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【マクロ経済学を、わかりやすく解説】経済成長の鍵とは?資本と成長

日本は1990年代以降、構造的な低成長に悩まされてきた。これに対して、ツイッターなどでの言論空間では何故これ程長期的な不況が発生したのかと言う議論が巻き起こっている。一部は政府による財政支出が足りないと言い、他者は政府が肥大化したからだ、と主張し、大体の場合は議論が平行線で終わる。

経済成長に関する議論において、そもそも経済成長が起きるメカニズムに対する認識が共有されてないのが現状だ。勿論、成長に関する議論では漠然とGDPが伸びる事=成長と言う理解は共有されているだろう。しかし、成長の仕組み自体を正しく理解しなければ、低成長に対する処方箋などを決められる訳がない。そこで本日は経済の基礎中の基礎、経済成長をもう一回おさらいしていきたいと思う。

GDP(国内総生産)は一年間に国内で生産された財サービス総量の市場価値を指す。即ち、どれだけ「モノ」を経済が消費者に提供できているのかを示す指標だ。GDPは支出で計測されるが、消費と収入は均等である為、GDPは国の収入とも合致する。

GDP│初めてでもわかりやすい用語集│SMBC日興証券

※編集部注

留意すべきのが、GDPは単一的な数字では無く、複数の部門の消費(生産)部門の合算である、と言う事だ。GDPに寄与する部門は一般家庭、政府、そして企業である。これらの部門の生産から、国内消費の輸入分を差し引いて、逆に国内生産の輸入分を足す事でGDPが計算できる。これを式で表すと、以下の通りとなる。

  • Y=収入=消費=GDP
  • C=家計支出
  • G=政府支出(なお、これは現金給付を含まない)
  • I=企業投資支出(なお、これは生産活動に寄与する投資の事であり、金融投資を含まない)
  • X=輸出
  • M=輸入

この式だけを見ると、民間が支出すればするほどGDPが伸びる事となってしまう。しかしながら、この式は需要サイドだけを考慮している。実際には、工場やインフラの稼働限界や労働者の就労限界などが存在する。例えば、支出を無理矢理上げたとしても、工場の稼働率を100%以上にするなど不可能だ。道路では渋滞が起き、人材不足が発生する。これが供給側の制約となる。

しかし、経済が100%稼働した場合のGDPを計算する事は可能であり、これを潜在GDPと呼ぶ。潜在GDPは生産活動に必要な二つの要素、労働と資本(工場・インフラ)に生産性を掛けた値となる。これを式に表すと以下の通りとなる。

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  • Y=潜在所得(GDP)
  • A=全要素生産性
  • K=資本投入量
  • L=労働投入量
  • α=資本寄与度(生産に必要な資本の割合)

即ち、長期における、最大限達成可能なGDPは限られている事をこの式は示唆している。この限界を説明するのに使われるのが、支出側と供給側の事情を考慮した総需要・総供給モデルだ。この場合、物価は資源の奪い合いを示す指標であり、供給限界に近づくほど、消費者同士の競争が激化し、物価が上昇するのが確認できる。

供給限界による物価上昇を示すいい例が昨年のマスク市場だ。中国発祥の新型コロナウイルスの感染拡大防止の為にマスク着用が奨励され、需要が急増。供給限界に達したマスク市場は転売などにより価格が大幅に高騰し、市場に混乱を招いた。この状態は供給者側が生産能力を増強できるまで続き、供給制約問題を全世界に知らしめた。

これまでのの式で分かる事は、長期的にGDPを引き上げたい場合は、供給能力の拡大しかないと言う事だ。供給側GDPの式をもう一回見て頂くと、供給能力の引き上げは生産性の向上、設備投資などの資本投資、そして労働者の数を増やす、この3手しかない事となる。

