自民党保守派の大きな矛盾 今こそ考える「こども基本法」の意義とは ーこども政策特集【2】

政局が政策を置き去りにする様子を、国民は何度も目にしてきた。

社会を動かす次の担い手たちがまた、その光景を目にしているのである。

一体的な「こども政策」の議論が、国政壇上においてようやく本格的に始まっている。与党間協議に始まり、党内PTでのやりとりは多くのメディアが取り上げるなど、少しずつではあるが、確実に注目されている話題でもある。

しかしどうだろう。その議論は、「こどもまんなか」「Children First」というコンセプト、原点を無視しているものになってはいないだろうか。

自民党内の現況としては、政府法案として「こども家庭庁設置法案」を了承。議論は、議員立法として提出される「こども基本法」へと移っている。

この中では議論の本筋が次々にぶれて、成立理念そのものが揺るがされかねないような発言が、与党議員から飛び出していることも事実である。筆者は「こども家庭庁」の名称に関して、既に記事を出している。

関連記事:「こども家庭庁」への名称変更を絶対に認めてはいけない理由 -こども政策特集【1】

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ぜひこちらもご一読いただき、今国会で予定されている「こども政策」の議論について、本稿で理解を深めていただければ幸いだ。

我が国のこども政策に関する前提

そもそも、「こども基本法」の“基本法”とは何を言うのか確認しておきたい。

一般的には、基本法とは、国政に重要なウェイトを占める分野について国の制度、政策、対策に関する基本方針・原則・準則・大綱を明示したものであるといわれています。もちろん、「基本法」という名称が付かない法律にもこうした性格を有するものはありますが、題名に「基本法」という名称をもつ法律は、後述のように、一定の共通する特質を有しており、一般の法律と比べ特徴的な法形式であるということができます。

参議院法制局

つまり、行政がある施策を行う際、それが包括的・総合的なものであることに重要な意味がある事柄について定められる法律というわけだ。例として、「教育基本法」「復興基本法」「男女共同参画社会基本法」などがある。

まずもって、「こども政策」に関する基本法が存在しないという問題がある。施策の上では「児童福祉」「母子保健」「教育」「少子化対策」「虐待防止」「貧困対策」など、個別政策でそれぞれ法律が存在するものの、その権利主体が異なるため、一体的な運用ができない。

さらに、それぞれ内閣府・文科省・厚労省が異なる役割で、こども政策全般に関する所管省庁が明確ではないことから、横断的な施策も困難だ。

一方、「障害者基本法」や先述の「男女共同参画社会基本法」はそれぞれ、障がい者政策・ジェンダー政策の指針になる「基本法」である。これらの前提には、「障害者権利条約」や「女子差別撤廃条約」といった国際的な取り決めが、さらにその上位には憲法で定められた権利が位置し、その権利を保障している。

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子ども基本法WEBサイト より

こども政策の上で重視されるのは、「子どもの権利」を定めた国際的取り決めである「子どもの権利条約」だ。我が国における知名度は低いが、日本は1994年に批准している。

同条約では、18歳未満の子どもを「権利をもつ主体」と位置づけ、その人権を守る上での「子どもの権利」を定めている。

具体的には、全ての子どもの命が守られる「生きる権利」、医療や教育、生活への支援を受けて伸び伸びと成長できる「育つ権利」、暴力や搾取、労働から「守られる権利」、自由に意見を表明し活動できる「参加する権利」の4つからなるものだ。

子どもの権利について|仙台市

また、「生命、生存及び発達に対する権利」「子供の最善の利益」「子どもの意見の尊重」「差別の禁止」といった一般原則も定められている。

この条約は国際連合子どもの権利委員会国際連合児童基金(UNICEF)に、条約内容の実施に関する批准各国への助言、検討などの専門的な役割を与えている。また、批准各国には子どもの権利を実現するための国内法整備などを進める義務があるとされている。

ここまでが、前提となる点だ。

なぜ今「こども基本法」が必要なのか

まずはこれらのグラフを見てほしい。

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表題の通りであるが、上のグラフは児童生徒の自殺数の推移、下のグラフは児童相談所での児童虐待相談件数の推移である。

2020年度の文科省・厚労省調査によれば、自殺した児童生徒は400人を超え、児童虐待の相談対応件数も20万件超という信じがたい数字を出している。いずれも過去最多だ。

いじめや不登校も減ることはなく、コロナ禍による行事や登校日そのものの減少、他者との交わりの減少はそれらを加速させていると言われている。

さらに、昨今の教育DX促進による副作用に対し、適切な対処ができていないという看過できない問題もある。

関連記事:町田市で小6女児自死 -GIGAスクール構想の問題点を放置したことが最悪の事態を招いた

無論グラフに代表されるような状況はコロナ禍よりも前から起こっており、こどもを取り巻く環境の悪化は、制度上・構造上の問題であることに疑いの余地がない。「国連子どもの権利委員会」は日本に対して度重なる是正勧告を行っており、2019年には以下の所見が示されている。

