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問題と向き合い続けた30年 -日本の少子化政策を振り返る

我が国が深刻な問題として抱えている問題の代表が、「少子化」だ。

おとな研究所では、既になんどもこの「少子高齢化」を扱ってきた。

上の記事では、データから今後の日本はどのように少子高齢化と向き合っていくべきかが示されているが、本稿では日本における過去の少子高齢化の歩みと、その政策を解説していきたい。

年次推移から見る少子化

我が国に限らず、社会保障制度の維持はこれからを担う現役世代が再生産されることが前提だ。しかし近年の出生数及び合計特殊出生率は、昭和40年代後半の第二次ベビーブームを最後に年々急落が続いている。合計特殊出生率とは人口統計上の指標で、一人の女性が出産可能とされる15歳から49歳までに産む子供の数の平均を示すものだ。

特に、2005(平成17)年における過去最低の合計特殊出生率は、少子化がいよいよもって勢いを増していることを如実に物語っている。

政府の少子化対策のはじまり

この時点までに、政府が何の政策も取っていないわけではなかった。少子化対策の嚆矢は1992年の「国民生活白書」の問題提起をきっかけとしている。国民生活白書は内閣府発行の文書で、生活の実態や社会の変化について分析するものだ。(2008年以降は事実上休刊。)

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この2年後には「エンゼルプラン」として知られる『今後の子育て支援のための施策の基本的方向について』が厚生労働省によって策定された。それまで夫婦や家庭の問題とされてきた妊娠・子育て・教育の問題を、社会的な問題として捉える道筋を示したのである。育児休業促進や母子保健医療体制、教育、子育て支援の充実などを盛り込んだ7項目の対応策も同時に掲げられた。さらに1999年には同じく厚生労働省によって「少子化対策推進基本方針」と「新エンゼルプラン」が策定され、エンゼルプランに雇用・地域教育などを盛り込んだ21の項目を掲げている。

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さらに2003年には「次世代育成支援対策法」と「少子化社会対策基本法」が制定された。次世代育成支援対策法は地方自治体と事業者に次世代育成支援のための行動計画の策定を義務付けたもので、少子化社会対策基本法は全閣僚からなる「少子化社会対策会議」の設置と「少子化社会対策大綱」の策定を義務付けたもの。どちらも現在まで引き継がれている。

数多くの政策では事足りず…

しかし前述の過去最低の合計特殊出生率により、内閣府は2006年、「新しい少子化対策について」の策定を迫られた。ここでは社会全体の意識改革と年齢進行ごとの子育て支援策を掲げている。さらに2007年には前述少子化社会対策会議が「「子どもと家族を応援する日本」重点戦略」を策定し、就労と出産・子育てを二者択一させるのではなく、これらの調和を重視する方針を示す。遅すぎるといえばその通りだが、大きな進歩ではあっただろう。「仕事と生活の調和憲章」「仕事と生活の調和推進のための行動指針」として知られる決定もこの際に行われたものだ。

政局の変動と政策の変更

2007年と言えば政局が大きく動いた年でもある。民主党政権の誕生によって、2010年に「子ども・子育てビジョン」が策定。方針を「少子化対策」から「子育て支援」へ視点を移すというものだ。2012年には「子ども・子育て新システムの基本制度について」が少子化社会対策会議決定されたことに伴い、この法律化がすすめられる。最終的に、永田町の駆け引きの中で「三党合意」として知られる社会保障・税一体改革関連法案として税制改革関連法案等とともに、 「子ども・子育て支援新制度関連3法案」(「子ども子育て支援法」、「認定 こども園法の一部改正」、同左2法の施行に伴う関係法令の整備法)が国会で可決・成立。直後に再び政権交代が起こり自民党政権となったものの、これらの3法は現在も子育て支援制度の基軸となっている。

核となる「子ども子育て支援法」は待機児童の増加を背景としており、幼稚園などの施設への「施設型給付」、小規模や家庭的保育への「地域型保育給付」を行い市町村がこの事業計画を定め、地域型保育給付の需要調整の判断基準都市、都道府県も事業計画を定めて施設型給付の需要調整の判断基準とする。国は制度設計と指針策定を行い、市町村にできだけ権限を委譲する地方分権の形がとられた。さらに、認定こども園制度の改善や地域の子供・子育て支援の充実も同時に盛り込まれ、地方公共団体における子育て支援の予算割合は大きく増加した。

これ以外にも、次世代育成支援対策推進法の一部改正による事業優良事業の実施状況把握や「地域少子化対策強化交付金」による結婚・妊娠・出産・育児の地域の実情に合わせた支援や仕組みの構築・情報提供を自治体が取り組む制度が整備されている。また、結婚・子育て・教育に係る一括贈与の贈与税非課税も行われている。これは挙式費用や新居住宅費から、不妊治療費用や出産費用・産後ケア、子供の医療・保育費から教育費まで、子や孫への贈与を上限を設けて非課税とするもので、分野を超えた取り組みがなされている。

課題は多い。

日本の社会構造として、雇用制度が固定化されていることや支援の形態が現金給付である点などが、合計特殊出生率に直接的な影響を及ぼしているという批判もある。事実、高い出生率を維持している国々では民間の保育サービスが発達しており、また再雇用や子育て前後のキャリア継続が容易であることから、男性の家事参加の容易性も指摘されている。

さらに、現物給付だ。日本における家族関係の政府支出のうち、現金給付は65%を占めるのに対し、合計特殊出生率が高いフランスやスウェーデンなどでは現物支給が6割近くを占める。これについては制度そのものの見直しを大きくする必要はなく、我が国も現物支給による直接的な支援の仕組みを構築するべきではないだろうか。

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先述の地域に重きを置いた政策という観点では、数多く存在する民間企業やコミュニティなどを活かすことも可能であるはずだ。こういう部分こそ市場原理を生かし、合理化を図るべきだと考える。

参考文献

川本敏「少子化対策の現状と効果的な対策の推進」(『白鷗大学論集 第32巻第2号』白鳳大学 2018年)

衣笠葉子「子ども・子育て支援新制度を契機とした国と地方の 役割・権限の変化と保育の実施義務」(『社会保障研究 vol. 3 no. 2』国立社会保障・人口問題研究所 2018年)

内閣府「平成30年度少子化の状況及び 少子化への対処施策の概況 (令和元年版少子化社会対策白書)」

「内閣府 選択する未来 ―人口推計から見えてくる未来像―」2020年7月25日アクセス

https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/future/sentaku/index.html

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「厚生労働省 平成28年人口動態統計月報年計(概数)の概況」2020年7月25日アクセス

https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai16/index.html