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「市民連合」とは何か-野党共闘の影で暗躍する組織がもたらすものとは

 いよいよ衆議院解散総選挙が目前になったこの時期は、政局が一気に動き出す頃でもある。与党ではやはり自由民主党総裁選挙が、国民にとってトップクラスの関心事となっている。困るのは野党だ。

 国民の注目が自民党、しかも「選挙の顔」に注目するともなれば、野党の埋没は必至。存在感を少しでもアピールするべく、様々な動きが出ている。ある党は政策案を発表し、ある党はメディア露出を増やし、ある党は街頭活動を本格化させ、ある人達は新党結成に邁進する。

 そして、動いているのは政党ばかりではない。非政治家による政治組織が、選挙の上で極めて重要な役割を果たす場合があるのだ。そのうちの一つに「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合(以下:市民連合)」というものがある。

 今月に入ってから急速に進んだ解散政局の中でも、既に大きな動きを見せた。

立憲民主党、共産党、社民党、れいわ新選組の野党4党は8日、野党共闘を呼びかけている市民団体「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」(市民連合)との政策合意に調印した。2019年参院選では当時の立憲、国民民主、共産など野党5会派が市民連合と政策合意をしたが、政権選択を問う衆院選で野党第1党が加わるのは初めて。

野党4党、市民連合と政策合意 「コロナ禍に乗じた憲法改悪に反対」(朝日新聞デジタル) – Yahoo!ニュース

 本稿ではこの政策合意の内容と、そもそも市民連合とは一体何なのかについて、これまでの国政選挙で果たしてきた役割を中心に解説していく。

「野党共通政策」を提言した市民連合

 既に引用したとおり、9月8日に国会内で開かれた市民連合の会合には立憲民主党の枝野幸男代表、日本共産党の志位和夫委員長、社会民主党の福島瑞穂党首、れいわ新選組の山本太郎代表の4人が出席。市民連合が提言した「野党共通政策」に署名した。提言書は以下の通りである。

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提言の内容

 前段では、2012年以来続いてきた自民党の安倍政権・菅政権を「情報を隠蔽し、理性的な対話を拒否してきた」と断じた上で、「自公政権を倒し、新しい政治を実現することは、日本の世の中に道理と正義を回復するとともに、市民の命を守るために不可欠」とした。

 内容は「憲法に基づく政治の回復」「科学的知見に基づく新型コロナウイルス対策の強化」「格差と貧困を是正する」「地球環境を守るエネルギー転換と地域分散型経済システムへの移行」「ジェンダー視点に基づいた自由で公平な社会の実現」「権力の私物化を許さず、公平で党名な行政を実現する」の全6章に分かれている。

  「憲法に基づく政治の回復」 では、安全保障法制や特定秘密保護法などを廃止し「コロナ禍に乗じた憲法改悪に反対」としている。このことから、署名した各党は憲法改正に実質「反対」と見ていいだろう。また辺野古への普天間基地移設中止なども盛り込まれている。

関連記事:【憲法】「え?!〇〇党って改憲政党?!」国政政党の憲法に対する立場をまとめて解説

  「科学的知見に基づく新型コロナウイルス対策の強化」 では、「従来の医療削減方針を転換」した上での医療公衆衛生の整備を掲げ、エッセンシャルワーカーの待遇改善や財政支援などにも言及している。

  「格差と貧困を是正する」 では、前回総選挙における社会保障政策を発展的に盛り込み、「最低賃金の引き上げ」や「子育て世代や若者への支援拡充」のほか、「消費減税」を含む再分配強化が明記された。この提言に署名した政党のうち、れいわ新選組は従来から「消費減税を共通公約とする野党共闘」を掲げており、同党にとってはこの提言を持ってそれが実現したことになる。

  「地球環境を守るエネルギー転換と地域分散型経済システムへの移行」 では、再生可能エネルギーによる石炭火力と原発に頼らないエネルギー供給、食料安全保障の確保など、一次産業に関わる政策が包括的に盛り込まれた。

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  「ジェンダー視点に基づいた自由で公平な社会の実現」 では、選択的夫婦別姓やLGBT平等法の成立が掲げられたほか、性暴力根絶などのジェンダー平等に向けた施策、議員間男女同数化なども盛り込まれている。今後各党が擁立する候補予定者のジェンダー比にも注目だ。

