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【編集部記事】乙武洋匡氏と考える「ダイバーシティー」~意見交換で見えたもの~(前編)

参院選に出馬される予定の乙武洋匡さんと、渋谷区議会議員の橋本ゆきさんとの、ダイバーシティーに関する意見交換会の様子を取材してきました。今回はその前編です。

▲ダイバーシティーについての意見交換会の様子

自己紹介

橋本区議:乙武さん、簡単に自己紹介をお願いします。

乙武さん:こんにちは。乙武洋匡です。私は大学在学中に『五体不満足』という本を出してから、ずっとメディアで活動してきました。

6年前にメディアでずっと発信しているだけで、自分の思う社会というのはなかなか実現できないんじゃないかと思いを抱き、6年前の参院選にチャレンジしようと思ったのですが、みなさんがよくご存じの不祥事がございまして、断念をせざるを得ないという状況になりました。

そこから1年海外で旅をしてみたり、帰ってきたら再びメディアで仕事をするようになったり、ここ4年間は義足プロジェクトというものに取り組んで、自分が思ってもみなかった形でもう一度ダイバーシティにというものに取り組んでみたりというように活動してきました。

本当に自分の人生をかけてダイバーシティというものの実現をやっていこうと思って活動してきた人間ですので、今日は皆さんと対話するのを楽しみにしていました。改めてよろしくお願いします。

橋本区議:そして私は渋谷区議会議員の橋本ゆきです。

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私はもともとアイドルだったんですけれども、アイドルから転身して区議会の最年少の議員として活動しています。その中でやっぱり私が実現したいのはダイバーシティ社会、心のバリアフリーということで、今回は乙武さんと一緒にダイバーシティの実現について考えていこうということで、今回の会を企画させていただきました。

今日は問いという形でフラットなコミュニケーションをとって、「どうやっていこう」という、身近な政治参画というか、身近な社会づくりをここでやってみたいと思っています。

それでは、さっそくクエスチョンストーミングに入っていきたいと思います。

心のバリアフリーを実現するためには

橋本区議:ダイバーシティという文脈でいうと沢山あると思うんですけど、私たちの生活のどこを切り取っても、人生のどこを切り取っても、ダイバーシティというテーマで考えられることってたくさんあると思っています。

ダイバーシティ×生活、ダイバーシティ×教育、ダイバーシティ×働く、ダイバーシティ×文化など、いろんなところでダイバーシティについて考え出される所や時があると思うんですけど、まず私が最初に乙武さんにクエスチョンを付けるとしたら、心のバリアフリーを実現するための教育ってなんだろうっていう問いがまず私から乙武さんにしてみたいと思います。

乙武さん:もちろん一番本来大事なことは創造力の翼を広げるということだと思うんです。

やっぱり「こういう人が漏れていないか」、「こういう人はこれで大丈夫かな」ということをだれもが考えられるようになったら、ダイバーシティってどんどん実現に近づいていくと思います。

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でも、人間の想像力ってやっぱりたかが知れていて、理想ではあるんだけれども、そんなには僕は期待できないとも思っているんです。じゃあ次に大事なことは何かというと、やっぱり経験だと思うんです。例えば、僕はロンドンに3か月住んでいたんですけど、不思議だったのは、ロンドンの方が東京より大都市だから、バリアフリーが進んでいるんだろうなと思っていたんです。でも行ってみたら全然そんなことなくて、東京の方が優れていたんですよ。

1800年代のビクトリア時代の建物がゴロゴロしててバリアフリーなんてなっていないし、ロンドンの地下鉄って世界最古なので、私が滞在していた2017年当時で、エレベーターが設置されている駅の割合は6割くらいだったんです。逆に言えば4割の駅はエレベーターがないんですよ。なのに、街中には車いすの人がいっぱいいて、3ブロック行くぐらいで一人すれ違うくらいのペースで出会うんです。

東京ってどうですかね。今日は車いすの方が3人来てくれていますけど、普段みなさんが朝から晩まで街中を歩いていて、車いすの人に会うのは一人すれ違うくらいのペースだと思うんです。

この違いは何だと。だって東京の方が便利なんですよ。でも東京ではめったに出会わない。ロンドンの方が不便なんですよ。なのに、ロンドンの方がゴロゴロ出会う。何故だと考えていたんですよ。3か月住んでみて分かったのは、もし皆さんが町の中である日車いす生活になりました。でも、自分が使っている家の最寄りの駅にはエレベーターがありませんとなった時、みなさんはどうしますか。

