《あなたの知らない中国》月面戦争と神話 —ゲストライター記事

※この記事は、ゲストライターの寄稿記事です。寄稿の応募はコチラから可能です。

SFではない、現実世界の「米中月面戦争」

 中国による月面開発は勢いの止まるところを知らない。

 胡錦濤政権下の2007年に「嫦娥1号」「2号」は月周回軌道を進み、月面の観測を行なった。続く2013年には旧ソ連、米国についで3番目となる月面軟着陸を成功させた。この時月面に降り立った月面ローバー「玉兎」は昼夜の寒暖差に耐えられず故障した。

 その後の2019年にはこの失敗を取り戻すべく再度月面軟着陸を行う。この時は故障もなく、旧ソ連の月面ローバー「ルノホート1号」の活動記録を塗り替え、世界最長の活動記録を誇示した。この月面着陸では、従来不可能と言われていた月面裏の調査を可能にするため、「鵲橋」と呼ばれるデータ中継衛星を投入し、月の裏と地球を通信で結んだ。

月の裏側を回る軌道に乗った通信衛星「鵲橋」の想像図
※編集部注 月の裏側を回る軌道に乗った「鵲橋」の想像図 (C) CASC

CASC…中国航天科技集団有限公司。中国による航空宇宙事業の主要受託メーカー。

 「嫦娥」「玉兎」「鵲橋」はいずれも中国神話の月や宇宙に関連する用語である。嫦娥は不老不死の薬を飲んで次に登った仙女であり、玉兎は月にいるとされる兎、鵲橋は七夕伝説で織姫と彦星を繋いだ鳥の橋である。このなんとも優美な命名センスは平和的な宇宙開発で使われるにはいいが、近年は中国による月面支配の象徴にもなりつつある。

 中国は国際天文学連合(IAU)に対し、「天河基地」「広寒宮」「紫微」「天市」をはじめに、月面の27箇所に中国名の地点を設けるよう申請した。宇宙条約は月を含む天体に対して領有権の主張を禁止しているが、この行為は特に米国の神経を逆撫でしたと言っても過言ではない。

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関連記事:経済で読み解く:米中対立の行く末は?

 事実米国では2019年、トランプ政権が2028年に予定されていた有人月面着陸を4年繰り上げ「アルテミスプロジェクト」をスタートさせた。これによると2024年には男女2人づつの宇宙飛行士を月面に送るという。

 このアルテミス、これはギリシア神話の「アポロン」の双子の妹である。かつて月面への初着陸を成功したアポロに重ねて命名しているのだろう。これにより西欧の神話と中華の神話の神々は、21世紀の月面を巡り競争することとなった。

 ではそもそも中国における宇宙開発の歴史はどういうものだったのだろうか。

中国の宇宙開発の歴史と展望

 宇宙開発の歴史は建国直後の1949年に遡る。「両弾一星」と名付けられた核兵器保有・大陸間弾道ミサイル保有・人工衛星保有を達成するプロジェクトの途上、1966年には初の弾道ミサイル実験に成功した。この成功がロケット開発に受け継がれることになる。

 1970年の文化大革命の只中、「長征1号」ロケットで初の人工衛星「東方紅1号」が打ち上げられ、宇宙から毛沢東を賛美する当時の事実上の国歌「東方紅」が演奏された。

 1978年に改革開放が始まると、宇宙開発が一気に進んだ。建国50周年の1999年には宇宙船「神舟1号」が打ち上がり有人宇宙飛行の道を開くことになる。因みにこの神舟は、中国の美称「神州」と同音であることから、この頃には既に宇宙開発への野望を覗かせていた。

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 では今後、中国の宇宙開発はどのように進展していくのだろう。勿論ここまで国策で進める中国にははっきりとした目的がある、それは宇宙の軍事拠点化だ。

 中国は米国のGPS測位システムに頼らない自国産システム「北斗」を開発し展開している。既にこれはGPSを運用する31基を超える35基以上が運用されている。またこのシステムは一帯一路加盟国にドンドン導入させ、世界展開を始めている。これらの測位システムや観測衛星、通信衛星を「宇宙インフラ」として、これらの防衛を最重要任務に位置付けていると言える。

 更に力を入れているのが量子暗号通信の世界だ。中国は既に世界初となる量子通信衛星「墨子」を打ち上げ実用化を急いでいる。量子暗号通信はその莫大な通信量を効率よく行えることはもちろん、絶対に傍受できない究極の暗号通信として期待されている。

米中の宇宙開発競争は次世代の戦争にも発展しかねない危険なレースだ。そのレースの果てに、月の土を踏み名実共に月の盟主になるのは「嫦娥」か「アルテミス」か。

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ライター:白石顕治 Twitter:@shiroishi_offi 自己紹介:中国やアジアへの趣味が高じて北京の大学に進学した中華オタク。

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