開示請求制度が新設:クリエイターの匿名性に懸念 −ゲストライター記事

ライター|國武悠人:NPO法人バーチャルライツ理事長。VR/メタバースに関連する政策研究などに従事。慶應義塾大学でHCIと科学技術政策を専攻。情報処理学会ジュニア会員、日本バーチャルリアリティ学会学生会員。情報処理学会HCI研究会貢献賞、統計調査士試験最年少合格賞など。Twitter 記事一覧

※この記事は、ゲストライターによる寄稿記事です。おとな研究所編集部や所属ライターが作成した記事ではありません。なお、寄稿の応募はコチラから誰でも可能です。


 昨年の通常国会にて、取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益を保護することを目的に「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律(以下、取引DPF消費者保護法)」が成立した。同法は取引DPF提供者の努力義務や、販売業者等情報開示請求について定めたものだ。2022年度からの施行が予定されている。

 取引DPF消費者保護法は、もっぱらBtoC取引DPFを対象としたものであってCtoC取引DPFは対象としない事が国会審議等で示されているが、一部条件下ではCtoC取引DPFも対象となることが国会審議やガイドライン案で示唆されている。

 当記事では、メディアで取り上げられていない重要法律、取引DPF法がデジタルコンテンツ業界に及ぼす影響について解説する。

取引DPF法とは

 取引DPF法は、大手メディアから全くと言っていいほど取り上げられていない。この法律は第3条3項にて「当該取引デジタルプラットフォームを利用する販売業者等に対し、必要に応じて、その所在に関する情報その他の販売業者等の特定に資する情報の提供を求めること。」を取引DPF提供者の努力義務として規定しており、第5条にて「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者が、内閣府令で定める額を超える自己の債権の行使に必要な場合に販売業者等情報の開示を請求することができる。」と規定している法律である。

 すなわち、取引DPF法は『取引DPFでの販売業者に個人情報を提供させ、消費者がその情報を取引DPFに請求できる法律』と読み取ることが出来る。

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広大な適用範囲

 取引DPF法は、努力義務ながらもプラットフォーマーと販売業者に大きな負担をかける法律である。取引DPFは、同法第1条において「事業として、取引デジタルプラットフォームを単独で又は共同して提供する者をいう」と定義されており、その適用範囲は広大だ。また多くの取引DPF利用者が販売業者等に認定されてしまうのではないかという懸念もある。

 実際、日本維新の会の串田議員は第204回国会衆議院消費者問題に関する特別委員会第5号にて下記の質問を行っている。

プライバシーの権利で消費者対消費者を入れないという話がありましたが、これは、情報を取得をする側だけではなくて、自らの情報を収集されないと思う人間に、予想に反して個人情報を求められるということも、やはりこれは気をつけなきゃいけないんだろうなというふうに思うんですよ。そうすると、メルカリの中で、販売業者は情報を収集されるけれども、メルカリに出店している個人は情報を収集されないんだと思われてしまっても、実はあなたは販売業者なんだよ、そういうふうに認定されることもあるわけですよね。(中略)実は、かなりの人たちが販売業者に認定されて、情報を開示しなければならない者になるのではないかという私は懸念を持っているんですが、その点については御検討されているでしょうか。

第204回国会 消費者問題に関する特別委員会 第5号(令和3年4月13日(火曜日))|衆議院

 質問に対する政府参考人の回答は下記の通りいかにも官僚的な回答であり、ガイドライン本位な法律であることが伺える。

情報開示の件につきましては、先生御指摘のとおり、個人事業者の場合は個人情報に当たるということもありますので、その辺りについてはしっかりと検討の範囲に入ってくるというふうに考えております。

第204回国会 消費者問題に関する特別委員会 第5号(令和3年4月13日(火曜日))|衆議院

 補足になるが、同国会審議では、立憲民主党・無所属及び日本共産党の二派共同提案による修正案が提出されており、その修正案では「努力義務から義務への変更」が記載されていた。広大な適用範囲が想定される法律を義務化するのは実情とかけ離れており、もし修正案が可決されていればベンチャー企業への負担は計り知れないものになっていただろう。

CtoC取引DPFの今後

 取引DPF消費者保護法はAmazonや楽天などの物理取引を行うBtoC取引DPFを中心に検討された法律であることが思慮されるが、その取り決めの曖昧さがメルカリなどのCtoC取引DPFや、BOOTHやSkebなど個人クリエータが活躍する取引DPFも対象となりかねないものとなってしまっている。

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 なお、同法には附帯決議が存在し、隠れBへの対応に留まらないCtoC取引DPF提供者の対象化が検討されている。

一 売主が消費者(非事業者である個人)であるCtoC取引の「場」となるデジタルプラットフォームの提供者の役割について検討を行い、消費者の利益の保護の観点から、必要があると認めるときは、法改正を含め所要の措置を講ずること。

取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律案に対する附帯決議|衆議院

 また、CtoCの利用を想定した取引DPFであっても、売主が実態としては事業者いわゆる隠れBである場合には当該事業者が売主として利用する範囲に限り同法に定められる取引DPFに当たり得るとの政府回答が存在するため、予断を許さない状況にある。

官民協議会の行方は

 取引DPF消費者保護法の成立に合わせて「取引デジタルプラットフォーム官民協議会準備会」が設立されている。同協議会は事業者団体、消費者団体、行政機関等によって構成され、事業者団体の中にはクリエイターエコノミー協会も存在する。ピクシブ株式会社は協会員ではないものの株式会社スケブは協会員として加盟しており、両社が同法に対してどのような対応を行うのかが非常に注目される。

 同法は社会的に全く注目されていないが、クリエイターエコノミー協会は懸念の所在を理解しているのか疑問を抱かざるを得ない。

クリエイターエコノミーの主導権は誰に

 そもそも日本の法律は、事業者ではない個人が不特定多数の者に対して単発的に商品サービスの売主となるようなケースについてそもそも想定がされていないとの指摘が武村委員(自由民主党)から行われている通り、取引DPFへの法対応が遅れていると言わざるを得ない。

 実情を無視した法律、規則が施行されないよう、クリエータ1人1人が官民協議会や立法に目を光らせていく必要があるだろう。

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参考文献

第204回国会 衆議院 消費者問題に関する特別委員会 第4号 令和3年4月9日

第204回国会 衆議院 消費者問題に関する特別委員会 第5号 令和3年4月13日

デジタル・プラットフォーム企業が介在する消費者取引における環境整備等に関する検討会 報告書案

取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律施行令(案)等に関する意見募集について

取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律案 概要

施行規則案

法律第三十二号(令三・五・一〇)取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律

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取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律第3条第3項に基づき取引デジタルプラットフォーム提供者が行う措置に関して、その適切かつ有効な実施に資するために必要な指針(案)


ライター|國武悠人:NPO法人バーチャルライツ理事長。VR/メタバースに関連する政策研究などに従事。慶應義塾大学でHCIと科学技術政策を専攻。情報処理学会ジュニア会員、日本バーチャルリアリティ学会学生会員。情報処理学会HCI研究会貢献賞、統計調査士試験最年少合格賞など。Twitter 記事一覧

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