国家公務員の定年延長の前にやるべきこと。ー内閣人事「局」を「庁」へ格上げせよ!ー

 先月27日、国家公務員の定年を65歳に引き上げる「国家公務員法改正案」(国家公務員法等の一部を改正する法律案)が衆議院本会議で可決されました。今後参議院で審議されることになりますが、政府は今国会での成立を目指しています。この法案は、現在60歳と定められている定年を段階的に引き上げ、最終的に65歳とするもの(siryou1.pdf (cas.go.jp))であり、少子高齢化が進む中において必然の流れだと思います。ただ、年功序列等が色濃く残る国家公務員制度の問題解決を置き去りにして、定年延長を進めてしまっては弊害も少なくありません。そこで今回は、定年延長をする前提として改善が必要な国家公務員制度を取り上げ、その解決策について考えていきます。

1.骨抜きに終わった国家公務員制度改革

 日本の国家公務員制度の問題として、「年功序列」、「身分制」、「省庁別採用」が挙げられます。

 年功序列は、ご案内のように年齢(勤続年数)に応じて昇進していきます。この仕組みの下、基本的に同期は一斉に昇進していくのですが、当然内部の役職には限りがあり、出世すればするほどその数は少なくなります。そこで、人事システムの一環として外部にポストを求めることになります。これが、キャリア官僚の天下りです。

 身分制キャリア制)は、新卒採用時の試験区分によって人事が管理されるという仕組みです。例外もありますが、基本的にいわゆる「キャリア」、「ノンキャリア」に区別され、昇進が決まります。しかし、これは法律で規定されているものではなく、霞ヶ関においての慣行に過ぎません。即ち、試験区分による身分固定的なキャリア制度は、霞ヶ関における不文律なのです

 省庁別採用は、縦割り行政に繋がってしまっています。国家公務員になる為には人事院が実施する国家公務員採用試験に合格する必要がありますが、実際の採用は各省庁が行っています。その結果、年功序列や身分制と相まって省庁への帰属意識が高まることで、「国益」よりも「省益」を優先するようになり、縦割り行政へと繋がってしまうのです

 これらの問題意識の下、2000年前後から幹部人事の一元化や「能力・実績主義」の導入が唱えられるようになり、第一次安倍政権、福田政権において当時の渡辺喜美公務員制度改革担当大臣が中心となって抜本的な改革が行われることになりました。当初の渡辺大臣のプラン(【経済同友8年4月号】公務員制度の抜本改革を求めて(17-19P) (doyukai.or.jp))は、「『官僚内閣制』から『真の議院内閣制』へ」をコンセプトに掲げ、幹部人事の一元管理を行う「内閣人事庁」を設置すると共に、キャリア制度を廃止し、各省採用の「専門職」「一般職」と内閣人事庁採用の「総合職」から成る制度へと改革するものでした。ちなみに総合職は、省益よりも国益を優先させる「日の丸官僚」を育成するべく、内閣人事局が採用し、省庁の垣根を越えてを各省で経験を積ませるという制度のようです。また、繰り返し天下りを行う「渡り」の禁止や、人材の流動化もプランの骨格でした。

 しかし、上記のプランにはキャリア官僚や一部の議員からの強い抵抗があり、当時勢いがあった野党の民主党が、内閣の外局としての内閣人事庁ではなく官邸直結の「内閣人事局」を設置することを強く主張したのもあり、結局与野党修正協議によって「」から「」へ格下げし、内閣人事局を新設することになったのです。それに伴い、キャリア制度の廃止等は骨抜きにされてしまったものの、能力・実績主義の導入官民人材交流センターの設置による再就職斡旋の禁止等を盛り込んだ「国家公務員法等改正法」(政府・与党合意(案) (jinji.go.jp))が2007年6月30日、内閣人事局の設置等を盛り込んだ「国家公務員制度改革基本法」(https://bit.ly/3nVtp(gyoukaku.go.jp))は、2008年6月6日に成立しました。この当時を振り返って渡辺元大臣は、自身のYouTubeチャンネルで「法案を通った時に思わず泣いてしまったが、あれは嬉し涙と悔し涙の両方だった。」と述べています。(https://youtu.be/alOC-1l9h8U)結果として骨抜きとなってしまった改革は多いものの、キャリア官僚を中心とした様々な抵抗があった中でこの法案を成立させた渡辺大臣の実行力相当なものであると思います。

