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KOKKAI-204 #2 令和2年度第3次補正予算を徹底解説

シリーズ「KOKKAI-204」では、今月から始まった第204回国会の状況を追っている。

前回記事:KOKKAI-204 #1 日程と目玉法案

今回は、今日衆議院本会議で成立した「令和2年度第3次補正予算」の解説をしていこうと思う。

明日、明後日と参議院での審議を経て28日に通過する見通しの補正予算案。政府は通常国会冒頭より「月内の成立を目指す」としていただけに、体面を保った形となった。

「GoTo予算が入っていることは不謹慎」なのか。

解説に入る前に、本補正予算の審議が始まった今日の衆議院予算委員会で、野党第一党である立憲民主党の小川淳也衆議院議員が信じ難い発言をしたことに触れておきたい。

三浦瑠麗氏が言うように、Gotoキャンペーン予算そのものへの賛否は国会議員にも国民にも個々人それぞれ意見はあろう。だが、仮にもコロナ禍で苦しむ観光産業への対応策として、1兆300億円もの予算が計上されているのだ。それをおいて「不謹慎」とは何事だろうか。

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コロナ禍そのものが前代未聞の事態であることは誰にも疑いようがない。しかし自粛や緊急事態宣言のもと、「不要不急」とされて事業継続どころか生活まで危うくなった人は大勢いる。そのような業種に対する支援策を「不謹慎」などという言葉で表現することは、国会議員の信義にもとるのではないだろうか。

大変残念だし、悲しいとしか言いようがない。

では本題に入ろう。

施策の解説

補正予算がなにか、といったことやこれらの背景の解説はあとに回すとして、まずは予算に含まれる各項目を解説しよう。全体額は19兆1761億円で、特別会計と合わせると21兆円にのぼる。内訳は以下の通りだ。

新型コロナウイルス対策…約4兆円

当然盛り込まれているのが新型コロナ対策。一言で言えば単純だが、その内容は多岐にわたる。

具体的には、医療提供体制の確保と医療機関等への⽀援(1兆6447億円)、検査体制の充実やワクチン体制の整備(8204億円)。

地方創生交付金と東京オリンピック・パラリンピックからなる感染対策事業(1兆7487億円)、そして国際機関を通じたアフリカ、アジアなどへの感染症対策支援(1444億円)だ。

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経済構造の転換・好循環の実現…約11兆円

菅政権の看板製作と言っても過言ではない政策が並ぶ「経済構造の転換」には実に11兆円を超える予算が組み込まれていて、存在感を示している。

新たな省庁を設置してまで取り組む「デジタル改革」関連と、カーボンニュートラルを含む規制型政策を軸にした「グリーン社会」関連で、合わせて2兆8256億円を計上。

新時代の経済構造へ転換するための企業・事業支援や⼤学ファンドを含む予算には2兆3959億円。

そして最も議論を読んでいる「地域・社会・雇⽤における⺠需主導の好循環の実現」では以下が挙げられている。

  • 中⼩・⼩規模事業者等への資⾦繰り⽀援〔32,049億円〕
  • 地⽅創⽣臨時交付⾦(再掲)
  • Go To トラベル〔10,311億円〕、Go To イート〔515億円〕
  • 雇⽤調整助成⾦の特例措置〔5,430億円〕
  • 緊急⼩⼝資⾦等の特例措置〔4,199億円〕
  • 観光(インバウンド復活に向けた基盤整備)〔650億円〕
  • 不妊治療に係る助成措置の拡充〔370億円〕
  • ⽔⽥の畑地化・汎⽤化・⼤区画化等による⾼収益化の推進〔700億円〕
  • 新型コロナウイルス感染症セーフティネット強化交付⾦(⽣活困窮者⽀援・⾃殺対策等)〔140億円〕等

これらのみで6兆4551円、補正予算全体の34%にのぼる。否定的な見方も強いが、従来の財政政策が公共事業を中心にしたものだったことに対し、新たな投資への道を開いたことの意義は大きいだろう。

国土強靭化…約3兆円

「防災・減災、国⼟強靱化の推進など安全・安⼼の確保」と銘打って展開される予算は、昔ながらの自民党の持つ強み、「公共事業の展開」だ。もともと2019、2020 年度の当初予算では、消費税率の引き上げに伴う需要対策のために公共投資を臨時措置として行っていた。あくまで時限的な取り組みだったため来年度予算で終了する予定となっていたが、コロナ禍でさらに需要冷え込みが予想されるため、今回の補正予算や来年度当初予算でも盛り込まれるだろう。

1兆6000億円の公共事業が中心となっているが、昨年以降自衛隊の統合起動防衛力強化に伴う運用体制の確保に3000億円が計上されるなど、国防マターも忘れない。

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その他

このほか、1兆円近くの特別会計も存在する。労働保険特別会計において9,320億円。エネルギー対策特別会計において169億円の歳出追加等を計上。また国費に加え、国際分担⾦等の追加財政需要252億円等も計上されている。

