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奨学金のマイナンバー活用について問う~学びの意思を尊重する制度設計を~

2020年4月より、JASSO(日本学生支援機構)が運営する奨学金の制度が大きく変更された。その内容とは、従来の貸与型奨学金の制度に加えて、「給付型」奨学金の制度が創設されたというものである。

一見、奨学金を将来返済できる見込みのない家庭や学生が、給付型の制度を利用できることになったという点で、教育機会が拡大されたように見える。しかし、給付型奨学金の制度が創設されてもなお、学生の学びの意思を阻む問題が存在するのである。本記事では、その問題について紐解いていく。

JASSOが運営する奨学金制度

そもそも、JASSOとは日本において学生に対する奨学金事業や留学生支援事業などを行っている独立法人であるが、この組織が運営する奨学金制度を利用している学生は少なくない。

JASSOが行った令和2年度の調査によると、給付型奨学金の制度を利用する学生は、大学進学者だけでもおよそ20万人で、貸与型奨学金を利用する学生は54万人にものぼる。

給付型奨学金の給付実績(令和2年度)

貸与奨学金の奨学生数(令和2年度)

学生の学びを阻む「親のマイナンバー」の存在

学生が奨学金を得るまでには、所定の手続きを得なければならない。その手続きの上で必要になってくるのが、以下の3つである。

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・貯蓄金額の報告

・学生個人のマイナンバー

・親のマイナンバー

奨学金を利用する条件に、学生本人と親のマイナンバーを必要とする理由を、JASSOは次のように示している。

日本学生支援機構では、マイナンバーを利用して奨学金の審査に必要な収入に関する情報等を行政機関の情報連携により収集するため、奨学金の申込みには、申込者本人及び生計維持者の方のマイナンバー(個人番号)の提出が必要です。

在学採用申込みにおけるマイナンバーの使用 | JASSO

つまり、奨学金を契約・継続できるかどうかは家庭の収入によって決められ、それを把握する手段として学生本人と親のマイナンバーが必要とされるのである。

この3つのうちの、「親のマイナンバー」が学生の学びの意思を阻む一つの要素になり得る。その事例を、以下で示していく。

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家庭環境により、親が子の進学を拒否するケース

一つ目として、親が大学進学に理解がなく、子の進学を拒否するケースが考えられる。例えば、家庭が貧しく、兄弟などを養うために親が就職を望んでいる場合だ。

この場合、学生本人が大学での学びの意思を持っていても、親がマイナンバーの提出を拒否すれば、JASSOの運営する奨学金制度は利用することができない。

奨学金を管理する親が毒親であるケース

二つ目として、奨学金を管理する親がいわゆる毒親であるケースが考えられる。例えば、本来の目的に沿わない形で奨学金を利用することが予想される場合だ。

この場合、親がマイナンバーを提出し、奨学金が支給された場合でも、親が本来の目的以外で利用すれば、けっきょく学生本人がその損失を補填しなければならないのである。

奨学金問題の解決策は

所得制限の撤廃

この問題の解決策としてキーワードとなるのが、「所得制限」だ。

近年、教育における所得制限の問題が話題となっている。その内容は、子ども手当てや子育て世帯への臨時特別給付金などである。

所得制限の問題は奨学金も同様だ。そもそも、奨学金が学生の学ぶ意思を保障し、促進をする制度として所得制限が設けられているのはいかがなものだろうか。

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他の解決策を検討する上で、上記の「親が進学を拒否するケース」や「毒親であるケース」に特例措置を設けることも考えられたが、その証明の難しさや、ケースに該当しない学生との不公平感に鑑みれば、不適当である。

現在は、親の所得で利用できる種類や金額が変わる奨学金制度であるが、所得の制限を撤廃することで、親のマイナンバーを提出する必要がなくなる上、ケースに該当しない人も制度を利用する間口が広がり、公平感や教育機会の確保問題が改善される。

成人年齢が18歳に

また、2022年度からは成人年齢が民法の規定で18歳に引き下げられた。この法改正により、成人に達した者はローンを含む契約が親の同意なしに行えるようになった。

多くの人が大学進学をする18歳に成人年齢が引き下げられたわけであるが、自由意思をもって契約を行えるようになった以上、奨学金制度を学生主体で契約できる制度改正が望まれる。

そうすることで、利用する際に親のマイナンバーが必要ではなくなり、学生の学びの意思を尊重した奨学金制度になるのではないだろうか。

この国には、教育機会の確保における課題が多く残されている。

今後、「おとな研究所」では、奨学金の問題を含めた教育機会の確保について、学生目線で問題を紐解いていく。

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