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【デジタル改革関連法成立】デジタル庁 新設へ 役割と意義を徹底解説

菅政権による目玉政策の一つであった「デジタル庁の設置」が、遂に達成された。

デジタル改革関連6法は12日午後、参院本会議で自民、公明両党や日本維新の会などの賛成多数で可決、成立した。デジタル庁が司令塔となって地方自治体を含む行政システムの統一を図り、官民のデジタル化を推進することで国民の利便性向上につなげる。

「デジタル庁」創設へ改革関連法が成立…行政システムの統一図る : 政治 : ニュース : 読売新聞オンライン

通常、公的サービスのデジタル化が各国と比較して格段に遅れていると評価される日本。デジタル庁の設置は極めて画期的なことであり、今後の展望は各界から注目されている。

一方で、政府は多くの国民に対して未だこの省庁の役割や意義を説明しきれていない部分がある。そもそも国民の政権に対するコロナ対策評価は極めて厳しく、内閣支持率にもダイレクトに影響しているのだ。

法律が成立し、デジタル庁設置に目処が立った以上、丁寧に意義を説明する責任は大きいだろう。特に政府による情報提供の上で、DX推進は急務。

本稿が、読者が「デジタル庁を設置する意義」を理解することの一助となれば幸いだ。

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「デジタル改革関連法」の目的と、構成する6つの法律

今回成立した「デジタル改革関連法案」は、6つの法律案によって構成されている。

  • デジタル社会形成基本法案
  • デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律案
  • デジタル庁設置法案
  • 公的給付の支給等の迅速かつ確実な実施のための預貯金口座の登録等に関する法律案
  • 預貯金者の意思に基づく個人番号の利用による預貯金口座の管理等に関する法律案
  • 地方公共団体情報システムの標準化に関する法律案

それぞれの意義については後述する。また20年以上前から「高度情報通信ネットワーク社会」の形成を目的としてきたIT基本法は廃止される。データの多様化・大容量化が進展したためこれらを活用することが不可欠であるとした上で、新型コロナウイルス対応においてデジタル化の遅れ等が顕在化したことを、廃止の理由として挙げている。

政府のデジタル戦略を全面的に見直し、デジタル社会の形成に関する司令塔としてデジタル庁を設置するというロジックだ。

さらに、少子高齢化や自然災害等の社会課題の解決、データの悪用・乱用などの被害防止なども課題とした。

改革の目的については、以下のような社会の実現を挙げている。

  • 国民の幸福な生活の実現:「人に優しいデジタル化」のため徹底した国民目線でユーザーの体験価値を創出
  • 「誰一人取り残さない」デジタル社会の実現:アクセシビリティの確保、格差の是正、国民への丁寧な説明
  • 国際競争力の強化、持続的・健全な経済発展:民間のDX推進、多様なサービス・事業・就業機会の創出、規制の見直し

そのうえで、「民間が主導的役割を担い、官はそのための環境整備を図る」「国と地方が連携し情報システムの共同化・集約等を推進する」という、民間と政府・中央と地方による4者の役割分担を明確化している。また国として「重点計画」を策定することも明記された。

以下、一つ一つの法律の役割などについて解説していく。

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デジタル社会形成基本法案

この法案こそが、一連の改革法案の核をなすものだ。

「デジタル社会の形成が、我が国の国際競争力の強化及び国民の利便性の向上に資するとともに、急速な少子高齢化の進展への対応その他の我が国が直面する課題を解決する上で極めて重要であることに鑑み、デジタル社会の形成に関する施策を迅速かつ重点的に推進し、もって我が国経済の持続的かつ健全な発展と国民の幸福な生活の実現に寄与するため、デジタル社会の形成に関し、基本理念及び施策の策定に係る基本方針、国、地方公共団体及び事業者の責務、デジタル庁の設置並びに重点計画の作成について定める」ことを趣旨としている。

先述のデジタル庁設置や重点計画の策定について定めているのもこの法案である。

施行期日を本年9月1日としていることから、政府がデジタル庁設置を掲げた昨年末の方針は達成されたことになる。

概要は次のとおりだ。

「デジタル社会」の定義と基本理念

この法律における「デジタル社会」を、「インターネットその他の高度情報通信ネットワークを通じて自由かつ安全に多様な情報又は知識を世界的規模で入手し、共有し、又は発信するとともに、先端的な技術をはじめとする情報通信技術を用いて電磁的記録として記録された多様かつ大量の情報を適正かつ効果的に活用することにより、あらゆる分野における創造的かつ活力ある発展が可能となる社会」と定義している。

