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徹底分析!日本経済の現状と行方② ー金融緩和、積極財政、構造改革。全てが成長の必要条件ー

※この記事は、([GDP-1.3%]徹底分析!日本経済の現状と行方① ー日本の経済回復が先進国で最下位なワケー | おとな研究所 (otonaken.com))の後編となります。

 今回は、前回解説した日本の経済回復が弱い理由を深掘りした上で、コロナショックからの再生に必要な経済政策、その後の新しい経済社会を見据えた長期的な経済戦略について問題提起をしていきます。

3.日本の潜在成長率が低迷している理由

 潜在成長率は潜在gdpの成長率で、潜在gdpは国全体の供給力を表す値です。簡潔に言えば、前回解説した実際のgdpは現在の経済活動の調子を示しているのに対して、潜在gdpは一国の経済の実力を示しているということです。即ち、潜在gdpの成長率である潜在成長率によって長期的な経済成長が決まるということです。但し、潜在gdpの値は計算方法によって大きく異なり、正確に測ることは困難である点には注意が必要です。

 潜在gdpは生産要素をフル稼働させた時に達成出来る値で、資本投入労働投入全要素生産性の3つの生産要素によって決まります。(参考:【マクロ経済学を、わかりやすく解説】経済成長の鍵とは?資本と成長 | おとな研究所 (otonaken.com))そして日本の潜在成長率の低迷は、長年のデフレ不況や少子高齢化により資本、労働といった生産要素の投入量の増加率が減少し、硬直した経済構造も相まって生産性の上昇率も減少が続いてしまったことによるものなのです。

 つまり、日本の潜在成長率低迷を解消するには、第一に金融緩和や減税等によって設備投資を促進して資本投入を増やすこと第二に人口減少社会の中で女性、高齢者の就労促進や移民政策によって労働投入の減少を抑えること第三に規制改革や労働市場の流動化(長期的には研究開発投資が重要)で生産性を向上させることが必要になります。

 ただ先進国においては、生産要素の投入量の拡大によるリターンは低く、全要素生産性の向上が極めて重要になります。特に少子高齢化が顕著であり、他の先進国と比べて著しく生産性が低い日本においては潜在成長率の低迷を解消し、持続的な経済成長を実現する為には全要素生産性の向上が必要不可欠だと言えます。

4. 日本の低生産性を招いてきた硬直化した労働市場

 日本の生産性が低迷している要因として、日本の労働市場の流動性が低いことが挙げられます。日本の労働市場の特徴として、年功序列、終身雇用、新卒一括採用といったメンバーシップ型の日本の雇用慣行があります。このような慣行は画一的な熟練労働者の形成が重視されていた高度経済成長期においては通用していました。しかし、高度成長期が終わり経済社会が複雑化する中で日本の雇用慣行は、適切な労働移動や産業構造の転換を抑制し、日本の労働生産性がG7で最下位などといった日本の低生産性を招いてきたのです。

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 確かに、近年は欧米型の雇用システムであるジョブ型雇用へ移行する動きも増えてきており、新型コロナウイルス感染症のパンデミックという当に時代の転換期においてその動きは更に加速しています。ただ、日本の法制度が従来の雇用慣行を守ることを前提にしているため、思うように改革が進んでいないのが現状です。例えば、下記のグラフ(厚生労働省「賃金構造基本統計調査」より筆者が作成)で分かるように年功序列型の賃金システムは現在でも色濃く残っています。

 

 雇用維持を目的に、経営が厳しくなった企業の休業手当を助成する雇用調整助成金も日本型の雇用慣行を前提にしている制度です。この制度によって失業は予防できるかも知れませんが、同時に本来であればより生産性の高い企業や産業に移動しているかも知れない貴重な労働力を、採算性の低い企業や産業に留めている点にも留意しなければなりません。