  「権力の私物化を許さず、公平で党名な行政を実現する」 では、いわゆる「森友・加計・桜」の真相究明、日本学術会議の任命し直し、内閣人事局のあり方の見直しなどが記された。

 全体としては、これまで主に立憲民主党と日本共産党が折り合える政策として市民連合が提言したものが並んでいるが、「消費減税」はれいわ新選組に配慮されており、この一点に関しては画期的な内容だったと言えるだろう。4党はこれらを元に細部の政策を策定することになる。

 そして、この4党については当選者が1人に限定される小選挙区において候補者を1本化することが目指されていくことになると考えられる。特に立憲・共産・れいわの三党は多くの選挙区で候補予定者が並立しており、調整は難航が必至だ。

参加を見送った国民民主党

 一方、主要野党のうち参加を見送ったのは玉木雄一郎代表率いる国民民主党である。

国民民主党の矢田稚子(わかこ)副代表は8日の両院議員総会で、立憲民主、共産、社民、れいわ新選組の4野党が安全保障関連法廃止を求めるグループ「市民連合」の仲介で合意した次期衆院選の事実上の共通政策を締結しない方針を確認したと記者団に明らかにした。

国民民主、立共など4野党と衆院選共通政策締結せず – 産経ニュース

 玉木代表は「現実的な政策アプローチが必要だ」「中道保守までを包含するような幅広い(野党の)結集軸をつくらなければ選挙には勝てない」とし、別の国民幹部は「共産から日本維新の会を含めた大きな野党勢力で自民と戦うべきだ」としている。実は同様に野党である日本維新の会は、この提言に招待すらされていない。国民民主党からしてみれば、この提言に署名することで「野党共闘の幅を狭める」ということなのだろう。

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参照:どこゆく国民民主?野党共闘を離れ、独自候補擁立も模索:朝日新聞デジタル

 また榛葉賀津也幹事長は、東京・神奈川の小選挙区のうち、「立憲が他党に譲っている選挙区」で新たな候補擁立を決める方針を示した。これは、仮に「立憲・共産・社民・れいわ」の枠組みで共闘が行われて立憲民主党が候補を立てない選挙区があったとしても、国民はこの選挙区に立てるということで、この枠組を破壊することを意味する。

 国民民主党のこの「反共的」とも言える路線が党勢拡大につながるか否かは依然不透明だが、少なくとも前回参院選のように「なしくずしに署名し、骨抜きにする」という中途半端な対応よりはわかりやすいだろう。

関連記事:日本共産党は紛れもなく「全体主義政党」である。

「市民連合」とは -その歩み

きっかけは2016年参院選

 「市民連合」が結成されたのは2015年。翌年に控えていた参院選で、いわゆる1人区(衆議院小選挙区同様、当選者が1人になる選挙区)における野党候補の1本化を進めることを目的に、反政権側の学者・活動家や団体などによって結成された。

安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合、通称「市民連合」は、安保法制の廃止と立憲主義の回復、そして個人の尊厳を擁護する政治の実現を目指す、市民のプラットフォームです。

市民連合が生まれるきっかけは2015年の夏にありました。当時、安倍政権は平和主義の考えとは相入れない安保関連法案の成立を狙っていました。それに対して全国各地で、多くの市民が反対の声を上げていました。国会議事堂前には、10万人以上の人が足を運んだ日もありました。

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About | 市民連合

 既に安保法制が成立する前後のタイミングで民主党・維新の党・共産党・社民党・生活の党の枠組みによる選挙区調整は進められていたが、安全保障関連法の廃止、格差の解消、女性の尊厳と機会の保障、TPP 合意への反対、辺野古新基地建設の中止、原発に依存しない社会の実現などからなる「政策要望書」と題した共通政策を提言されたことで改めて民進党(民主・維新が合流)、共産党、社民党、生活の党の4党が参加し署名。結果として共産党が大半の候補者を下ろすことで、32の1人区全てで野党共闘が実現。このうち11議席を獲得した。

 以降、市民連合は「共通政策の提言」と「1人区および小選挙区の1本化」を主な内容として活動する組織となった。前者は本部が動くことで実現するが、後者はむしろ都道府県ごとや小選挙区ごとの支部が積極的に働きかけることで実現する場合が多かったのである。