明日からエレベーターがないとわかっていても最寄りの駅を使うのか、15分離れた隣の駅にはエレベーターがあるといった場合にどっちを使いますか。ちょっと聞いてみましょうか。じゃあ、「自分は車いす生活になってもエレベーターのない地元の駅を使います」という人はどれくらいいますか。1人。じゃあ、「いやいや、車いすでエレベーターないと困っちゃうから、15分離れた駅を使います」という人は・・・ほぼ全員ですね。これがロンドン、西ヨーロッパだと逆の割合になるんです。

困るじゃないと思うし、実際に困るんですよ。駅に着いてエレベーターがないから、階段の上で困っていると、数分もしないうちに何人もの人が来てくれて、「せーの」で抱えてくれるんです。車いすの人もそれが分かっているから、「行けば誰か手伝ってくれるだろう」と思って地元の駅を使うんです。めちゃくちゃ面白いですよね。

この差はなんだろうかと考えると、これが教育だと思うんです。

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橋本区議:勝手に自分でなんとかしなきゃと思っていました。

乙武さん:なんで、日本だとそうなるかというと、日本で同じことが起こると何が起こると思いますか?炎上するんですよ。

「なぜお前は自分でできないとわかっていて、人に手伝ってもらう前提でその駅を使うんだ」とか、「自分で降りられないことが分かっているなら、自分で介助者を用意しろ」とかヤフコメにバーっとかかれるんですよ。それが日本なんです。

なぜそんな差が起こるかと言うと、そこはやっぱり教育なんだろうなと思っていて、教育っていってもこういうことをしなさいとか、車いすの人には優しくねという教育ではなくて、インクルーシブ教育と言われるまぜこぜにする教育を欧米ではいち早く取り入れている。

日本では逆に、先進国の中では長らく分離教育といって、障がいのある人とない人を分けて教育しているということがあるので、慣れていないんですよ。ちなみに、今日この中でクラスメイトの中に障がいがある人がいたという人はどのくらいいますか?・・・6人。5分の1くらいですかね。という割合なんです。

だから、今手を挙げた人はおそらく、街中や職場で障がいのある人と同じになっても、「ああ、あの時いたからこういう手伝いをすればいいのか」と、「そんな肩肘張って付き合わなくてもいいのかな」と割と思いやすいと思うんです。

でも、いま手を挙げなかった方は、経験がなかった方は、いい悪いではなく、経験がなかったから、いざ街中ですれ違った時とか、いざ職場で同じグループになった時に、「どう接して差し上げたらいいんだろう」って一瞬やっぱり構えちゃう。

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これは、その人の性格がいい悪いとかではなく、経験がない、慣れていない、ということだと思うので、とにかく「学校の頃から、教育のうちにまぜこぜにしていこうぜ」ということをやっていくことがダイバーシティに繋がっていくのかなと思っています。

橋本区議:自分も、私もともとアイドルグループ出身なんですけど、事故で突然車いすになりましたという人がいて、「今まで通り接していいのかな」とか、「触っていいのかな」みたいな感じにどうしてもなりました。

でも、やっぱり一緒にやっていくうちに「意外と車いすって急に押してもいいんだな」とか、「意外と走っていいんだ」とか、一緒にいるうちに「意外と普通じゃん」と思ったりしたので、なるほどなと思いました。

これが質問の例です。

今日は、ふせんとペンを皆さんの机の上に用意をさせていただきました。今日は生活、教育、働く、文化の4テーマで用意はしたんですけど、なんでもいいんです。自分の問い、ダイバーシティという文脈で、気になっていることとか、自分でスッキリしたいと思っている問とかを皆さんと一緒に考えたいという問いをぜひ付箋に書いていただいて、あそこのホワイトボードに貼ってください。

▲参加者のみなさんから出た問い

マイノリティーの就労課題

橋本区議:ではまず、マイノリティーの就労は何が課題かという質問がありました。確かに、働き方とか、働きに行くというのはどうしてもマイノリティーの方って普通に働けなかったりするという問題がどうしてもある中で、でもやっぱり自分が挑戦したいことは挑戦できた方が良いと思います。でも、何が挑戦できなくするんでしょう。

