烏鎮サミット)」に習近平主席自身が参加し、中国式のインターネットの利点を世界中の代表者にトップセールスで売り込んでいる。

3rd World Internet Conference_CCTV.com English
世界インターネット会議

中露を始めとする権威主義陣営は、政府によるネット統制を「サイバー主権」と位置づけ、国家当然の権利と主張している。自らの市場は徹底的に保護しながら、中ロは平気で西側諸国にサイバー攻撃を仕掛け、独自SNSを売り込んでいる。

即ち、「自由で開かれたインターネット」がグローバルスタンダードでなくなる可能性も十分にあると言う事だ。そうなれば、西側の企業も権威主義体制の要請を聞き入れざる得ない状況となってしまい、完全にインターネット環境における西側の優位性と、自由性が失われる事となる。

自由主義陣営は抵抗しないと潰される。

我々の自由で開かれたインターネットを悪用している以上、これに対抗する事は必須である。自国市場で規制を作る国のサービスは日米英での市場展開を禁止するべきである。相互主義の徹底によって、「自由インターネット圏」を確立する事によって、EUや中米諸国など、未だに規制に色気を示している国をこちら側に引っ張る事ができる。

経済での揺さぶりをかけない限り、曖昧な立場を取られ続ければ、自由なインターネットは中国側の餌食となってしまう。自由と守る為に、西側諸国によるインターネットの扱いに関する基礎ルール策定は急務だ。

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