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台湾の安全保障 ―世界と日本に何ができるのか

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※この記事は、ゲストライターによる寄稿記事です。おとな研究所編集部や所属ライターが作成した記事ではありません。なお、寄稿の応募はコチラから誰でも可能です。


中国の魏鳳和(Wei Fenghe)国防相は10日、アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ、Shangri-La Dialogue)出席のため訪れたシンガポールでロイド・オースティン(Lloyd Austin)米国防長官と初めて対面で会談し、台湾が独立を宣言した場合、中国は「戦争開始をためらわない」と警告した。

台湾めぐり「戦争ためらわない」 中国国防相、米長官に警告【6月11日 AFP】

この出だしで始まったAFP通信の記事は、中国の台湾に対するアメリカへの警告を伝えている。

今年5月に、バイデン大統領が台湾をリスペクトして言った、『中国が台湾に侵攻すれば米国は軍事的に関与する』という発言に対する、明確な反論である。

台湾はウクライナモデルたりえるか

現在、ウクライナが、ロシアの侵攻に対して奮戦しているが、それは紛れもなく、アメリカが提供した情報戦能力と戦闘訓練の賜物だろうし、アメリカをはじめとする、西側諸国の大きな支援が、その戦線を支えているのである。

それもあってか、アメリカ軍のミリー統合参謀本部議長は、台湾に対し、中国からの侵攻があれば、ウクライナ方式の支援で中国を押し戻せるとも取れる発言をしている。

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以下野口和彦先生による英文書き起こし

“I would just add, with respect to deterring China and Taiwan…The best defense of Taiwan is done by the Taiwanese. We can certainly help them. This is being done in Ukraine, for example, and I think there are a lot of lessons that are coming out of the Ukraine that China is taking very, very seriously. Crossing the Taiwan straits and conducting an amphibious and/or air assault on the island of Taiwan and the city of Taipei with the millions upon millions of people there, the mountainous terrain of Taiwan. Taiwan is defensible island, we just need to help the Taiwanese defend it a little bit better and we can do that. But that is the best deterrent, is to make sure that deterrent by denial, to make sure that the Chinese know that if they were to attack Taiwan, it is a very, very difficult objective to take.”

野口和彦 ―日本の国際政治学者で、群馬県立女子大学国際コミュニケーション学部教授。(編集部注)

和訳

“中国と台湾の抑止力に関して付け加えると、台湾の最良の防衛は台湾人が行うものです。私たちは彼らを助けることができる。

例えばウクライナで行われている事だが、ウクライナからは、中国が非常に真剣に受け止めている教訓がたくさん出てきていると思います。台湾海峡を渡り、台湾島と台北市を水陸両用または空襲し、そこにいる何百万人もの人々と台湾の山岳地帯を攻撃する。

台湾は防衛可能な島です。私たちは、台湾人がもう少しうまく防衛できるよう手助けする必要があります。しかし、それこそが最高の抑止力であり、拒否的抑止力を確認することで、中国に、もし台湾を攻撃するならば、非常に困難な目標であることを認識させることができるのです。”

という発言である。野口和彦先生によれば、これには大きく4つの要点があると指摘されている。

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“ミリー発言の要点は次の通りです。①台湾は自分自身で防衛すること、②米国は確実に台湾を助けること(ただし、部隊を派遣するかどうかの明言ナシ、ウクライナを例にしての発言)、③侵攻が水陸両用作戦になり台湾の地形から、ウクライナより防衛しやすいこと、④拒否的抑止で臨むこと。

④は重要です。拒否的抑止とは、侵略国が防御国からの抵抗によるコストが利得を優ると判断して、侵攻を思いとどまることを狙った戦略です。米国が台湾への攻撃を自国の攻撃とみなして、中国に報復する威嚇でその侵攻を思いとどまらせる「懲罰的抑止」ではありません。

ここから米国は、自国が中国から報復されるコストとリスクを最小限にしようとしていることが伺えると思います。”

ただ、これには大きな問題がいくつかある。

第一に、島国という海洋国家の台湾に対して、どの様な補給網が築けるのかという点である。ウクライナの様な、大陸の中にあり、隣接国から陸路での継続的な支援が出来る環境ではないからだ。これに対して中国が圧倒的物量で侵攻した場合、それを止めれるだけの、支援構築手段はあるのかという事であろう。

第二に、この形式の支援では、日本はその支援基地となり、継続性のある支援を、その侵攻が終わるまで、米国と一体となりする事になりうる。

これは、今のウクライナの現状を見る限り、侵略国の弱体化を狙った支援であり、西欧の状況を見れば、ロシアだけでなく、ウクライナを疲弊させるだけで、ウクライナの大きな破壊を生んでいる状況と同じ状況を台湾に作る事に等しい。

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また、日本と中国の経済的関係を見れば、日本も疲弊する可能性が高く、あまり良くない手段ではないのかとも考える。

アメリカは参戦しないのか

アメリカは事ある毎に、幾人かの大統領が台湾へのリスペクトを示してるが、その都度、政府、もしくは軍の関係者がそれを打ち消す発言をしている。

以下ロイター記事

Comments by Biden and others on U.S. policy of ‘ambiguity’ on Taiwan|Reuters

つまり、アメリカは台湾政策に対し、曖昧にする事で、その侵攻リスクの管理をしてるかの様に思える。

ただ、アメリカの多くの識者は、中国が台湾への侵攻をおこなえば、アメリカは参戦するだろうとの予測をしている記事もあるようだ。これはあくまでも予測であるが、それだけアメリカにとって台湾は、対中国抑止のの要石的要衝であるということである。

どう対峙するか

今後どのような形であれ、中国が拡大主義路線を続ければ、どこかで必ずアメリカは中国と対峙する事になるだろう。しかし、アメリカと中国の軍事力の差がそのままであれば優位に立てるが、それはいつまでも続くことではないのである。

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クリストファー・レインは、「米中のパワーシフトとパックス・アメリカーナの終焉」という論著の中で、そのパワーシフトとアメリカの衰退を予測をしている。

クリストファー・レイン「米中のパワーシフトとパックス・アメリカーナの終焉」|糸やん|note

米中間の人口比と経済成長のスピードを見れば、いずれ中国はアメリカのGDPを抜くのは間違いないだろう。その時にいかに台湾有事に対応できるかを我々は考えておかなければならない。

例えばそれがQUADであり、AUKUSなのだと思う。

日本に出来ること

しかし、今の日本には台湾有事における米国の作戦行動に、参加して貢献できるだけの能力はないのである。それは装備の問題ではなく、自衛隊法という大きな壁であり、憲法という制約である。

台湾の安全保障環境は、日本も他人事ではないのである。今後想定しうる困難を前に、日本がやるべき事が何かは明白であるし、日本を含むアジアの国が、ウクライナの様な事にならない為にも、日本政府はしっかり対応していかなければならない。


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