 筆者は、ゾンビ企業を増加させる等の弊害の多い雇用調整助成金は廃止し、その財源で同じ雇用保険内にある失業給付の拡充やデジタル化に対応した職業訓練を充実させる等、充実したセーフティーネットや再就職支援と労働市場の流動性を兼ね備えたフレキシキュリティへの転換を進めていくべきだと考えます。尚、労働市場を流動化することは、単に生産性を向上させるだけでは無く、ブラック企業の淘汰正規・非正規格差の解消に繋がるという観点からも必要な政策と言えるでしょう。

 他にも、日本型の雇用慣行を前提としている法制度として、正社員の解雇規制退職金に係る所得税の軽減措置等が挙げられます。正社員の解雇規制は、適切な労働移動を妨げるだけではなく、景気の調節弁としての派遣切りに代表されるような非正規社員の負担に繋がっているのが現状です。つまり、正社員の長期雇用保障は非正規社員の犠牲の上に成り立っているといっても過言ではないのです。退職金に係る所得税の軽減措置も、終身雇用を伴う退職金制度を前提としているもので中途退職という手段を税制度によって不利にしていると言えます。

5.コロナショックにおける雇用調整助成金の功と罪

 今般のコロナ禍での日本の雇用対策でも同様の事が言えます。コロナショックにおいて一番経済の落ち込みが激しかった時期(新型コロナウイルスパンデミックの初期である2020年4月~6月)の米国の失業率は4月14.7%、5月13.3%、6月11.1%、日本は2.6%、2.9%、2.8%で、コロナショックの影響がまだ少なかった3月の失業率は、米国が4.4%、日本が2.5%となっています。つまり、米国の失業率は10%以上上昇したのに対し、日本はほぼ上昇していなかったのです。ちなみに、3%弱の失業率は他国の平時より低い好水準で、今日に至るまで低失業率は続いています。

 そして、失業率の上昇を抑えられたことは有事の経済対策としては大きな成果であったと言えるでしょう。ただ、長期に渡って経済全体が落ち込む中で、これだけ失業率を低く抑えられた裏側には当然、弊害があることも忘れてはなりません。

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 日本が失業率を抑えることが出来た背景には、融資や給付金等の充実した支援策で企業を支えたことがあり、それによって2020年の日本の倒産件数はコロナショックの影響が無かった19年を下回り、歴史的な低水準を記録したのです。中でも雇用調整助成金は大きな役割を果たしました。日本はコロナショックへの対応として雇用調整助成金の要件を特例で大幅に緩和することで、雇用の繋ぎ止めを行いました。一方アメリカは、失業保険で失業者を支えました。

 その結果、新型コロナウイルスパンデミックの初期である2020年4月~6月の失業率の上昇幅は米国より大幅に低かったものの、代わりに休業者が大幅に増え、失業者と合わせた潜在失業者は米国の失業者の割合とほぼ同等であったとも言われています。これにより、その後失業率が改善した米国では大労働移動による労働市場の新陳代謝が起こった一方、日本ではコロナウイルス感染症のパンデミックという時代の転換期においても労働市場の大きな変化は起きず、日本の低生産性は改善されなかったのです。

 勿論、コロナショックが短期の経済危機であれば雇用調整助成金で対応しても問題は有りませんでした。しかし、ご案内のようにコロナショックは年単位で続いています。雇用調整助成金という弥縫策的な制度で長期間凌ぎ続けてきた弊害は相当大きなもで、日本は低失業率と引き替えに経済成長を犠牲にしたとも言えます。即ち、我々の将来の所得を失ったのです。

 歴史を振り返ってみると、大災害や戦争、パンデミック、経済危機の後の経済は、V字回復することが多いと言えます。それは、大規模な労働移動が起こり、産業構造が大転換をし、経済全体の新陳代謝が活性化するからでは無いでしょうか。しかし、解雇規制が厳しく、雇用調整助成金で雇用の繋ぎ止めに固執し、労働市場の流動性が低い日本ではそのような回復は望めず、前回の記事で挙げたIMFの見通しのように、当に「√」の逆のような状態に陥ってしまう可能性が高いのです。