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2.内閣人事局の現状

 その後、麻生政権は政令で事実上渡りを容認し、上記の基本法において施行後1年以内を目途に内閣人事局を設置することが定められていたにも関わらず、民主党政権は官僚の抵抗を恐れて設置を諦める等、国家公務員制度改革は大きく後退してしまいました。結局、内閣人事局が設置されたのは第二次安倍政権で、2014年の5月30日まで延びってしまったのです。基本法の成立から、実に8年の歳月を要したのです。これは、我が国における官僚の影響力が如何に強いかを物語っていると言えるでしょう

 そして、その内閣人事局が現在上手く機能しているかと言えば、答えはノーであることは火を見るよりも明らかだと思います。その最大の原因は能力・実績主義の不徹底にあります。能力・実績主義を徹底するには、適切な人事評価制度が必要不可欠です。しかし、下記の表siryou2-1.pdf (cas.go.jp))のように、幹部職員はA~Cの3段階評価でAが約9割、Bが約1割、Cは無し、一般職員はS~Dの5段階評価でSが約1割、Aが約5割、Bが約4割、CとDはほぼ無しと、まるで小学校の通信簿かのような形骸化された人事評価(能力・業績評価)を行っているのです。

 このような状況を改善すべく、政府は一般職員の人事評価制度を5段階から6段階にし、アルファベット表記を「優良」や「良好といった日本語に改め、人事面談の手引きを新たに作成する等の改革を行うようですが(【独自】国家公務員の評価、今夏にも6段階に細分化…若手離職の歯止め狙い(読売新聞オンライン) – Yahoo!ニュース)、筆者は思わず失笑してしまいました。特にアルファベット表記を日本語に改めるというには、当に小学校の通信簿でも同じことがありそうです。菅政権は縦割り行政の打破を掲げ、行政改革担当に行動力のある河野太郎大臣を起用しているにも関わらず、このようなプランが出てきてしまうのは残念でなりません。このような形骸化された人事評価が続くようであれば絶対評価から相対評価へ変更することを含め、明確な評価基準を確立すると共に、幹部職員における適格性審査についても基準を明確化しなければ、いつまで経っても能力・実績主義は徹底されません

 それに、能力・実績主義が徹底されなければ、内閣人事局は上手く機能せず、国家公務員制度の問題は解決出来ません。近頃、官邸の意向を忖度せざるを得なくなり官僚が萎縮する要因となっている内閣人事局は、廃止すべきだという論調が目立ちます。しかし、これは全くの逆であって、人事評価制度をはじめ、むしろ機能が脆弱すぎることが問題なのです。客観的な基準があれば、恣意的な人事を行っているとの疑いがかけられることも減るはずです。官僚が作った人事案に口を出してはならないという霞ヶ関の不文律を守ることはとても民主的とは言えません。明確かつ客観的な基準に基づいて首相や大臣が人事権を行使するシステムの方がよっぽど民主的です。

3.内閣人事「局」を「庁」へ格上げせよ!

 このような機能強化を行っていく際には、内閣官房副長官がトップを務める「」ではなく、担当大臣を充てることが出来る「庁」へ格上げするべきだと考えます。首相が任命した担当大臣が、明確かつ客観的な基準に基づいて人事権を行使するというのはプロセスとしても極めて健全で民主的はないでしょうか。

 それから、内閣人事庁への格上げが必要ということは、渡辺喜美元公務員制度改革担当大臣が最初に提唱したプランが正しかったということに他なりません。未だに色濃く残る年功序列、身分制、省庁別採用による縦割り行政。これらを解決するためには、やはり骨抜きの弥縫策では上手くいかないのです。渡辺元大臣が提唱したプランは相当な政治的エネルギーを要するものです。しかし、菅政権が本気で行政改革を断行する覚悟があるのであれば、リスクをとってでも国家公務員制度改革の原点に立ち返り、抜本的な改革行って頂きたいと思います。定年延長が始まる2023年には間に合わなくとも、定年が65歳となる2031年までには改革が完遂されることを願っています

 そして、年功序列の解消、縦割り行政の打破、人材の流動化といった前提条件が整ったとき、人生100年時代といわれる中で「定年制」そのものが不要になるはずです。民間にも流動化が求められる時代なのですから、先ずは官から手本を見せる必要があります。その結果、官民共に生産性が向上することは間違いありません。国家公務員制度の改革を含む行政改革は、当に成長戦略なのです。

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参考文献

渡辺喜美(2009)「絶対の決断」PHP研究所                                       髙橋洋一・原英史(2021)「スガノミクス」白秋社                                           

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Ryuga

投稿者プロフィール

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政治の道を志す学生。専門は経済学(上げ潮派)。中高と陸上競技(長距離)に励み、その後は政党学生部の運営やWEBメディアへの寄稿を行う。

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