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乙武さん:マイノリティーの就労について、僕は3つあるかなと思っています。

一つは、通勤です。やっぱりその障害がある人、特に車いすに乗っていたりとか、視覚障害があったりっていうと、移動に難を抱えているんですよね。なので、今の日本の通勤ラッシュ、あの満員電車に車いすが乗れるか、視覚障害が盲導犬を連れて、あるいは白杖をついて乗れるかというと、ちょっと難しいんです。なので、まずそこを解決していく必要があります。

次に、働く時間です。だいたい基本的には、1日8時間、週5日労働というのがベースになっていて、でもそんな時間上はないから残業をしてとなっているけど、それも変えていく必要があります。例えば、病気でそこまで体力がないとか、精神障がいがあって、あまり長い時間人と接すると疲れてしまうっていう方は、例えば1日5時間、週4日なら働けるよ、みたいな方もいらっしゃるんですよ。その辺の労働時間を少し柔軟にしていくということが考えられます。

一番は、日本の企業の働かせ方人材育成の仕方って、ジョブローテーションがだいたいジェネラリストを育てる仕組みになっているんですよ。ここの部署を3年経験したら、次の部署にいって、3年経験して、また異動してという、いろんな部署をたどって、ちょっとずつ職歴が挙がっていくんです。

そのシステムだと、万遍なくいろいろなことができないと出世できないし、そもそも採用されない。だから、ジェネラリストばっかりじゃなくて、一部にはスペシャリストも置こうよということになると、障がいがあるとか、例えば外国にルーツがあるとか、いろいろ苦手なこともあるけど、めちゃ得意なこともある人が働きやすくなるんですよね。

そうなってくると、いままで労働市場からはじかれていた人が、「あ、この人はスペシャリスト枠なら、いろんな異動とかじゃなくずっと在宅でいいからリモートでひたすらこれやってね」ということだったり、「あなたは、体力がそこまでないなら、1日5時間でいいからこれやってね」だったりとか、そういう仕事の切り出し方をしていくと、働ける人はいっぱいいると思います。

逆に言うと、「働き方はこうです」、「時間はこうです」、「出社してくる時間はこの時間帯でお願いします」、「内容はこれです」と、全員に同じことを求めてしまうと、どんどんそこで働けない人が出てきて、今の日本社会はもったいないなと思っています。

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橋本区議:渋谷区で長短時間雇用っていう施策があって、短い時間だけ区役所で働くっていう人がいたりするんですね。それが広がっていけばいいのかなと思っているんですけど、それがなぜできていないんでしょう。

乙武さん:やっぱり新しいことに取り組むが怖いんですよね。いま橋本さんがおっしゃったように、ダイバーシティというと、今日僕がゲスト出来ちゃっているのもあって、障がい者と真っ先に考えちゃうんだけど、もっと手前の所で考えてもらってよくって、2時間とか、4時間とか短時間労働がもっと普及すると、例えば子育て世代の人とか、家で介護が必要な高齢者の方と暮らしている人とかが働きやすくなるんですよ。

例えば、いま子育て中だと育休をとらなければいけないといって1年お休みしている人も、別に家で短時間で働いていいよということなら、何も1年育休を取らなくても、時間を短くして働きやすくなります。

1年休むって職場に戻るのも結構大変なんですよ。それが、休まなくても、違う形で細々と働くと復帰もしやすくなるとか、そういう意味でもどんどんダイバーシティが生まれてくるので、何も障がい者とか外国人とかいうことでもなく、身近なところにも目を向けていくと、色んなやり方があると思うんですよね。

生理休暇は不公平?

スタッフ:女性の「働く」でいうと、生理という女性特有の問題などは、どういった対応をしていくのがいいんだろうという質問がありました。

乙武:これちょっと皆さんに聴いてみたいんですけど、最近先進的な企業では生理休暇みたいなものを設け始めている会社があるんですよ。

これ、男性も含めてご意見を聞いてみたいんですけど、「生理休暇なんて設けたら男は損するじゃん」、「女は得じゃん」、「どうして女だけ生理があって休日が増えるのって逆に不公平なんじゃないか」と思う人は手を挙げてみてください。どのくらいいます?結構いらっしゃいますね。ありがとうございます。