「高度通信ネットワーク」の下りはIT基本法を踏襲するものだが、「情報の適正かつ効果的な活用」と「創造的かつ活力ある発展」は、新たに盛り込まれた考え方だろう。

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そのうえで、デジタル社会の形成に関し、ゆとりと豊かさを実感できる国民生活の実現、国民が安全で安心して暮らせる社会の実現、利用の機会等の格差の是正、個人及び法人の権利利益の保護等の基本理念を規定している。総じて、国民によるデータの利活用を、本法律の主目的としたと見るべきか。

官民の役割と基本方針

先述のように、あくまで一連のデジタル改革は「民間主導」であり、行政は環境整備を主な役割としている。

そのうえで、各者の役割と義務を規定している。行政の施策については、「多様な主体による情報の円滑な流通の確保(データの標準化等)、アクセシビリティの確保、人材の育成、生産性や国民生活の利便性の向上、国民による国及び地方公共団体が保有する情報の活用、公的基礎情報データベース(ベース・レジストリ)の整備、サイバーセキュリティの確保、個人情報の保護等」を挙げている。

広範な施策を挙げることで、事業者による活動をより自由度の高いものにしていくという方針を確認することができる。

IT基本法の廃止とデジタル庁の設置

IT基本法廃止は既に述べたとおりだ。

この法案の主目的とも言えるデジタル庁の設置については、重点計画の策定について述べる程度のものだ。詳細な内容については次に解説する「デジタル庁設置法」で規定されている。

デジタル庁設置法案

デジタル庁設置の趣旨について「デジタル社会の形成に関する施策を迅速かつ重点的に推進するため、デジタル社会の形成に関する内閣の事務を内閣官房と共に助けるとともに、デジタル社会の形成に関する行政事務の迅速かつ重点的な遂行を図ることを任務とするデジタル庁を設置することとし、その所掌事務及び組織に関する事項を定める。」としたいる。

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内閣に設置され、主任大臣は内閣総理大臣が任につくとした。その上で、事務を統括するデジタル大臣を置き、関係行政機関に対する勧告権などを規定している。その他に、副大臣と大臣政務官がひとりずつ置かれ、事務方のトップで特別職の「デジタル監」も置かれる。500人規模で発足ということだが、デジタル監も含め100人以上を民間から起用する方針ということである。

具体的な事務については内閣を補助する「デジタル社会の形成のための施策に関する基本的な方針に関する企画立案・総合調整」と、先述の重点計画の策定推進、マイナンバー制度の管理などが挙げられている。

  • デジタル社会の形成のための施策に関する基本的な方針に関する企画立案・総合調整
  • デジタル社会の形成に関する重点計画の作成及び推進
  • 個人を識別する番号に関する総合的・基本的な政策の企画立案等
  • マイナンバー・マイナンバーカード・法人番号の利用に関すること並びに情報提供ネットワークシステムの設置及び管理
  • 情報通信技術を利用した本人確認に関する総合的・基本的な政策の企画立案等
  • 商業登記電子証明(情報通信技術を利用した本人確認の観点から行うもの)、電子署名、公的個人認証(検証者に関すること)、電子委任状に関する事務
  • データの標準化、外部連携機能、公的基礎情報データベース(ベース・レジストリ)に係る総合的・基本的な政策の企画立案等
  • 国・地方公共団体・準公共部門の民間事業者の情報システムの整備・管理に関する基本的な方針の作成及び推進
  • 国が行う情報システムの整備・管理に関する事業の統括監理、予算の一括計上及び当該事業の全部または一部を自ら執行すること

デジタル庁と他機関の関係については以下の通りだ。

デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律案

この法案では、主に個人情報の取扱やマイナンバーについて定めている。

趣旨は「デジタル社会形成基本法に基づきデジタル社会の形成に関する施策を実施するため、個人情報の保護に関する法律、行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律等の関係法律について所要の整備を行う。」だ。

個人情報保護法、行政機関個人情報保護法、独立行政法人等個人情報保護法の3本の法律を1本の法律に統合するとともに、地方公共団体の個人情報保護制度についても統合後の法律において全国的な共通ルールを規定し、全体の所管を個人情報保護委員会に一元化することなどが定められており、現行の個人情報保護制度が行政の縦割り弊害を大きく受けているため、これを改善することが第一の目的とされている。

その他に、マイナンバー法の改正によって国家資格に関する事務等におけるマイナンバーの利用及び情報連携を可能とする他、従業員本人の同意があった場合における転職時等の使用者間での特定個人情報の提供を可能とすることも定められた。さらに、マイナンバーカードの利用可能範囲を大幅に拡大する他、昨年から俄に議論の対象となったいわゆる「はんこ問題」についても、電磁的方法を可能とすることなどもの定めた。

