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夫婦同氏制度合憲判決を読み解く―選択的別姓実現へ

選択的夫婦別姓賛成は反日左翼?

夫婦別姓制度の正体
https://w.atwiki.jp/kolia/pages/913.html

上の記事のように、「選択的夫婦別姓」を導入しようとするやつは左翼だ、反日だ。こういわんばかりの主張が自称保守派からは多い。しかし、最近は「日本維新の会」をはじめ、保守系議員・政党であっても、「選択的夫婦別姓」導入賛成が増えてきている。有名なところでは、音喜多議員(日本維新の会)、足立議員(日本維新の会)、稲田議員(自民党)なども、夫婦別姓導入に前向きである。彼らは反日なのか?
 そんなわけない。答えはこれに尽きる。自称保守派は、夫婦別姓制度を導入すれば、戸籍制度が壊れると主張する。しかし、戸籍制度と選択的夫婦別姓は両立可能なのだ。また、戸籍制度が仮に壊れたとしても、日本の国益が害されるわけではない。むしろ、夫婦同氏制度こそが法律婚を阻んでおり、別姓を選択できるようにすることで、少子化改善に多少はつながる可能性がある。このことの方が、国益にも寄与するだろう。
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/590242/
 なお、選択的夫婦別姓を強く求める人々が、既に、最高裁に「夫婦同氏強制」を違憲だとして、国家賠償訴訟などを提起している。

最高裁の判例を読み解く

民法750条

夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。


 では、裁判所は「夫婦同氏強制」にどのような態度を取っているのか。実は、最高裁が夫婦同氏制を定めた民法750条を合憲だと判断している(平成27年12月16日大法廷判決)。
 今回の記事はこの判決を読み解く、いわば判例評釈である。憲法の条文を片手に持って読んでもらうと、より一層この問題への理解が深まると思う。

(1)夫婦同氏制は憲法13条に反しない
 まず、「結婚に伴って氏の変更を強制されない自由」が憲法13条に反しないかが問題となった。これに関して、最高裁は「氏は,個人の呼称としての意義があり,名とあいまって社会的に個人を他人から識別し特定する機能を有するものであることからすれば,自らの意思のみによって自由に定めたり,又は改めたりすることを認めることは本来の性質に沿わないものであり,一定の統一された基準に従って定められ,又は改められるとすることが不自然な取扱いとはいえないところ,上記のように,氏に,名とは切り離された存在として社会の構成要素である家族の呼称としての意義があることからすれば,氏が,親子関係など一定の身分関係を反映し,婚姻を含めた身分関係の変動に伴って改められることがあり得ることは,その性質上予定されているといえる。」と示し、憲法13条で上記の自由が保障されていない以上、13条との関係で違憲とはいえないと判断した。

(2)夫婦同氏制は憲法14条(法の下の平等)に反しない
 次に、原告側は夫婦同氏制が女性差別にあたるのではないかと主張した。もっとも、一見すると、民法750条は、文言上女性にのみ名字の変更を求めているものであるとは言えない。しかし、日本の慣習上、95%以上の夫婦が、夫の姓を名乗っているのが現実である。それゆえに、ほとんどのケースで女性が氏の変更を強制されていると別姓賛成派の多くが考えている。この問題点が、夫婦同氏制の合憲性をめぐるメインテーマである。
 最高裁は、「夫婦が夫又は妻の氏を称するものとしており,夫婦がいずれの氏を称するかを夫婦となろうとする者の間の協議に委ねているのであって,その文言上性別に基づく法的な差別的取扱いを定めているわけではなく,本件規定の定める夫婦同氏制それ自体に男女間の形式的な不平等が存在するわけではない。我が国において,夫婦となろうとする者の間の個々の協議の結果として夫の氏を選択する夫婦が圧倒的多数を占めることが認められるとしても,それが、本件規定の在り方自体から生じた結果であるということはできない。」と示した。すなわち、夫婦同氏制を規定する民法750条は、形式的に女性を差別しているわけではないから、そもそも「別異取扱い」が無い以上合憲だというのが裁判所の考えだ。
 しかし、最高裁の主張には、あまりに形式的すぎて、実質的な不平等を無視しているという批判がある。

(3)夫婦同氏制は憲法24条(婚姻に関する個人尊重)に反しない
ア 基準の定立
 最高裁は、夫婦同氏制が憲法24条にも反しないと判断した。まずは、「仮に,婚姻及び家族に関する法制度の内容に意に沿わないところがあることを理由として婚姻をしないことを選択した者がいるとしても,これをもって,直ちに上記法制度を定めた法律が婚姻をすることについて憲法24条1項の趣旨に沿わない制約を課したものと評価することはできない」と示し制度上の理由で婚姻を思いとどまる者がいたとしても、直ちに違憲ではないことを確認した。
 そのうえで、「憲法上直接保障された権利とまではいえない人格的利益や実質的平等は,その内容として多様なものが考えられ,それらの実現の在り方は,その時々における社会的条件,国民生活の状況,家族の在り方等との関係において決められる」ことを理由に国会の立法に広範な裁量を与えた。なぜなら、婚姻の自由そのものは憲法上保障されておらず、十分尊重に値するに過ぎないことが、最高裁の考えるところだからである(再婚禁止期間違憲判決参照)。したがって、「憲法24条にも適合するものとして是認されるか否かは,当該法制度の趣旨や同制度を採用することにより生ずる影響につき検討し,当該規定が個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠き,国会の立法裁量の範囲を超えるものとみざるを得ないような場合に当たるか否かという観点から判断すべきもの」という違憲審査の基準を立てた。