しかし、労働投入量は人口によって左右される。人口を増やしてGDPを伸ばしても一人当たりGDPの成長には寄与しない。即ち、労働投入量の変化は基本的に生活水準向上には約立たない事が分かる。(ただし、女性や高齢者などこれまで労働市場から除外されていた人々が労働市場に参加する事による一人当たりGDP成長は認められる。)

労働とは違い、資本投資は労働者一人当たりの生産可能量を引き上げ、一人当たりGDPを伸ばす事となる。即ち、生活水準の向上には企業側の設備投資が欠かせない。しかし、ここで重要なのが限界効用と言う概念だ。単純に考えて、労働者の生産性を高める資本には限界がある事は明らかな筈だ。

例として、一般事務作業を行う会社員の事例を考えよう。元々紙面で表計算を行い、筆算で計算していてたとしよう

この場合、この会社員が紙一枚分の作業を行うのに有する時間は1時間と仮定する。この作業プロセスに資本は投入されてないので、資本はゼロとなる。逆に労働投入量は一時間だ。これから行う資本投入は毎回倍のコストがかかると仮定しよう。

ここに計算機(10円)を導入した場合、同じ紙の作業時間は30分となる。計算機と言う資本投入が行われあ事により、労働投入量が半減した。

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更にここへパソコンを使った表計算ソフト(20円)と言う資本を投入すれば、労働投入量は10分へ減る。

ここで更に自動化ソフト(40円)を導入する資本投資を行えば、労働投入量は更に5分までに減る事となる。

ただ、使ってるパソコンをより良い物へ変える資本投資(50円)を行えば、ラグや不具合などが若干減り、労働投入量を4分に減らせることができる。

この例では、倍の資本投入を毎回行っているにも拘らず、それによってもたらされる労働投入量の減少は、より高価な投資を行えば行うほど、リターンが低くなっている事がわかる。これは、資本投入の限界効用を示している。

Diminishing Marginal Utility - an overview | ScienceDirect Topics
資本投入量の限界効用(縦軸:リターン、横軸:資本投入量)

資本投入の限界効用は個人レベルでも、マクロレベルでも同様であり、資本投資は無限に行えば良いものではない事を示している。労働者当たりのGDPと資本の関係性は、資本投資量の寄与度乗と全要素生産性の積で求められる。これを式で表すと以下の通りとなる。

この式によって資本投資とGDPの関係性は明白となったが、そもそもの資本投資量が分からなければ意味が無い。しかし、一番最初の式で決定された消費=収入の原則を適用すれば;

収入(GDP)—家庭支出(C)—政府支出(I)=貯金量

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と言う事実が沸き上がってくる。即ち、資本投資量は貯金量と同じと言うことだ。結果的にこのような式が成立する。

  • S=預金
  • I=投資
  • Y=収入
  • Θ=預金率

最期に考慮すべきなのが資本の劣化だ。時間がたつにつれ劣化していく資本は交換されなければならないので、新たな資本投資から差し引かなければいけない。交換量の計算は毎年、資本生産性の劣化率を資本ストックと掛けた値として求められる。そして、純資本投資は新規投資マイナス交換量で求められるので以下の式が成立する。

  • ΔK=純資本投資
  • d=劣化率

経済構造と比べ、資本ストックが大きすぎる場合、純資本投資量はマイナスとなり、結果的に潜在GDP成長もマイナスとなる。逆に経済構造と比べ、資本ストックが小さすぎる場合、純資本投資量はプラスとなり、結果的に潜在GDP成長もプラスとなる。

しかし、新規資本投資量と資本劣化量が同一の場合、GDPは成長も低迷もせず、均衡点を保つ事となる。これは以下のモデルと見て頂くとよく理解しやすいかと思う。

このモデルはスロー・スワンモデルと言われ、資本と成長の関係性を示している。このモデルが何を示唆しているかは次回の記事で説明していきたいと思う。

次回:成長軌道と全要素生産性

シリーズ「経済のイロハ」特設ページ

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