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【編集部記事】「ジェンダー政策」は本当に選挙ウケが悪いのか?!

2021年の衆議院選挙では、野党を中心にジェンダー/セクシュアリティの問題についての政策を目玉として掲げていた。しかしながら、野党は現与党である自民党に惨敗、その原因を「声高に取り上げたジェンダー問題に有権者の関心がなかった」こととするメディアも散見された。果たして本当にジェンダー問題をはじめ、多様性を意識した政策は「有権者にウケない」のだろうか。各党の公約も交えつつ、解説する。

前回の選挙戦で各党が打ち出した政策と結果

まずは、2021年10月の衆議院選挙で各党が打ち出したジェンダー/セクシュアリティ関連政策を振り返ろう。ここでは、当研究所が解説した記事を参考にする。主に争点となったのは、選択的夫婦別姓と同性婚に関する取り扱いであった。

参考記事:衆院解散、総選挙へ— 各党の公約と政策を分析(①与党編 自民党・公明党)

参考記事:衆院解散、総選挙へー 各党の公約と政策を分析(②野党編 立憲民主党・共産党)

参考記事:国民民主党衆院選公約を徹底分析!② 「比例は国民民主」でガソリン代が安くなる!

自民党

  • 同性婚:言及なし
  • 選択的夫婦別姓:言及なし(党内では旧姓使用を拡大すべきとの意見も)
  • 結果:議席56%獲得

公明党

  • 同性婚:自治体パートナーシップ制度の拡充(婚姻制度ではない)
  • 選択的夫婦別姓:ジェンダー平等/人権を守る観点から賛成
  • 結果:議席7%獲得(自公で63%)

立憲民主党

  • 同性婚:LGBT平等法を整備し、同性婚を組み込む
  • 選択的夫婦別姓:ジェンダー平等の観点から制度の法制化を図る
  • 結果:議席20%獲得

共産党

  • 同性婚:民法の改正で実現を目指す
  • 選択的夫婦別姓:民法の改正で導入を目指す
  • 結果:議席2%獲得

国民民主党

  • 改憲草案に「同性婚を保障することの明示」という案がある
  • 選択的夫婦別姓の実現
  • 結果:議席2%獲得

人々のジェンダーへの関心

ここで、選挙が関連していない場合、人々がジェンダー/セクシュアリティについてどのような意識を抱いているのか世論を見ていこう。

2021年に電通が18歳以上に対して行った調査によると、「社会で男性の方が優遇されていると思っている(=女性差別が残っている)」と認識している人の割合は64.6%にものぼった。

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また、「日本はジェンダー平等に向けて真剣に取り組むべきだ」と述べた人の割合は8割に近く、「有権者はジェンダー平等についての政策に関心がない」という言説が詭弁であることがわかるだろう。

より具体的な政策に関する質問として、「夫婦別姓」「クオータ制」「緊急避妊薬の薬局販売」について積極的に賛成した人はそれぞれ42%、38%、58%だった。だからと言って、野党への投票率がこれに即した数字にならないことは明らかである。政党選択にはいくつもの要素が絡み合っているからだ。

つまり、一般に人々はジェンダー平等や性的少数者の権利保護に前向きであり、関心も高いことが読み取れる。決して、「有権者の意識が低いから」ジェンダー関連政策に基づいた投票が行われなかったわけではないのだ。

政党選択に影響を及ぼしている要素とは

前提の要素がやっと揃ったところで、「ジェンダー政策は有権者にウケない」という言説が流布されることとなった原因を考察していこう。

ジェンダー政策の過小評価ではなく、他の分野が優先された

「政党選択にはいくつもの要素が絡み合っている」と述べたが、これが最も明確な理由だろう。日常生活を生きる国民にとって、最重要とされる課題は経済や雇用に関する問題なのである。また、少し政治に詳しい人であれば、外交問題などに対する評価も行うだろう。悲しい哉、人間が生まれながらにしてもつ「人権」よりも、今日の寝床、明日の食事を優先するのが人間であり、経済分野の政策が、有権者の選択により大きなウェイトを占めたと考察できる。

「本気度」が見えない野党の取り組み

また、ジェンダー/セクシュアリティ関連政策を目玉とした野党の活動に、平等を目指す姿勢が見えなかったことも原因のひとつかもしれない。例として挙げられるのは、候補者の女性比率や政策のアピール方法である。2021年衆院選での立憲民主党の女性候補者比率は18%に留まった。

また、野党の党首や候補者が政策について主張する際、「多様性」や「SDGs」など、メディアでよく用いられる「綺麗な」言葉でまとめ上げてしまい、本質の問題である女性差別や賃金格差に言及しなかったことを指摘する意見もあった。

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このような野党の日和見な様子から、見切りをつけてしまった、ジェンダー問題の解決を望んでいる有権者もいたかもしれない。

「現状維持」を好む若者

最後に、年齢別で見た際に、10代から20代の自民党への投票率が最も高いことに言及しておきたい。政治に関心をもつ「意識高い系」の若者に対する一般的なイメージには反しているように思えるだろうが、どのような理由があるのだろうか。

「政治の変化を望まず、安定を重視する若者が多いことが自民党支持の広がりにつながっているのではないか」

参考:なぜ若者は自民党に投票するのか?|NHK政治マガジン

NHKによる取材に、「学校総選挙プロジェクト」のプロジェクトリーダーである石井大樹さんはこのように述べた。現政権に大した不満がなく、政権交代による混乱などを避けようとする心理から、現状維持を望む若者が増えているとのことだった。環境問題やジェンダー平等に関心を払っていても、このような理由から総合的に判断し、現与党に投票した若者がいたのだと言える。

ジェンダー政策は「ウケ始め」かもしれない

ここまで、ジェンダー/セクシュアリティ関連政策に対する有権者の反応や、ジェンダー政策を代替することになった要素について解説した。

我々が見逃すべきでないのは、ジェンダー政策を主張することで議席を大幅に増やす政党がなかったといえ、そもそもジェンダーやセクシュアリティに関連する問題が選挙の争点になったこと、それ自体が歴史的であるということだ。

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女性選挙権の実現や男女共同参画基本法の制定など、これまでにも長く時間をかけ、多くの人の労力のもとに実現されてきた平等がある。新たな動きの第一歩として、選択的夫婦別姓や同性婚が論点として多くの政治家に口にされ、メディアで報道されたことの価値を認める必要がある。

有権者の理解不足や意識欠如を理由とせず、世間のニーズをより理解し、具体的で実現可能な政策を公約とすることを、今後も政党各位に期待したい。