早くも訪れた難所

 だが、活動の道のりはそう簡単ではなかった。16年参院選の時点で既に、大半の候補者を取り下げた政党は共産党だけだったにもかかわらず、共産党が強く求める「野党連合政権」の構想は頓挫。より踏み込んだ野党共闘を臨んでいたのである。

 結果として変化を迫られたのは民進党だった。共産党との共闘を嫌う民進党議員らが多数離党したことで、小池百合子東京都知事の新党「希望の党」は勢いづき、最終的に民進党の前原誠司代表は、自党の立候補予定者を希望の党に公認申請する形での合流を決定した。民進党の「共産党と協力するくらいなら」という答えだったのだろう。これにより、市民連合が要望していた政策は棚上げとなった。

 共産党は強気だった。社民党とともに希望の党を「自民党の補完勢力」と批判。「原則として全選挙区に候補を擁立する」としたのである。だが、民進党の中にも「希望の党には合流できない」とする人はいた。彼らは新党「立憲民主党」を結党し従来の野党共闘を模索。これを共産・社民は歓迎し、最終的にこの3党の枠組みでの部分的な共闘が行われることになった。この急な方針転換によって、共産党は直前まで擁立を内定していた候補を多数降ろさざるを得なかった。選挙は立憲民主党が大躍進した一方、共産党は議席を微減させる結果となった。

 一方で、この選挙によって希望の党は事実上壊滅状態に陥り、希望の党から立候補した代議士の中でも野党共闘は必須だという向きが強まった。

2019年参院選

 総選挙の2年後に行われた参院選では、立憲民主党、国民民主党(希望の党の事実上の後継政党)、共産党、社民党に加え、衆院会派「社会保障を立て直す国民会議」が13項目の共通政策を締結。16年の共通制作に加えて参院選後に実施されることになった消費税の引き上げ中止や、所得税や法人税などでの不公平税制の是正、原発ゼロが新たに盛り込まれ、「安倍政権下での改憲反対」がこれより明記されることになった。

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 選挙区調整でも前回同様32の選挙区で一本化が実現。この選挙ではより幅広い共闘の形として、一部の候補者の無所属での立候補に加え、各党が必ずしも推薦・支援を行わなかったパターンなどがあった。いずれにしても、候補者取り下げは市民連合の活動の賜物だろう。

 だが、この時に結ばれた共通政策は早くも破綻。選挙後に国民民主党の玉木代表は改憲論議に前向きな発言を行うなどの綻びも見られたのだ。

 とはいっても、2020年に行われた衆参補欠・再選挙でも各地域の市民連合支部が活動して野党候補者の一本化にこぎつけ、最終的に3つの選挙区で大勝するという結果も収めた。

市民連合を媒介とする野党共闘の展望

 以上のように、市民連合は「共通政策の策定」と「選挙区ごとの調整」を同時に行う「野党共闘の演出者」としての役割が強く、その活動も多岐にわたっている。またその共闘内容の多くが「共産党による候補取り下げ」であったことから、共産党との強いパイプも指摘されるところだろう。

 一方で、今回の政策調印で決定的に異なるのは「国民民主党の不参加」と「れいわ新選組の参加」だ。国民民主党に共闘を骨抜きにされることや、候補者調整作業の難航は避けられない。また日本維新の会も既に多数の擁立を決定している他、新党結成の動きもあるため政局自体が流動的だ。

 市民連合は確かに「野党の接着剤」の役割を果たしてきた部分があるだろう。現実「れいわ新選組」を、消費税減税によって引き込んだことの意義は小さくない。だが国民民主党の離反や維新との溝などは最早修復不可能なレベルであり、「左傾化」との批判は免れない。2016年以上に「選挙互助会」らしさが出ているのではないだろうか。

 国民の政権に対する不信感をどのように野党への期待に昇華するか、市民連合の意義が問われている。

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関連記事:【次期衆院選 議席予想】自公は議席減も過半数維持、立憲・150議席をうかがう。維新は3倍増へ

参考文献:中北浩爾『野党共闘への道―連合政権と選挙協力をめぐる日本共産党の模索

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