6.コロナショックからの再生に必要な経済政策と日本が再び成長国家になるために必要な経済戦略

 日本が再び成長国家となるために先ずは当然、目下の景気対策が重要となります。現在、30兆円強のデフレギャップ(数量政策学者の髙橋洋一氏の推計から1-3月期のgdpの落ち込みを勘案【日本の解き方】国の需要不足推計は低すぎる 30兆円分の落ち込み解消には給付金など「財政出動」が必要だ (1/2ページ) – zakzak:夕刊フジ公式サイト)があると推定される為、財政・金融一体のマクロ経済政策によって、30兆円強の有効需要を創出する必要があります。

 ワクチンが普及していない現段階では、低所得層や学生への支援税や保険料の減免休業要請をした企業に対する補償等々、ピンポイントでの支援を行うのが得策です。そして、ワクチンの接種が進み、各種行動制限が解除されてきた段階で、GoTo事業の再開消費税の減税キャッシュレス・ポイント還元でも良い)といった消費刺激策を行えば、これまでの自粛の反動と併せて大規模な消費拡大による景気回復が望めるはずです。

 また、持続的な経済成長を実現するには需要サイドの政策と同時に、供給サイドの政策も進めていく必要があります。規制改革や労働市場の流動化といった供給サイドの政策は実行までに時間を要する上に、実行してから効果が出るまでの時間を要するため、例えデフレギャップがあったとしても同時並行で進めていく必要があるのです。

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 供給サイドの政策とは、前述の潜在成長率の低迷を解消する政策のことを指す為、生産性の向上が極めて重要になるのはご案内の通りです。そして、日本型の雇用慣行やそれを前提した法制度によって日本の生産性は低迷してきたにも関わらず、長期に渡ってそれらを維持してきたのは、前回の記事でも言及したように日本人には変化を嫌う文化が根強い為ではないでしょうか。しかし、このままでは日本はジリ貧の一途を辿るだけです。よって、労働市場改革にのみならず様々な分野において、政治がリーダーシップを執り、当に変化を恐れない構造改革を進めていくことが日本を再び成長国家にするためには必要条件なのです。

 そして、何よりも重要なのはコロナショックというピンチをチャンスと捉え、力強く新しい経済社会を構築するための、戦略を持って政策を打っていくことです。例えば、マイナンバーと所得・資産・税情報等を紐付け、セーフティーネットとしてのベーシックインカムを導入することです。これは、次の有事への備えともなり、大きな変化を伴う構造改革を進める上での土台となります。また、期待インフレ率を上げ、投資マインドを上向かせるための金融政策の強化や、筋の良い財政政策である減税を中心とした積極財政で良好なマクロ経済環境を整えることは、構造改革を成功させる為の必要条件です。日本が長年、低成長のジリ貧国家に成り下がってしまっていたのは、他ならぬこのような短期から長期に至るまでの戦略の欠如です。コロナショックを期に、目先の弥縫策では無く、覚悟と戦略を持って抜本策を実行することで、再び日本が輝く成長国家になることを願ってやみません。

参考文献

竹中平蔵(2020 )『ポストコロナの「日本改造計画」』PHP研究所
八代尚宏(2020)『日本的雇用・セーフティーネットの規制改革』日本経済出版

1件のコメント

[…] まず最初に、潜在成長率は労働投入、資本投入と全要素生産性の上昇で測る事ができる。(参考:徹底分析!日本経済の現状と行方② ー金融緩和、積極財政、構造改革。全…)オイルショック以降、バブル崩壊以前には労働投入は約1パーセント弱上昇し、資本投入は約1.5%台、全要素生産性は年率約2%程度上昇し、潜在成長率は約3から4パーセント上昇していたが、近年では潜在成長率は1%弱にまで下がっている。 […]