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【編集部】投票日まであとわずか 参院選公約を徹底解説!「自由民主党」

6月22日に公示され、今月10日に投開票が実施される参院選選挙は自公政権による過半数維持はほぼ確定した情勢となりつつある。

故に従来であれば、無風選挙である構図だが、今回は野党同士で熾烈な戦いが繰り広げられている。社会党から民主党から続く組合系の左派政党である立憲民主党が野党第一党の座を維持できるのか、変わって前回の衆院選で躍進した新興勢力である日本維新の会が野党第一党の座を奪い、55年体制から続く政界の常識を打ち破るのか。その闘いの第一ラウンドとも言われているこの参院選、有権者の投票行動に影響する各党のマニフェストを今回おとな研究所で分析する。

今回は政権与党・自由民主党のマニフェストを分析する。

全体構成

「決断と実行。」と題された今回のマニフェストは「日本を守る」と、「未来を創る」の2大項目に分類されており、その下に各分野の政策が連なっている。「日本を守る」には外交安全保障や物価対策など、喫緊の課題に関する公約が示されているのに対し、「未来を創る」には新しい資本主義や憲法改正などの長期的な課題が示されている。

「日本を守る」

マニフェストの前半パート「日本を守る」は外交安保・物価高対策・災害対策・感染症対策の4本柱で構成されており、日本を取り巻く喫緊の課題に対する自民党の政策を例示している。

外交安保では防衛費のGDP比2%を目標として視野に入れる事や、反撃能力(敵基地攻撃能力)の整備など、ウクライナ危機を受けた防衛能力の根本的な向上を掲げている。同時にコロナやウクライナ危機を発端とし、昨今の物価高の原因とも言われている国際的な物品供給の滞りを引き起こしているサプライチェーン問題に対する政策も提示している。

具体的には、今国会成立した経済安保法案の実施や、サプライチェーン強靭化支援、安全保障観点からの土地所有規制の強化などが盛り込まれている。今回の公約で自民党が従来、最重要政策として掲げる景気対策ではなく、外交安保政策を全面に打ち出した事はウクライナ危機を通じた世論の変化や高市早苗政調会長や安倍元総理を筆頭とした自民党のタカ派サイドへの配慮が重なった結果とも言える。

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自民党が外交安保に続いて並べたのは物価高対策だ。内容としては、昨今のインフレ対策として既に実施されているガソリン等への補助金や追加の地方交付金などの対策を掲げている。(なお、インフレ期の財政支出は更なるインフレを引き起こすとの指摘もある)

同時に平時と同様、中小企業への資金繰り支援の継続を明記した上で賃上げ優遇税制を通じた賃上げを実施する事を掲げている。(なお、インフレ期の賃上げは更なるインフレ要因となる)。物価高対策に関して、全体的な政策の量は維新や国民など他党と比較すると劣る面もあるが、数々ある政策分野の中でも2番目に配置する事で物価高対策を重要視している事をアピールする目的があるようだ。

今回の自民党公約における災害対策と感染症対策は前回衆院選のマニフェストから内容がほとんど踏襲されている。公共事業パッケージである「国土強靭化計画」の継続・拡大や処理水対策による風評被害支援が災害対策として掲げられており、感染症対策ではワクチンの内製化支援や水際対策の徹底が明記されている。

「未来を創る」

マニフェストの後半パートでは、「新しい資本主義」・「デジタル田園都市構想」・「憲法改正」の三本柱で構成されている。この内、「新しい資本主義」と「デジタル田園都市構想」は岸田総理が去年の自民党総裁選で掲げた公約で、それが直接今回の参院選マニフェストに反映された形となる。しかしながら、反映されたのは主にスローガンであり、政策は前政権の踏襲が多い傾向にある。

内容としては農林水産業への補助・脱炭素・デジタル化や沖縄振興などがこれらに盛り込まれるなど、従来の自民党的な政策の枠組みは変わったものの、中身自体に大きな変化は見られない。

岸田総理肝いりの政策である「新しい資本主義」に関しては、起業支援・脱炭素・デジタル化・女性活躍などが「成長」分野に位置づけられ、「分配」分野に関しては日本型社会保障の堅持、子育て支援強化、治安対策などが盛り込まれており、岸田政権が重視している成長と分配の好循環が念頭におかれたものだと考えられる。

しかし、前述の通り、脱炭素や子育て支援などの政策に関しては炭素排出削減目標の堅持や子ども家庭庁の設置など、菅政権から既定路線であった政策の推進が掲げられており、新しい政策提案が乏しい内容となっている。

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自民党の一大派閥である宏池会の流れを汲む岸田総理は、その大先輩である鈴木善幸総理が提唱した田園都市国家構想を再び政策として打ち出し、今度は21世紀にふさわしい「デジタル田園都市国家構想」を政権の目標として掲げた。

マニフェスト内の具体的な内容としては、デジタル化を通じた行政サービスの遠隔提供や郵便局を通じたユニバーサルサービスの強化などが挙げられている。しかしながら、政策の大半は従来型の農林水産業補助や交付金型の補助を中心とした地方振興策の継続が掲げられており、看板は新しいものの、実際の政策はこれまでの自民党の踏襲都の形となっている。

自民党マニフェストの最後は、定番である「憲法改正」となっている。憲法改正に関して、自民党は安倍政権時より自衛隊の明記・緊急事態条項・教育充実・合区解消に関する改正を提案しており、これは岸田政権になっていても踏襲された形となっている。

良くも悪くも自民党。岸田カラーは薄く

第二次安倍政権発足以降、従来の保守本流路線から一線を画し、改革路線にシフトしつつあった自民党だが、岸田政権の就任によって、「改革」のスローガンは封印された。残ったは昔の自民党らしき補助金を中心とした政策パッケージだ。

安倍・菅両政権ももちろんこれらの政策を行っていたが、同時にアベノミクスやカーボンニュートラルなどの大きな政策方針を示してた。岸田政権では、スローガンは存在しているものの、岸田政権独自の政策はほとんど打ち出しておらず、政権運営における安定志向があらわれている。

現状維持と元来の自民党への回帰は安倍・菅両政権を支持していた現役世代や改革志向層の離反を招いているとの指摘もあるが、高齢者からの厚い支持で岸田政権は依然として高支持率を保っている。今回の参院選でも現状維持に対する支持が継続するかどうかが焦点となりそうだ。

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