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中央区議会で前代未聞の懲罰 ―「いじめそのもの」

私たち国民の多くが当然と考える「表現の自由」に対する挑戦が、とある地方議会で公然と行われてしまった。

2020年12月3日、東京都中央区の中央区議会において、会派「あたらしい中央」副幹事長で、地域政党「あたらしい党(代表:音喜多駿参議院議員)」の幹事長を務める高橋元気 中央区議会議員に対して「懲罰動議」が提出され、同日17:30頃に可決された。

懲罰動議とは、普通地方公共団体の議会が、地方自治法並びに会議規則及び委員会条例に違反した議員に対する懲罰を行う議決のための動議である。地方自治法に定められており、この動議の提出には議員定数の八分の一以上の発議が必要となる。

懲罰の内容は「戒告」で、議長から注意が行われるとのことだが、戒告は「懲罰」の内容のうち、「議場における陳謝」「一定期間の出席停止」「除名」のなかで最も軽いもの。果たして懲罰をする必要があったのかどうかも含めて疑問が残る形だ。

以下、このような結果となった経緯をまとめる。

発端となったツイート

事の始まりは、高橋議員の以下のツイートである。

中央区議会では現在開催されている第四定例会において、区長提出議案の第87号議案として「中央区教育委員会委員の任命同意について」が提出された。

これに関する採決が11月27日に行われたとみられるが、12月3日現在中央区議会のホームページには詳細が掲載されていないため、各議員の態度決定は確認できない。しかし今回提出された動議によれば、高橋議員は当該議案に賛成したという。

高橋議員は議案には賛成したものの、その決定のプロセスに対して疑問を呈した、ということになる。

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懲罰動議の提出へ

読者の皆さんは、この一件のどのあたりが「懲罰」に値するのかわかりづらい方が多いと思う。懲罰動議では、「本会議で賛成しながら翌日に人事に批判的な内容を投稿して評決権を軽んじたこと、年齢だけを理由に委員が資質を欠くかのように批判したこと」が理由として挙げられたという。

先のツイートをもう一度見ていただきたい。確かに高橋議員は人事そのものに対しても疑義を呈しているが、問題としているのは「議論が無い、文教委員会での付託が無い」ということであり、手続きの不備が指摘されているのである。

さらに、年齢に関しても「70代のほかに若く知見のある候補者がいなかったのか」という前向きな意見であり、「70代であること」を「委員の資質」と結びつけてもいない。動議の内容は極めて一方的な決めつけだと考えていいだろう。

提出者は4名で、自民党会派の磯野忠議員、公明党会派の墨谷浩一議員、立憲民主党会派の渡辺恵子議員、会派「区民の風」の渡辺博年議員だ。賛成会派の代表者と思われる。

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一方動議に反対したのは、高橋議員が所属する会派「あたらしい中央」と共産党会派。1人会派の2名は不明だ。

著名人らの反応多数。委員会傍聴は抽選も…

動議の提出は前日、高橋議員本人のツイートによって明かされ、多くの反響を呼んだ。

所属する「あたらしい党」代表で日本維新の会参議院議員の音喜多駿氏や、高橋議員からTwitterのダイレクトメッセージを受けて傍聴を呼びかけたというNHKから国民を守る党(ゴルフ党)党首の立花孝志氏、さらに「議員系Vtuber」として注目を集める大田区議会議員・おぎの稔氏なども傍聴を呼びかけた。

これにより、12月2日から12月3日に日付が変わる頃、「#中央区だったら懲罰されていた」のタグが日本のトレンド入りする事態となった。

結果、開会時点で27名の傍聴人が訪れ、賛成多数によって開かれた懲罰特別委員会の傍聴は抽選が行われるほどだったという。わずか半日ほどでの動きにもかかわらず、この反響は賛成した議員たちも度肝を抜かれただろう。

事実、本会議の傍聴をした立花氏によれば、懲罰賛成派の議員が傍聴人の数に「やばかったのではないか」などと大きな声で廊下で話していたのを聞いたという。真偽のほどは定かではないが、事実であれば有権者・国民が見ていなければ何をしてもいいといわんばかりの態度で、これこそ懲罰に値するのではないだろうか。

