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「新しい生活様式」の軽さ ―合理性はどこへ

4月7日に発令された「緊急事態宣言」の内容では今日解除される予定だったのだが、今月4日に、今月末まで延長されることが決定した。政府はここ数日でようやく重い腰を上げ、宣言解除の指針や特定警戒都道府県の枠組み更新の可能性や時期を提示した。

https://www.asahi.com/articles/ASN57524TN57ULFA008.html

 はっきり言って遅すぎる対応だが、東京都内の1日当たりの感染者数が5日連続で100人を下回るなど、その効果が出ている面も多いことは事実だ。

 そんななか、宣言の延長が決定した4日に厚労省が提示した「新しい生活様式」が波紋を広げている。いわゆる「新型コロナウイルス感染症専門家会議」で出された提言を、厚労省が再度まとめなおしたものと思われる。

専門家会議資料

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000627559.pdf

これについては厚労省がHPで公開しているほか、NHKの新型コロナウイルス特設サイトにおいても丁寧にまとめられているので参照されたい。

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https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_newlifestyle.html

https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/view/detail/detail_08.html

今回は、分野ごとに提示された「新しい生活様式」について、思い当たる問題点をさらいつつまとめていく。

「一人ひとりの基本的感染対策」

 この項目では、「感染防止の3つの基本」として3点があげられている。

  1. 身体的距離の確保
  2. マスクの着用
  3. 手洗い

これらのうち、2.と3.に関しては、列挙されている具体例も含めて理解できる。この2つは感染症が流行していなくても多くの人が普段の生活で行っていたからだ。つまり「新しい」とは言えない。

 断然「新しい」のは1.だ。この「身体的距離の確保」で提示された例に、以下のようなものがあった。

  • 人との間隔はできるだけ2m(最低1m)空ける
  • 遊びに行くなら屋内より屋外を選ぶ
  • 会話をする際は可能な限り真正面を避ける

人との間隔は、既にスーパーや薬局などのレジ列で導入されているほか、「ソーシャルディスタンス」として国民になじみのあるものになっているが、これを「新しい生活様式」と定義し公表することには違和感がある。

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また、「遊びに行くなら…」という文は明らかに遠い将来も見据えたものだ。「会話をする際は可能な限り真正面を避ける」についてはもはや不可能なのではないだろうか。人と人との会話の仕方について、相手の目を見て話す人が多いにもかかわらず、有効な手段を提示しないことで人間同士の分断を生みかねないものであるとしか言いようがない。

「移動に関する感染対策」

  • 感染が流行している地域からの移動、感染が流行している地域への移動は控える
  • 帰省や旅行はひかえめに 出張はやむを得ない場合に
  • 発症したときのため誰とどこで会ったかをメモにする
  • 地域の感染状況に注意する

これについても疑問は多い。1点目と4点目は理解できるが、2点目の「出張はやむを得ない場合に」という文には疑問が残る。「しなくてもいい出張」などそう多いものだろうか。

3点目についても不可能に近いだろう。人が外に出れば、無数の人と会い言葉を交わす。それらについて、場所と人物をすべて把握しメモするなどというのは現実的とは思えない。

「生活場面ごとの例」「働き方のスタイル」

食事について、「屋外空間で気持ちよく」「対面ではなく横並びに座ろう」「料理に集中 おしゃべりは控えめに」との記述があったが、これも意味不明である。そもそもどういう場合の「食事」を想定した文面なのかも読み取れない。

また働き方のスタイルとして「テレワークやローテーション勤務 時差通勤でゆったりと オフィスは広々と 会議はオンライン」という記述もあったが、これらに至っては個々の裁量でどうにかできるものではない。オフィスを広々、と言われても、ひろびろ使えるオフィスなのかどうか、そもそもオフィスワークなのか、というところまで考えられていない。現在私たちの生活や安全を支えてくださっている職業のうち多くが、これに該当しないのだろう。

やっつけ仕事で国民は動かない。実態の伴った発信を

この提言はどれも日本語として不完全なものばかりで、わかりづらいうえに実行不可能なものも多い。そもそも時期や区域をしていせずにやみくもに出されたものであり、国民の混乱は必至だ。多くの人が望んでいる支援や情報とは程遠いものである。

今の政府のするべきことは、飲食を中心とした中小事業者への支援、休校措置により混乱している学生や保護者への支援など、実態を伴うべきことばかりのはずである。何一つ「あたらし」くない「生活様式」を得意げに公表されても、国民の意識には全く影響しない。

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政府には広い視野と中身を合わせ持つ、具体性のある発信・政策を望む。