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【改憲】緊急事態条項とは

新型コロナウイルス感染拡大を受けて、安倍総理は今回のような非常時に対応するために憲法改正により緊急事態条項を導入する為の憲法論議を進めていくべきだという認識を示した。しかし、一部野党側の反発もあり、議論が進む兆しすら見えない。ところで、そもそも緊急事態条項とはどのようなものなのだろうか。そして海外での運用はどのようになされているのか等について見ていきたいと思う。

そもそも緊急事態条項とは

一般的には戦争や内乱、自然災害の発生により国家の存立が危ぶまれた場合に、一時的に基本的人権等を制限した上で行政権を中心に大規模な権限を与える際の根拠となる法とされている。(国家緊急権とも言われるている。)つまり一時的に憲法で制限された枠を超えて権力を行使することもできるのだ。

ちなみに憲法学説では「緊急権」という定義の中に含まれている。その一つにこの「国家緊急権」が含まれており、国家の危機に対して国民の人権を守るための措置として考えられている。またそれに対を成すのは、基本的人権の侵害をはじめとした国家権力の冒涜に対処する為に行使される抵抗権だ。(フランスなどでは憲法にも明記)

国政政党では唯一、自民党が2012年に作成した憲法改正草案98条、99条で提起されている。また平成30年には改憲推進本部が憲法改正案のイメージとして素案を提示している。

まずは2012年に作成された憲法改正草案からみていこう。

98条(緊急事態の宣言)

①内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、自身等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。

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②緊急事態の宣言は、法律の定める所により、事前または事後に国会の承認を得なければならない。

③内閣総理大臣は、前項の場合において不承認の議決があったとき、国会が緊急事態の宣言を解除するべき旨を議決したとき、又は推移により当該宣言を継続する必要がないと認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、当該宣言を速やかに解除しなければならない。また、百日を超えて緊急事態の宣言を継続しようとするときには、百日を超えるごとに、事前に国会の承認を得なければならない。

④第二項及び前項後段の国会承認については、第60条第二項の規定を準用する。この場合において、同項中「三十日以内」とあるのは、「五日以内」と読みかえるものとする(※60条第二項…衆参で異なる議決もしくは、片方の院に送付後30日以内に議決しなければ衆院の議決を優先とする〈いわゆる衆院の優越〉)

以上のように、98条は緊急事態宣言発令への手法が主に明記されている。

おおまかにまとめると、非常時における緊急事態宣言の発令は100日を期限とし、継続する場合は国会の事前承認が必要ということだ。但し衆院承認後、5日以内に参院でも承認されなければ衆院の優越が作用し継続ができる。

では次は具体的内容が明記された99条だ。

99条緊急事態の宣言の効果

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①緊急事態の宣言が発せられた時は、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができる他、内閣総理大臣は財務上必要な支出その他の処分を行い、地方自治の長に対して必要な指示をすることができる。

②前項の政令の制定及び処分については、法律の定めるところにより、事後に国会の承認を受けなければならない。

③緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言にかかる事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない。この場合においても、第十四条、第十八条、第十九条、第二十一条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない。

④緊急事態の宣言が発せられた場合においては、法律の定めるところにより、その宣言が効力を発揮する期間、衆議院は解散されないものとし、両議院の議員の人気及びその選挙期日の特例を設ける事ができる。

行政権が立法府と同等の力を得る事ができるものの、全て国会の事後承認を必要とする。また、基本的人権を尊重する必要があるものの、国家による発せられる強制力を持つ措置に国民は従う必要があるという事だ。

次は平成30年に出された素案である。

あくまでも法律に基づき行政により緊急政令が制定されるということが強調されている。また、12年草案に引き続き国会議員の任期延長が提起されている。(30年素案では特別多数決の条件付きが明記されている)

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海外ではどうなのか

国家緊急権(緊急事態条項)はほとんどの憲法で記載されている。ただ意外なことにアメリカでは憲法に明確な規定がない。ただ、国家緊急事態を宣言することにより、移動の自由や資産の管理など様々な統制を加える事ができる。また、明文化されているドイツやフランス等では権力の暴走を阻止する為に行政への監視機能強化し権力分立を保つ制度が設計されている。

例えばドイツ基本法(憲法)では「国防」の章で、連邦議会の承認により行政権を強化できるとある。但し連邦議会の採決で非常事態を解除することができるなど、一定の抑止力が加えられている。フランスでは国家非常事態が生じた際には大統領の権限が強化されるものの、一定の日数経過後は憲法裁判所の審査により中止させる事が可能だ。

以上のように、国家緊急権の発動に伴い膨大する権力には様々な権力抑制が作用する仕組みを取られている。このことを考慮すれば自民党の緊急事態条項案は濫用の抑止的機能がまだ弱いのではないかとも思えてくる。また、あくまでも国家緊急権は立憲主義に基づき国民の生命と財産を守る為に行使されなければならないものである。このことを考慮した上での憲法議論の活性化に期待したいと思う。

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