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イ 個別的検討
 最高裁は、まず、「親子関係の成立,相続における地位,日常の生活において生ずる取引上の義務などについて,夫婦となっているかいないかによって違いが生ずるような形で夫婦関係が規定されている」という「法律制度としての性格や,現実に夫婦,親子などからなる家族が広く社会の基本的構成要素となっているという事情などから,法律上の仕組みとしての婚姻夫婦も,その他の家族関係と同様,社会の構成員一般からみてもそう複雑でないものとして捉えることができるよう規格化された形で作られていて,個々の当事者の多様な意思に沿って変容させることに対しては抑制的である」と示した。婚姻が二者間のみならず広く社会全般にかかわりうることに鑑み、制度はなるべく画一的に規格化されるべきであるという社会全般の利益を考慮している。
 他方、「夫婦同氏制の下においては,婚姻に伴い,夫婦となろうとする者の一方は必ず氏を改めることになるところ,婚姻によって氏を改める者にとって,そのことによりいわゆるアイデンティティの喪失感を抱いたり,婚姻前の氏を使用する中で形成してきた個人の社会的な信用,評価,名誉感情等を維持することが困難になったりするなどの不利益を受ける場合がある」という、婚姻により改姓を望まない個人の利益をも考慮する。さらに「氏の選択に関し,夫の氏を選択する夫婦が圧倒的多数を占めている現状からすれば,妻となる女性が上記の不利益を受ける場合が多い状況が生じている」という女性に不利な現状も考慮したうえで、「夫婦となろうとする者のいずれかがこれらの不利益を受けることを避けるために,あえて婚姻をしないという選択をする者が存在することもうかがわれる」と述べ、夫婦同氏制が婚姻の妨げになることも認めている。
 もっとも、「夫婦同氏制は,婚姻前の氏を通称として使用することまで許さないというものではなく,近時,婚姻前の氏を通称として使用することが社会的に広まっている」と、通称使用が広まっていることを理由に、「不利益は,このような氏の通称使用が広まることにより一定程度は緩和され得る」と個人の上記不利益は小さいと評価した。

ウ 結論
 以上の理由から、夫婦同氏制は憲法24条2項に違反しないと結論づけた。

(4)判例への批判
 特に24条の論点に関しては、通称使用が広まっていることを理由に、改姓を強いられる個人の不利益を小さく評価するのは誤りだ、という批判が考えられる。なぜなら、通称使用が広まっていると、少なくとも平成27年時点では言えなかったからだ。例えば、この判決を出した裁判所そのものが、平成29年になるまで裁判官に判決書への旧姓使用を認めてこなかったのだ。まさに自己矛盾に満ちた判決だ。他にも私立学校(つまり民間)で旧姓の通称使用を拒否されたという判例もある。広く通称使用が認められていないにもかかわらず、一部で通称使用が認められていることを過度に一般化したとの批判を、この判決は免れることができないだろう。


希望はある 立法府にボールは投げられた

 判例批判は、結論に飛びつくのではなく、以上のように裁判所の矛盾や欺瞞を論理的に批判するという形で行うべきものである。この平成27年12月16日に判決が出た直後、怒り狂ったツイートをした人も然り、性犯罪事件での無罪事件に怒り狂うツイートをした人も然り、結論だけを適示して批判するのは何の生産性もない。感情的に怒るだけなら、アイスやおもちゃを買ってもらえなかった幼稚園児ですらできる。
 もっとも、判例は自己矛盾的な面や事実誤認という点があるものの、ひとつ希望を示した。選択的夫婦別姓について「合理性がないと断ずるものではない」としたうえで、「夫婦同氏制の採用については,嫡出子の仕組みなどの婚姻制度や氏の在り方に対する社会の受け止め方に依拠するところが少なくなく,この点の状況に関する判断を含め,この種の制度の在り方は,国会で論ぜられ,判断されるべき事柄にほかならない」としたのだ。裁判所の事実認定に照らせば、違憲判決を出すことはできないものの、国会で活発に夫婦同氏制の合理性について議論すべきと、積極的な議論を立法府に促したものだと評価できる。
 希望はある。裁判所が違憲判決を出さないのであれば、選択的夫婦別姓の導入を国会議員に求めればいい。選挙前に新聞社による候補者アンケートがある。そこで、ほぼ必ず選択的夫婦別姓の賛否が聞かれているだろう。この問いに賛成した候補に選挙で投票することで、立法府での議論を促すことができる。
 ツイッターで「反対派の意味がわからない」などと過激な主張をする人もいる。しかし、それでは味方になりうる人を減らすだけだ。選択的夫婦別姓賛成派は、ツイッターやデモで過激な主張をするよりも、選択的夫婦別姓導入の議論・勉強会などを積極的に行い、賛成の候補に投票してくれる人を増やした上で、国会の多数派が選択的夫婦別姓賛成となるように努力すべきだろう。

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