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臨時国会召集されず。経緯と背景を追う

与党・自由民主党の森山裕国会対策委員長は4日、野党第一党である立憲民主党の安住淳国会対策委員長と会談し、野党統一会派が求める「日本国憲法53条に基づく速やかな臨時国会の召集」を拒否することを伝えた。

時事ドットコム 『臨時国会の早期召集応ぜず 政府・与党、秋以降で検討

朝日新聞デジタル 『政府・与党、臨時国会は10月以降 早期召集要求応ぜず

3日の時点で森山委員長は政府与党連絡会議において「イギリスのEU離脱を受けた日英通商協定が大筋合意した場合は、協定案の承認手続きのために臨時国会を開く必要がある」との認識を示していて、政権幹部も「開会は早くても10月下旬」と述べていたことから、委員長会談の前から状況は絶望的であった。

要求に至るまでの時系列

今回がそうであるように、臨時国会の召集については憲法53条の規定に基づくものである。

内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。いづれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない。

日本国憲法 第五十三条

時系列から確認しよう。先月29日の夜、立憲民主党・国民民主党・日本共産党・社会民主党の4党党首が、大島理森衆議院議長の議長公邸で会食する。すでにこの時点で、「豪雨災害や新型コロナウイルス対応のため、早期に臨時国会を召集するべき」との意見が上がっていた。

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翌30日、4党党首は再度会談し、31日に国会内で憲法53条に基づく臨時国会の召集要請を行うことで一致した。

NHK 『野党側 きょう党首会談 あすにも臨時国会召集要求へ

そして31日午前10時、4党の議員に無所属議員を含めた131人の代議士の連名と共に、4党とグループ「社会保障を立て直す国民会議」の国対委員長が大島議長に以下の文書を手渡す。

要請後に行われたぶら下がり会見で、安住国対委員長は大島議長も臨時国会召集に肯定的だったことを語る。さらに弊所独自の情報筋でも、総理周辺の認識も含めて臨時国会召集が可能だという見方が強まった。

しかし、与党内では森山委員長が「臨時国会で何の審議をするのかがまだ定かではない」と述べる。確かに、要求書の中には具体的に審議したい法案や条約が明記されていなかった。

TBS NEWS 『「憲法53条に基づき臨時国会召集を」野党が議長に要求

8月に入ってからも与野党で意見表明が続く(後述)。しかし、早くも3日に政府・与党は臨時国会を「10月下旬」に召集する方針を固めた。現在に至る。

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53条を巡る過去の経緯

先述の通り、今回の開会要求は憲法53条に基づくものだ。条文に明らかな条件は「いづれかの議院の総議員の四分の一以上」で、今回はそれを満たしている(衆議院議員131名)。単純に考えればこの要求を退けるということは「憲法違反」になるわけだが、これには若干の留保が必要である。

というのも、臨時国会の召集がなされなかった例は過去にもあるからだ。うち二回は小泉政権下の2003年と2005年。後の一回は2015年である。

これらの共通点は、要求が行われたのがそれぞれ11月、11月、10月で年末ということ。2003年の内閣法制局長官の答弁によれば、「合理的な期間内に常会が召集される場合には、臨時会を召集しなくても憲法違反にはならない」としている。年明けに通常国会が行われることから、臨時国会の必要性はない、という判断だというわけである。

憲法を見返しても、「国会を召集」するのであって、国会の機能が本質的に変わらない以上は召集されるのが臨時会であろうが常会であろうが特別会であろうが、本条の問題とするところではないとする学説もある。

この是非はともかく、事実として臨時会が開かれなかったことはあるのだから、これらについてはひとまず認めるとしよう。

しかし、今回の事例と照合すると、その整合性が取れない部分もある。まず、政府与党の関係者が口々に言うのは「10月以降」「10月下旬」という言葉。10月といえばまさに2015年10月、野党が臨時国会の召集を求めた際に政府が「年明けに通常国会を開く」とかわした月なのである。今回は逆に「10月以降」とした。政府がこの時期に拘るのは9月の内閣改造・党役員人事を想定したものである、というのが大勢である。

キーとなる「那覇地裁判決」

さらに野党側の主張として特筆すべき点は、今年6月に下された那覇地裁による判決である。この訴訟では2017年に安倍政権が臨時国会の召集を要求された際、3か月間応じなかったことが違憲か否かが問われた。判決では野党議員による損害賠償請求が棄却され憲法判断も示されなかったものの、一般論として以下の司法認識が示された。

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  • 憲法53条は少数派の国会議員の主導による議会の開催を可能にする目的がある。
  • 内閣には、要求を受けた場合には合理的期間内に臨時国会を召集する憲法上の義務がある。
  • これに関する内閣による裁量権の余地は極めて乏しく、認められるとしても限定的である。
  • 単なる政治的な義務にとどまらず、法的義務があると解される。召集しない場合には違憲と評価される余地があるといえる。

今回の要求書の結びにもこの判決は引用されており、極めて重要な意味を持つといえるだろう。

東京新聞 『臨時国会召集は「憲法上の義務」 那覇地裁判決を受け、野党が会期延長要求の構え

また、訴訟の原因となった2017年の臨時国会は召集当日に衆議院が解散される「冒頭解散」をされており、政局が動いて大きく野党不利に傾いたことから、野党側としても因縁の事案なのだ。

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重要なのは「何を議論するのか」

先述の通り、政府与党関係者はしきりに「何を議論するのか」「審議する案件がない」とけん制し続けた。彼らには「日英通商協定」というカードがあり、これを前面に出すことで政治的な賭けに勝った形だ。

一方野党側は要求書に審議したい内容を明文化しなかった。踊る言葉は「説明責任」「GoToトラベル」。公明党幹部は次のように述べている。「野党の質問は、マスクとか(政府の観光支援策)『GoToトラベル』とか政権批判ばかりだ。そのために国会を開くのはどうか」

野党が全く具体的な提案をしていないわけではなかった。国民民主党の玉木雄一郎代表は、緊急事態宣言の根拠法である新型インフルエンザ等対策特別措置法の改正をたびたび主張しており、具体的な内容を多く含んだ提案も行っている。

玉木雄一郎オフィシャルブログ 『感染拡大防止には感染症法と特措法の改正が必要だ

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これに関しては与党内でも類似の意見が出ている。

「PCR検査の拡充についても、あるいは病床の拡大・充実についても、しっかりと具体的な対応を示して、国民の安心・安全に繋げていかなければいけない」(岸田文雄政調会長)

TBS NEWS 『自民党内から臨時国会召集求める声、“コロナ特措法”改正で

先述の通り議長も肯定的だったのだから、政策を前面に押し出すことができれば、召集も不可能ではなかったはずだ。

日本国未曽有の事態だからこそ、与野党問わず「政策本位」の議論・国会が必要であることは明白なのである。

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