総括所見は、条約に基づき日本がとるべき措置について、多岐にわたる勧告を列挙しました。とりわけ、緊急措置をとるべき分野として、差別の禁止、子どもの意見の尊重、体罰、家庭環境を奪われた子ども、リプロダクティブヘルスおよび精神保健、少年司法に関する課題をあげています。

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国連子どもの権利委員会、日本への勧告を公表(2月7日) | ヒューライツ大阪

これら分野への対策としては、いずれも民法・刑法や児童虐待防止法などの個別法改正では事足りない。そもそも前述のような、こども政策全般に関する一般法が存在しないことによる弊害が、大きいことは言うまでもないだろう。

こどもの権利を守るための法律が存在しないなど、言語道断なのだ。

そうした状況の中で、こども庁の議論が自民党で湧き上がる。同庁の設置法案が自民党内で了承を得て政府にボールが投げられた今、議員立法として成立される「こども基本法」の中身が注目されるのである。

関連記事:「こども家庭庁」への名称変更を絶対に認めてはいけない理由 -こども政策特集【1】

「こども基本法」の中身と、見送られた”こどもコミッショナー”

こども家庭庁の役割については設置法が既に党内で了承されており、こちらに関する議論(役割や名称問題など)は「関連記事」を読んでいただきたい。

こども基本法に関する議論を主導してきた日本財団作成のHPによれば、全4章に分けた上でそれぞれ

  • 総則:立法目的、「こども」の定義、基本理念(子どもの権利条約を踏襲)、国の責務などを明記
  • 基本的施策:国による基本計画策定、子どもを主体とした制度設計、教育充実・データベース構築、財政支援などを明記
  • こどもコミッショナーの設置
  • 附則

を定めるという。基本的施策の中では、基本理念の「子どもの意見が尊重され、子どもが主体的に参加する権利」を踏まえて、「子どもを権利の主体としたあらゆる政策を立案する過程には、子どもの参画を必須とする旨を規定」を設ける。

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そして、この法案の柱・肝であったはずの構想が、いわゆる「こどもコミッショナー」である。

この法律の大きな柱となるのが、第三者機関「こどもコミッショナー」の創設だ。いじめや虐待対策のチェック機能や政策提言を行い、国への勧告権を持たせることなどを想定。国会での議論では、政府の外局として、原子力規制委員会のような国家行政組織法の三条委員会とすることも検討されている。コミッショナーは行政機関に対する調査権を持ち、勧告された機関は報告義務を負い、国会に対し政策提言もできるとしている。

マルクス主義?左派的?「こども基本法」に自民党保守派が異論を唱えるワケ:東京新聞 TOKYO Web

こども家庭庁ないしこども庁と、この「こどもコミッショナー」の違いが分かりづらい人もいると思う。

こども家庭庁が「省庁」で、その主要な役割が施策・企画の立案や総合調整、情報の一本化などにあるのに対し、こどもコミッショナーはそれ自体が独立した機関として、各行政機関に対する強い調査権・勧告権を有するものである。

政府から距離を保った組織であるため、そのメンバーも第三者である非官僚・有識者が入ることになる。発達段階のこどもは弱い立場にあり、自らの権利を自らの手で守ることが困難だ。選挙権もなく、ましてや何かしらの権利が侵害された場合には、裁判を起こしたり自ら行政機関に訴え出ることも難しいだろう。

そして、そうした事例は決して少なくない。例えばいじめや児童虐待が発覚するしないの瀬戸際で、学校や教育委員会、児相、自治体が適切な判断をすることができず、より事態を悪化させたケースも多い。

こういった場合に直面した時に、子どもの声を代弁し、子どもにとっての「最後の砦」として、政策が真に子ども目線のものになっているかチェックする役割を果たすのが、「こどもコミッショナー」である。子どもの権利条約批准国の多くが導入し、制度を活用している。

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日本においても引用記事の通り、「委員会」格でチェック機関と位置づけ基本法に盛り込まれることで、新設のメドが立つはずだった。そのはずだったのである。

自民党は、子供政策の司令塔「こども家庭庁」の発足に合わせて検討している議員立法「こども基本法案(仮称)」で焦点となっている子供の権利に関する調査・勧告を行う第三者機関「コミッショナー」について、法案への明記を見送る方向で調整に入った。子育てへの過度な干渉につながりかねないとして党内から慎重論が噴出し、意見集約が困難と判断した。複数の関係者が22日、明らかにした。

