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優先順位付投票制とその他の選挙制度の考察(1)

望ましい選挙制度をめぐる果てしない議論は、しばしば党利党略や学問的純度に悩まされるものである。特定の政党が本質的に不公平な(あるいは不正な)制度を主張する一方で、政治理論家はしばしば実現不可能な理想的制度を主張するが、もちろんそれらの制度が採用される可能性はほぼゼロである。

このように、党利党略に基づく筋悪論と学者による空想的な理論に板挟みとなり、世界中の選挙制度改革が停滞している実態がある。今日から数本の記事を通じて、優先順位付投票制(即時決選投票)を紹介し、その実用性と他の選挙制度との比較優位を説明したいと思う。その中で、アローの不可能性定理、コンドルセの勝者、メイの定理など、選挙に関する重要な政治理論を考慮しつつ、他の制度の現代的事例とその意味するところを検討する。

優先順位付投票制(即時決選投票)とは?

代替案投票制度は、イギリスやオーストラリアで優先投票(preferential voting)とも呼ばれ、有権者が利用可能な選択肢/候補者の中から自分の好みを順位付けする「選挙方式の一形態である(そのためオーストラリアでは「優先投票」と呼ばれている)。勝者がすべてを取る(総取り制度)方式の選挙制度の一種であるが、 選挙での勝者は、最低得票候補を排除し、その有権者の2位希望を他の候補者に分配し、1人の候補者が50%+1票、(過半数)を獲得するまで、一連の消去法が続けられ決定する制度だ。

即座に票が再分配されるという特徴から、決選投票を別に行う方式と対比して、「即席決選投票方式(instant runoff voting)」とも呼ばれる。この制度は、議会制民主主義国家、特に英連邦諸国において、地方議員(多くは下院議員)を選出する方法としてよく用いられている。 国政レベルでは4か国で現在採用されている。

メイの定理

メイの社会的選択の定理は、2つの選択肢が国民に提示された場合、50%+1%の多数決で争点を決定する多数決方式のみが一定の公平性の規範的基準を満たすとするものである。

その基準とは、決着性、匿名性、中立性、単調性、正応答性、である。これは、すべての有権者と選択肢(候補者)が平等に扱われ、より多くの票を獲得することが勝利につながるという選挙制度の論理に関わるものである。したがって、この定理は多数決の正当性を主張し、多数決の選択肢を選挙で勝たせることに規範的な価値を置いている。

代替案投票制度は、2つの選択肢しか残らないまで候補者を順次排除することで、この定理が適用できる状況を事実上強制しており、メイの定理に準ずる。

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アローの不可能性定理

更に、代替案投票制度はアローの不可能性定理で設定された4つの条件のうち3つを満たしている。アローの不可能性定理とは、普遍性、パレート最適性(全会一致性)、無関係な選択肢に対する独立性、非独裁性という4つの条件を達成できる選挙制度はない、とするものである。

言論や結社の自由などの基本的権利や自由、立候補の障壁がない完全民主主義国家で代替案投票制度による選挙が行われると仮定すれば、代替案投票制度は普遍性、パレート最適性、非独裁性の条件を満たしていることになる。

上記の3つの条件はメイの定理にも当てはまるが、アローは普遍性ルールの下で2つの選択肢の存在だけを仮定しているわけではない。

アローの定理の中で代替案投票制度が満たすことのできない基準は、無関係な選択肢に対する独立性(IIA)である。この基準は、選挙結果がコンドルセ勝者の選択でなければならないことを要求するもので、投票団が2つの選択肢の中から投票したときに、他のすべての選択肢を打ち負かす選択肢である。 コンドルセ勝者とは、選挙民にとって「最もマシ」、あるいは「最も同意できる」選択肢と表現することができる。

本当に無関係な選択肢に依存しない選挙制度は、スポイラー効果や戦術的投票の影響を受けず、一貫して同一の選挙結果を提供することになる。 代替案投票制度を含め、この基準を完全に満たす選挙方式は、現在、世界には存在しない。

公平性の議論は意味が無い??

現在使われているどの選挙制度もIIAを満たさないことから、一部の政治学者などは、ある選挙制度が「より公平」であるというメリットに基づいて支持を主張することは本質的に無意味である、と主張している。 しかし、これは根本的にナンセンスではないか?確かにIIAを満たす制度は存在しないが、IIAを最も忠実に再現できるのはどの制度かという議論は可能である筈だ。

どのシステムがIIAを最も忠実に再現できるかは、コンドルセ敗者を選出しないことと、コンドルセ勝者を選出する可能性という2つの基準で判断することが可能である。前者は単純な論理で判断できるが、後者はある現象の論理的な可能性だけでなく、実世界における可能性を考えなければならない。

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来週の記事では本格的に選挙制度の比較に入りたいと思う。

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