令和2年度第3次補正予算の意義

コロナ禍における「補正予算」

そもそも「補正予算」とは、年始めの通常国会が始まった後に審議される次年度の「当初予算」が成立した後、なんらかの理由で当初予算通りの執行が困難になった場合に、内容を変更するために組まれる予算。

「令和2年度」の予算であるため、執行は当然年度内である。今回の場合では、再来月の3月までに必要と判断される予算のみが組まれるものだということだ。

また近年では、「15ヶ月予算」という形が常態化している。これは、年始めのこの時期に「今年度補正予算」と「来年度当初予算」を同時に編成することで、年度の変更を待つ1月から3月も、切れ目なく歳出需要に対応するために行われる。

特に今回のような緊急事態にあって、補正予算と当初予算を同時に成立させることは、消費や投資を市場に対して喚起する絶好の機会なのだ。

来年度当初予算についてはまた別の機会で解説するが、プライマリーバランスを意識してか、緊急時としては相当「緊縮的」な規模だ。また当初予算は長期的な制度設計・財政計画に直接関わるため、慎重かつ厳重な検討が求められる一方、補正予算はある程度自由が効くという側面も持っている。

そういったことを踏まえた上で、今回の補正予算も見ていくべきだろう。

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与野党の認識のズレ

先程述べた立憲民主党含め、本日の衆議院予算委員会では全ての野党が政府案に反対するか、賛成をしても対案を出す対応をとった。

各党規模は異なるものの、相当額の見直しを要求している。

約6兆円もの予算を「含むべきでない」と断じているのは立憲民主党だ。日本共産党とともに、本補正予算案に強硬に反対している。

どうしてここまで認識がずれるのだろうか。

そもそも与野党であるという関係を抜きにして考えれば、この緊急時における補正予算への捉え方が異なっていることが挙げられる。

政府としては、この補正予算案が閣議決定される直前に閣議決定された「国民の命と暮らしを守る安心と希望のための総合経済対策(以下 統合経済対策)」の裏付け、という意味合いが強い。これが閣議決定されたのは昨年12月8日で、2度目の緊急事態宣言が11都府県に発令される1ヶ月も前のことだ。

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確かにその状況だけ考えれば、この3ヶ月間で緊急に必要とは言い難い費目があるのも事実だろう。緊急事態宣言下とあって、GoToトラベルやマイナンバー、国土強靭などと聞けば「とんでもない」と考える人の心情も理解できなくはない。

ただ、先程も述べた統合経済対策では産業構造・社会構造の転換こそが国民生活を守るのだ、としている。そしてこれはこの3ヶ月間で行うというのではなく、中長期的なものとして捉えているのだ。

つまり、仮にコロナ禍が一定の収束を見たとしても、経済状況が悲惨では次への備えすらできない。アフターコロナ・ウィズコロナでも対応可能な社会構造への転換を推し進めるということに、本補正予算案の意義を見出している。

毎年度補正予算の推移を見ても、今年度の補正予算の増え方が莫大なものであることは明らかだろう。

また、「統合経済対策」としてみても、相当の額であることが伺える。

だが当然課題もある。4月・5月に行われた全国一律給付などの措置は見送られるなど、足元の経済状況の揺らぎに対応しきれるかだ。

野党のうち、国民民主党は立憲民主党案とは別の独自の組み換え案を提出するなど、給付案の具体策は永田町でもおおっぴらになっている。

独自案提出は日本維新の会も行った。学生やひとり親など、本当に支援が必要な人々への具体策や、感染症対策についてはICT化を含む空港での水際対策など実効性の高いものを挙げている。

今後医療体制が逼迫化しこうした部分が必要になった場合は当然予備費を回すことになるが、対応の遅さが目立つ菅政権が当初予算や特措法改正などに取り組みながらこうした柔軟な措置を講ずることができるのかが問われるだろう。すが政権にはぜひ状況を見て、時には野党の考えも取り入れながら必要な対策を講じていくことを強く望む。

参考

令和2年度一般会計補正予算(第3号)フレーム

令和2年度補正予算(第3号)の概要

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令和2年度一般会計補正予算(第3号)等について

第204回国会における麻生財務大臣の財政演説

以上財務省

2020 年度第3次補正予算のポイント

73 兆円経済対策の解剖

以上第一生命経済研究所

国民の命と暮らしを守る安心と希望のための総合経済対策 (内閣府)

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GoToトラベル「1兆円の予算計上は不謹慎」野党追及 (テレ朝NEWS)

15カ月予算とは 補正と翌年度当初を一体編成 (日本経済新聞)

第3次補正予算案 閣議決定 追加の歳出19兆円余 (NHK)

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