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総じて、デジタル社会形成基本法案やデジタル庁設置法案でカバーできない様々なデジタル改革を集約した形と見ることができる。

預貯金口座登録法案および管理法案

それぞれ正式名称は「公的給付の支給等の迅速かつ確実な実施のための預貯金口座の登録等に関する法律案」と「預貯金者の意思に基づく個人番号の利用による預貯金口座の管理等に関する法律案」だ。セットで解説する。

前者は新型コロナウイルス対策関連の給付金に関わる問題を受けてのもので、預貯金口座の情報をマイナンバーとともにマイナポータルに予め登録し、行政が情報の収集や支給の管理を行うことができるもの。

後者は預貯金者のうち希望者がマイナンバーによって預貯金口座を管理する申し出を可能とする制度と、災害時又は相続時に預貯金者又はその相続人の求めに応じて預金保険機構が口座に関する情報を提供する制度を定めたものだ。

従来から議論されてきた「マイナンバーと預貯金の紐付け」に一定の道筋を示した形だが、かつてIT基本法の成立に尽力した中川秀直元官房長官は「デンマークなど世界のデジタル先進国は国民番号制度を整備して生活に関わるほぼ全ての手続きがネット上で完結する。菅政権が金融機関口座とマイナンバーのひも付け義務化を見送ったのは残念で、世界からさらに周回遅れになってしまうだろう」として、早期の義務化を訴えている。

地方公共団体情報システムの標準化に関する法律案

この法案の趣旨は「国民が行政手続において情報通信技術の便益を享受できる環境を整備するとともに、情報通信技術の効果的な活用により持続可能な行政運営を確立することが国及び地方公共団体の喫緊の課題であることに鑑み、地方公共団体情報システムの標準化について、基本方針及び地方公共団体情報システムに必要とされる機能等についての基準の策定その他の地方公共団体情報システムの標準化を推進するために必要な事項を定める。」ことだ。

要は、地方自治体ごとに異なる行政の情報システムを、国が定めた基準に統一することで合理的な運用を目指すものである。

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具体的には、各地方公共団体における事務の処理の内容の共通性、住民の利便性の向上及び地方公共団体の行政運営の効率化の観点から標準化の対象となる事務を政令で特定し、政府は標準化の基本方針を作成。各地方の意見を十分に聴いた上で内閣総理大臣及び総務大臣は、データ連携、サイバーセキュリティ、クラウド利用等各情報システムに共通の事項の基準を策定し、地方公共団体はこれに基づく運用を行う。

実際の情報提供を行っていく上で、住民にとってわかりやすい形を取ることが目的だ。

「個人情報が筒抜け」という批判は的外れ

一連の法案成立を受けて「デジタル監視法案に反対する法律家ネットワーク」は記者会見し、「政府によるデータの恣意的乱用を許さない」などと成立に抗議する声明を発表。「必要性、相当性があれば、個人の同意なく利用・提供が可能だ」と個人情報保護が後退しかねないと懸念を示した。メンバーの三宅弘弁護士は、現在約150人の個人情報保護委員会について「800人程度の職員と地方事務所を有する組織に拡大強化することが必要だ」と指摘した。

出典:デジタル庁が9月に発足 改革関連6法が成立「個人情報保護を後退させる恐れ」:東京新聞 TOKYO Web

だがそもそも元々の所掌行政機関職員が見ることができるのは当然のことで、こうした部分の合理化を図ることが目的で設置されたデジタル庁職員は見ることができない。

デジタル改革を行っていく上で情報管理はより高度になり、「筒抜け」なる批判は完全に的外れだ。

その一方で国民に対する丁寧な説明というのは未だに完全には行われていない。

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一連の改革を行うことはもちろんだが、多くの国民の理解によって初めて結実するのもでもある。引き続き、政府の説明を注視していきたい。

参考文献

デジタル庁、9月1日発足 行政オンライン化推進

siryou1.pdf

「デジタル庁」創設へ改革関連法が成立…行政システムの統一図る : 政治 : ニュース : 読売新聞オンライン

【ビジネス解読】「これで日本は周回遅れ」 IT基本法仕掛人が苦言を漏らす菅内閣のデジタル改革 – 産経ニュース

デジタル庁、9月1日発足 行政オンライン化推進 | 共同通信

デジタル庁が9月に発足 改革関連6法が成立「個人情報保護を後退させる恐れ」:東京新聞 TOKYO Web

デジタル庁9月1日発足 改革関連6法成立へ、個人情報保護が課題 – 産経ニュース

「個人情報吸い取られる」デジタル改革法案に懸念の声 政府は反論、4月成立目指す:東京新聞 TOKYO Web

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