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アイドルと歌詞とセクシズム

目に飛び込んできたニュースに驚いた。

おニャン子クラブ、AKB48などアイドルグループのプロデュースと作詞を担ってきた秋元康が、紫綬褒章に選ばれたのだ。

「半世紀近く、音楽業界の第一線で流行歌を生み出してきた。」

https://mainichi.jp/articles/20220427/k00/00m/200/425000c

自分自身も幼い頃にはアイドルに憧れていたし、今でもそのパフォーマンスを楽しむことは多い。しかしながら、秋元康の生み出してきた「流行歌」は果たして社会にポジティブな発信をするものばかりだっただろうか。

アイドル産業には、人間の客体化や性的消費、ルッキズムやボディポジティブなどさまざまな問題点があるが、今回はアイドルが歌う曲の「歌詞」に着目してみたい。

秋元康の作詞した楽曲

おニャン子クラブ「セーラー服を脱がさないで」

セーラー服を脱がさないで

スカートまで まくれちゃうでしょ

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セーラー服を脱がさないで

胸のリボン ほどかないでね

https://www.uta-net.com/song/2771/

これは、おニャン子クラブが1990年にリリースした楽曲「セーラー服を脱がさないで」の歌詞の一節だ。2000年代に生まれた人でもサビだけは大抵の人が知っているだろう。

サビの歌詞だけでは判断し難いが、この曲の歌詞の他の部分を確認すると、かなり生々しい状況を描いている歌だとわかる。セーラー服を着ている「高校生」が、「恥じらう」姿を、「生身の」女性に歌わせていたのだ。

このような問題提起をすると、往々にして「当時は良かったんだ」との意見が散見されるが、このような歌詞を書いた人物が、2022年現在において評価を得ていることが問題なのである。

HKT48のユニット曲「アインシュタインよりディアナ・アグロン」

女の子は可愛くなきゃね

学生時代はおバカでいい

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今 一番 大切なことは そう

キャピキャピと 音が聴こえることでしょう?

https://www.uta-net.com/song/206311/

この曲の歌詞は一度、大学のジェンダー論の授業で取り上げられ大きな話題を呼んだ。全体として「女の子は容姿が大切で、成績などはどうでもいい」という趣旨の歌詞であり、明確な女性蔑視だと言えるだろう。しかし驚くべきことに、この曲がリリースされたのは2016年のことなのである。

確かに、容姿を重要視する女性個人がいれば、知力を高めたい女性個人もいるだろう。しかしながら、成年男性の立場にある人が「女性は外見を磨くべきであり、知力が高くても意味がない」とアイドルに仮託して歌わせるのは、ステレオタイプの押し付けであり、作詞者本人のジェンダー規範が透けて見える。

AKB48 となりのバナナ

となりのバナナは青すぎる

秘密がない友達はつまらない

アレしてコレして 熟れてゆく

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おいしいバナナになれますように

https://www.uta-net.com/song/121189/

成年していてある程度メディアに触れる人であれば、この歌詞が意味することはそれとなく察するはずだ。そして何を感じるだろうか。

「バナナ」という隠語を用いて性的な内容を表現し、未成年も含む女性たちがその歌詞を歌うのである。そしてその光景を消費するのは大抵が男性である。「その曲が売れていればいい」「アイドルが楽しんでいればいい」という正当化は、54歳のプロデューサーと、平均年齢20歳のアイドルとの間でどれほど成り立つだろうか。

この歌詞にもまた、「アインシュタインと〜」にあったような、知性的に女性を蔑視する内容が含まれている。

私のような人を大人って言うんだよ

アメリカの大統領の名前も知っているし

“流石”って漢字とか”年金問題”も気になるし…

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https://www.uta-net.com/song/121189/

アメリカの大統領の名前を知っていて「さすが」を漢字で書けることが知性的だと考えているのは「大人ぶっている」だけであると、女性を皮肉に描いている歌詞だ。性的なことに関心があるが、世間については無知なままで、「大人」になりたがる女性像というのは(男性中心の)社会から求められがちなイメージである。緊急避妊薬の薬局販売などのニュースにおいても、このように「性的関心が強い」が「適切な判断ができない」女性が想定され議論されており、女性の知力/判断力を過小に評価しているのだ。

その歌詞の生産者に「お墨付き」を与えるのか

#MeToo運動などによって映画や音楽業界での性暴力やセクハラが告発されるようになり、「分野の権威」だと言われた人々の素行が明らかになって業界から追放される事例が増えている。

女性、特に言及すべきは未成年の少女に、女性を性的客体化し蔑視するような歌詞を歌わせる成年男性がいる。1990年に始まり最近においても続いている、この歌詞を通じたジェンダー規範の発信に、「芸術分野で功績を残した人に贈られる」褒章を与えることは適切だろうか。

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Alice
ライターページ おとな研究所 編集部員 ジェンダー/セクシュアリティや外国人の権利問題に強く関心を持っています。社会問題についての記事が多くなると思いますが、おとな研究所に新しい風を吹かせることができればと思います。