<独自>自民、こども基本法「コミッショナー」明記見送りへ(産経新聞) – Yahoo!ニュース

なぜか飛び交う「左派」「マルクス主義」という言葉

一体どのような反対論があったのだろうか。

一部では「理念法に第三者機関の規定はなじまない」「メンバー選任方式の検討が不十分」といった建設的な批判も見受けられるが、報道で登場する反対論の多くが以下のようなものである。

時事通信によると、自民党内の「こども・若者輝く未来実現会議」では、たとえばこのような反対意見があがっているという。

「左派の考え方だ。恣意的運用や暴走の心配があり、誤った子ども中心主義にならないか」(山谷えり子・参議院議員)

「個人を大事にし、それを拘束するものは悪であるというマルクス主義思想があり、制度を作ったらそういう人たちばっかりだったみたいなことになる」(城内実・衆議院議員)

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また、毎日新聞と共同通信によると、「家庭の中に第三者の権力が入り、家庭教育の自主性がゆがめられかねない」「大人の注意を『虐待だ』と通報する子どもが出たら、どうするのか」という意見もあったという。

賛成議員もいるが、議論は紛糾。「提出に慎重論目立つ」(産経新聞)と後ろ向きに報じるメディアもある。

「子どものことなんか1ミリも…」専門家が“自民党保守派”に苦言 「家族を分断」「左翼」とこども基本法に反発|BuzzFeed Japan

自民党内の「保守派」による「こどもコミッショナー」への反対論は、法案そのものへの反対論や「こども家庭基本法」への改称検討といった論にも飛び火していたことが複数の報道で明らかになっている。

まずもって、ここまでの「子どもの権利」「こども基本法」「こどもコミッショナー」の議論のどこに「マルクス主義」「左派の思想」があったのか不明である。また「家庭の中に第三者の権力…」云々とあるが、そもそも「子どもが居る場所が家庭」という発想自体に間違いがないだろうか。どうして「家庭教育」の在り方だけが正しく、「地域社会や識者による見守り」がすべて誤っていることになるのだろうか。

全く合理的な説明とは言えない。

こうした自民党保守派の反対論に対し、「困惑したとしか言いようがない」と苦笑するのは日本大学文理学部の末冨芳教授(教育行政学)。「これから何重もの議論が必要なことでもあり、一体何を懸念しているのか」 末冨さんら有識者や市民団体らは18日、危機感を持ち、こども基本法の実現を求め、急きょ記者会見を開いた。「マルクス主義とか左派的とか…。何か陰謀論に近いような議論もあって、子どもの視点からはずれている。こどもコミッショナーは一足飛びではいかない課題で、ここから丁寧な議論が必要になる。根幹に関わる大事な時に、右か左かの議論ではないはず」 末冨さんとともに会見した「日本若者協議会」の室橋祐貴代表理事(33)も「左派的って何なのか。よくわからない表現。コミッショナー制度は欧州を中心に多くの国ですでに進められている。もしその『左派的』というのが問題なら、世界ですでに課題となっているはずだが、聞いたことがない」と話す。

マルクス主義?左派的?「こども基本法」に自民党保守派が異論を唱えるワケ:東京新聞 TOKYO Web

本稿においても末冨・室橋両氏の論を支持するわけだが、両氏の論を幾分か補強したい。

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先述の城内議員の発言だが、「個人を大事にし、それを拘束するものは悪であるというマルクス主義思想があり…」云々。「個人を大事にする」ことを主眼とするのが、こども基本法ないしこどもコミッショナーであるということは正しい。

しかし、「個人を大事にし、それを拘束するのは悪である」というのはむしろリベラリズム・自由主義の考え方であり、マルクス主義・全体主義とは真逆の思想のはずだ。ここに山谷議員の「恣意的運用や暴走の心配があり、誤った子ども中心主義にならないか」という発言を当てはめるとその矛盾が際立つだろう。

彼らが言う「誤った子ども中心主義」になることを恐れて、「子どものことは家庭に押し付ける」「家庭を持たない、あるいは家庭に居場所がない子どもは見ないふり」「子どもの権利は不明確なまま」という状況を続けることに、一体何の意味があるのだろう。そうすることで、一体どこに筋を通したことになるのか。

「保守派」が一体何を「保守」しようとしているのか、未だわからないままである。

守るべきは、かつて無いほど危険に晒された、子どもたちの人権のはずだ。

参考サイト

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清水 あきひとおとな研究所 編集長

投稿者プロフィール

ライターページ
おとな研究所 編集長
早稲田大学文学部 1年。こども若者政策メディア「madaminu」主幹。バイセクシャル。

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