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「いや、ありじゃない」と、「今後必要な制度になってくるんじゃないか」と思う方はどのくらいいらっしゃいますか。こっちの方が・・・少ない。ありがとうございます。

これはみなさんの考え方や価値観なので、どっちが正解と言うことはないと思うんです。僕が思うのは、よく車いすの人にこういう措置をやっていきましょうということを誰かが提案すると、「それは優遇じゃないか」、「なんで車いすだけ、なんで障がい者だけ優遇するんだ」というようなことをよく言われるんです。

たぶん生理休暇の話も同じだと思うんです。なんで女性だけ優遇されるのっていう話だと思うんですよ。でも、僕の考え方は、優遇と是正措置は分けて考えたいなと思っているんです。どういうことかというと、全員が同じラインにいる中で、ある特定の人にだけ何か下駄をはかせて有利にすることは優遇です。

そういう意味で言うと、車いすの人って、通勤ができませんよね。「男性には生理がないのに女性にはあって、布団から出られないくらいの痛みが女性にはあるよね」という時点で、スタートラインとして少しハンデがある。それを埋めていくのは優遇じゃなくて、これは是正措置だと思うんですよ。

こういうふうに分けて考えると、「これは必要だね」とか、「これはずるいんじゃない」ということがより明確に分かれてくるのかなと思います。それで言うと、生理休暇はどちらかというと優遇というよりは、是正措置に近いので僕は今のところアリかなと思っています。

誰もが一歩踏み出せる社会にするには

スタッフ:いろんなテーマ観の所があるんですけど、この回ならではというところで言うと、誰もがもう一歩踏み出すためにはどうしたらいいんだろう。そのためには社会がどうあるべきだろうという質問がありました。これについてはどう考えますか。

乙武さん:僕はメンタル的なことと、政治的なことと2つあるなって思っているんです。

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メンタル的なことは、まあ僕も今回参院選にチャレンジするという発表をしたり、いろんなチャレンジをしたりしてきたんですけど、その時にものすごく支えになっているのは、友達の存在なんですよ。

チャレンジするということは、失敗もするじゃないですか。チャレンジの分母が増えれば失敗の分子も増えてくるので、必ず付きものなんです。でも、失敗がみんな怖いからなかなかチャレンジをしなかったり、一歩を踏み出せなかったりすると思うんですね。

でも、失敗しても自分には友達がいて、「またやらかしたな、仕方ない、次いこう」と飲みに連れて行ってくれる友達がいるから、次も頑張ってみようと僕は思えているんです。別にそれが友達である必要はなくて、それぞれ何か持てている人はすごいと思うんです。

例えば「自分は映画がものすごく好きで、このチャレンジに失敗してぼろぼろになったら、ずーっとしばらく家で映画三昧の日々を送って、ずっと寝たままでネットフリックスを見て癒されよう」とか、「自分は旅が好きだからコロナが落ち着いてきて旅に出られるようになったので、自分も一度チャレンジして、どうしても失敗してぼろぼろになったら一回旅に出ていやされよう」とか、ぼろぼろになった時や、チャレンジに失敗した時に、救われると思えるものを持てている人は強いなと思うんです。

それがなんだっていいと思うので、なんかそういうものを持てると良いなというのが1点。

そして、政治的にはセーフティーネットを張ること。これに尽きると思うんです。

意外に思われるかもしれないですけど、世界で一番企業がしやすい国と言われている国の一つがイスラエルなんですね。なぜかと言うと、イスラエルって360度アラブ諸国に囲まれていて、いわゆる政治的に敵だらけなんですよ。

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だから彼らは圧倒的な軍事力を持つことでその国を成り立たせているんです。だから、医療、AI、サイバーセキュリティ―などの軍事に直結する分野にはスタートアップにガンガン金を入れてやりやすいようにして、万が一失敗しても1年とかは食っていける支援をしているんです

だから、優秀な人たちはまず起業するんです。そして失敗する。失敗してもある程度国に支援してもらえる。そして、もう一度違う方法でチャレンジする。1回2回チャレンジしてダメだったら、俺向いてないなと思って企業に就職するという流れなんです。

そうしてどんどんスタートアップが伸びているんですよ。だから、政治的にやれることはセーフティーネットをしっかり貼ってあげることが、チャレンジを後押しすることに繋がるんじゃないかなと思っています。


前編はここまで。後編はコチラ