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「戒告」処分。表現の自由が危機に晒されている。

先述の通り、懲罰動議は賛成多数で可決され、高橋議員は「戒告」処分となった。開催された懲罰特別委員会では賛否両論が巻き起こったようであるが、あくまで数の力に押し切られた形だろうか。おぎの稔氏によれば、「具体的な懲罰内容についてこれにすべきだと触れたのは一人だけで、その一人の提案が戒告。懲罰委員会も時間をかけ過ぎだと思うし、幹事長会や議運で決めても良い内容だったのではないだろうか。」ということだ。

今回の一件は明らかに「表現の自由」に対する明確な挑戦である。立花氏は「表現の自由の委縮につながる」「全く誰かに迷惑をかけていないし、被害者もいない」としたうえで、「見られていなければめちゃくちゃなことをする」「いじめの構図と同じ」と断じた。会派「あたらしい中央」の小坂和輝区議も「年齢による差別などしていない、高齢であることでできないこともある、ということ」と擁護。

Twitter上では一部、「高橋議員が賛成をしたにも関わらず異なる意見を言うのはおかしい」とする向きもあるが、議論が尽くされない状態で単に反対をするだけでは時間を浪費してしまうことも多い。またそうした背景があることは、表現や発信を規制し罰を課すことの妥当性ある根拠にはならない。

内容の如何に関わらず、こうした言論封殺ともとれる中央区議会の決定は、我が国の言論の自由に対する大きな汚点となっただろう。

区議会の問題は「言論封殺」だけではなかった

本来であれば筆者はここで筆をおくが、中央区議会の問題点はこれだけではなかった。2点、重大な問題を抱えていた。

まず1点目。今回の本会議や懲罰委員会の模様が映像として残っていないのだ。立花氏によれば、委員会室は撮影・録音記録のための設備が揃っていないということだったが、本会議室ではカメラ等が設置されていたにも関わらず、こうした記録が行われていなかったのだという。すなわち記録と呼べる記録は議事録のみで、しかも先述のように中央区議会のホームページは情報の適用が早いとは言えない。

驚くべきことに、本会議の記録を行っていないのは東京23区で中央区のみなのだという。言論封殺を、ただ行うのではなく、密室空間で行おうというのか。恐ろしい話である。

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2点目は、動議提出にかかわる事柄だ。懲罰動議の提出は地方自治法が定めるところであるが、その必要事項は「会議規則中に定めなければならない」とされている(地方自治法第134条2項)。そこで中央区議会会議規則に当たると、以下のような記述があった。

第百二十条 懲罰の動議は、文書をもつて所定数の発議者が連署して、議長に提出しなければならない。

2 前項の動議は、懲罰事犯があつた日から起算して三日以内に提出しなければならない。ただし、第五十一条(秘密の保持)第二項の規定の違反に係るものについては、この限りでない。

中央区議会 会議規則

すなわち、「懲罰に値する行為」をした日から数えて3日以内に動議は提出されていなければならない。高橋議員がツイートを行ったのは11月28日の事だが、動議が提出されたのは12月3日。その期限が越えているにも関わらず、動議が諮られていること自体が不合理であると言わざるを得ない。

極めて不透明で、抑圧的で、前時代的な決定が行われた。動議提出後、高橋議員は「可決されれば裁判を行う」としていた。先日の最高裁判決によって、地方議員に対する懲罰も裁判所の管轄内となったため、提起は可能である。

この前代未聞の決定を多くの方に知っていただくことが、少しでも状況を打開するために不可欠なのだと思う。私たちは、声を上げる必要があるのだ。

参考

中央区 検索システム

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中央区議会ホームぺージ

地方自治法

立花孝志氏の動画【分析解説】中央区議会の懲罰動議を傍聴しました

高橋元気氏Twitter

おぎの稔氏Twitter

立花孝志氏Twitter

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