義務投票制について考える 投票率=民主主義なのか?

 2022年7月に行われた参院選の投票率は、52.05%だった。これはOECD諸国の中でも特に低い水準で、日本の低投票率は近年大変問題視されている。この問題を解決する糸口として考えられるのが、義務投票制である。本記事では義務投票制の特徴、すでに導入している国々について紹介し、メリットデメリットについて解説する。

義務投票制とは

概要

 「義務投票制」とは、選挙において投票することを有権者に対して法律上義務付ける制度のことである。違反者に対する罰則、その適用レベルは国によって様々であり、投票率に与える効果も罰則規定により異なっている。また、投票が義務付けられていても、秘密投票制の下では無効票を見分けることはできないため、実際の選挙結果に与える効果を正確に知ることは難しい。

 地方選挙における投票を条例などで義務付けている地域もあるが、この記事では主に国政選挙レベルで投票を義務付けるケースについて述べる。

制度を採用している国

実際に義務投票制を採用している国々には以下のような国がある。罰則適用が厳格な国を抜粋した。

  • ベルギー:罰金5~25ユーロ/15年間に4回以上の棄権で10年間の選挙権の停止
  • スイス:罰金3スイスフラン
  • キプロス:500キプロスポンド/入獄
  • シンガポール:選挙人名簿から抹消
  • オーストラリア:罰金20~50オーストラリアドル

(参考:「義務投票制を採用している国」酒田市ホームページより

https://www.city.sakata.lg.jp/kurashi/senkyo/school.files/w-gimu.pdf )

投票する人の手と投票箱

義務投票制のメリット/デメリット

義務投票制の是非については様々な議論が交わされている。導入について検討する上で重要ないくつかのメリット、デメリットを紹介する。

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メリット

 第一に、投票率の向上である。罰則適用の厳密さにも影響されるが、投票を義務化すると投票率は高くなるのが一般的である。投票率の向上は選挙の正当性を高めることにつながる。例えば、現在の日本では高齢者ほど投票率が高く、その結果政治家が高齢者に向けた政策ばかりを打ち出す「シルバーデモクラシー」という状況が発生している。義務選挙は属性に関わらず投票率を高めることにつながるので、性別や年齢の本来の比率に応じた選挙結果が現れるようになることが期待できる。

 続いて、投票の義務化が市民の政治教育に繋がるという意見もある。低投票率の原因を、政治への無関心や、政党選択の考え方を有権者が身につけていないことだとする意見は多い。米国の政治学者であるアーレント・レイプハルトは1996年に米国政治学会の大会において、富裕層や高学歴層など「恵まれた人々」は積極的に政治的影響力を行使するのに対し、「恵まれない人々」は投票に行く割合が低いということを述べた。

 様々な理由で政治に触れたり知識を身に付けたりする機会が少ない人々も一律で選挙に行くことになれば、半強制的に関心を喚起したり、判断材料を集めさせることに繋がるというのだ。

 また、最後に選挙制度という面においては、選挙活動のコストが削減されるということがメリットとして挙げられる。人々を投票所に向かわせ、さらには自分の政党に投票してもらうために、候補者は様々なキャンペーンで有権者にアピールしようとする。

 もし選挙が義務化されれば、有権者は自発的に候補者についての情報を集めようとすると考えられる。よって、候補者は過剰なほどのキャンペーンから離れ、公約の説明に重きを置いて選挙活動を展開できるのだ。

デメリット

 デメリット/反対意見の一つ目としては、自由権の侵害が懸念されるということがある。選挙における自由な意思の表明は、民主主義において重要な前提であるとされている。早稲田大学大学院教授で、政治学者の河野勝氏も「投票の自由」について歴史の動きも踏まえた上で以下のように述べている。

「投票義務化が、自由な意思の行使としての選挙参加をどれほど促進することになるのか。」

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投票の義務化は「投票をしない」という形をとる意思表示を否定することになってしまう。投票の義務化には憲法の改正が必要ではないかとされる所以もここにある。

 続いて、「有権者の政治参加意識を高める」という利点と対立する考え方として、反対に政治や政策についての知識がない人々によるランダムな投票が行われるという意見がある。これによって引き起こされる現象に「合理的バイアス」がある。もしもある集団が全くの政治的偏向を持たずに情報に基づかない投票を行うのであれば、その集団内で完全に投票先の政党は分かれ、その集団が投票しなかった場合と選挙結果が同一になる、という概念である。

 しかし、人が全くの偏向を持たないと考えることは難しく、もしも情報や知識が不足している有権者が、人気があり一見良さそうに感じる簡単な政策を掲げる候補者に流れてしまえば、ポピュリズムにつながることが懸念されるのだ。

 最後に、投票が義務化されれば選挙活動のコストは削減されると考えられているが、投票自体の運用コストは増加する。投票義務化の法整備、違反者に対する罰則適用など、一連の手続きに対して人力、時間、費用が必要になる。

投票率が100%になれば、それは民主主義なのか?

 ここまで、義務投票制の制度やメリット、デメリットについて見てきた。果たして投票率が100%になることは、完全な民主主義の実現を意味するのだろうか。民主主義の程度を測る指標には、ポリアーキー指標などいくつかの種類があり、投票率だけが民主主義を意味するわけではない。国民の属性が均等に代表されているか、国民から政府への働きかけが健全に行われているか、など民主主義を考える上で検討しなければならない事項は他にもある。それにしても現在の日本の「民主主義」は、どの程度の正当性を保っているだろうか。

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おとな研究所 編集部員
ジェンダー/セクシュアリティや外国人の権利問題に強く関心を持っています。社会問題についての記事が多くなると思いますが、おとな研究所に新しい風を吹かせることができればと思います。

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